皆さんもご存じの通り、HFのホイップアンテナを自動車に取り付けて使う場合、アースを取る必要があります。
基本的にはアンテナ基台と自動車のボディを導通させてアースを取ります。
他の方法としては、アース板を自動車の屋根等に設置して、ホイップアンテナ等と組み合わせて使う方法もあります(俗に言う容量結合方式のアースですね)。今ではアンテナメーカーからマグネットアースシートを用いた良い製品が出ていますよね。基台とボディを接続させる必要はないため手軽な方法であり、マグネット基台等でもアースが取れるため、近頃はこの方法で運用する方も多いようです。
レンタカーを使った移動ではとても良い方法ですよね。
1/4λのような接地型アンテナは自動車のボディをアンテナの一部として使うため、基台と車体をしっかりと導通させてやることはもちろん、設置したアンテナが必要とするアース容量も確保してやることが大切です。
私も数年間、7MHzのセンターローディングホイップアンテナ(メーカー製)とマグネットアースシートの組み合わせで運用していました。
簡単にアースが取れてSWRも良好、回り込み等の発生もありませんでした。
当時はこんな簡単な方法でアースが取れて、ホイップアンテナが実用になる事に驚いたものです。
コンディションの良いときにはホイップアンテナということを感じさせないくらい電波が良く飛んでくれて、ほとんどがCWですが、2015・16年の2年間で約2000QSO位はできたと思います。
近頃は7MHzのコンディションが悪いことが増えたため、昨年3.5MHzの釣り竿アンテナ(空芯コイル式、全長約3.4m)を入手し、数回移動運用で使用してみました。
始めは写真のようにアルミ板を使った容量結合方式でアースを取りました。
電波は飛んでいるようでしたが(体感的にはメーカー製のホイップアンテナよりも飛んでいるような感じではありました)、アースの容量が足りなかったらしく、送信する度にパソコンのマウスポインターが勝手に動いたり、リグのSWRがフラフラするという回り込みが発生してしまいました。
アルミ板は300×400mmの割と大きめなものを使いましたが、釣竿アンテナでは影響が出てしまいました。
おそらく、3.5MHz用の市販のホイップアンテナではアース容量が十分で問題が起こらないレベルだったと思われます。
市販のホイップアンテナでは問題がないような状況でも、釣り竿アンテナのように輻射効率の高いアンテナでは問題が起きてしまうようでした。
アースの見直しを含めて対策をしなければと思っていましたが、無線のアクティビティーが低下し、そのままの状態になっていました。
ようやく今年の11月になって重い腰を上げて、釣り竿アンテナが使えるように対策を講じることにしました。
対策は以下の2点に絞って行いました。
①アース容量を増やす
②回り込みが起きにくい状態を作る
まず、①の対策ですが、自動車のボディをアースとして使う場合、なるべく金属面が広い方がいいわけです。
低い周波数(3.5MHzや1.9MHz)の場合は、アース容量も7MHzバンドから上の周波数よりもかなり多く必要となり、アース容量不足の影響がより強く出ます。
特に、小型車の場合は金属の面積が狭い場合が多く、単純に基台とボディをつないだだけでは良好なアースを確保することが難しい場合もあります。
この場合、ボディとボンネットやドアを導線で接続し、金属の面積を増やしてやることでアースの容量を増やすことができます。
これをボンディングと言います。
このボンディングはアース容量を増加させるのみならず、ノイズ対策にも有効な方法です。
私の無線車は軽自動車ですので、ボンディングによりアースの効果が上がることが期待できます。
では、具体的にどのような対策をするのか写真を交えてご紹介します。
・ボンネットと車体
私の場合、ボンネットに基台を取り付けましたので、基台から伸びる平網線をボンネットに接続、その後ボディへ接続しています。
網線は8sq、長さは50cmです。
この際、ボディの塗装はサンドペーパー等ではがし、金属面をしっかりと露出させることが必要です。
また、ボルトやナットの網線や圧着端子に触れる面に錆がある場合、錆を落とすことも重要です。
・前ドアと車体
前ドアと車体を平網線で接続しました。
網線は3.5sqだと思います。
・後ドアと車体
後ドアと車体を3.5sqの平網線で接続しました。この時、ボディに付いているヒンジのボルトが私の持っている工具では回らなかったため、取り付けは整備工場へお願いしました。
・ハッチバックドアと車体
ハッチバックドアとテールランプの留めネジが車体と導通しているようでしたので、3.5sqの平網線で接続しました。
ただ、アース線が長くなってしまったことで(網線の長さは60cm)高周波アースとしてきちんと効いているのかがちょっと不安です。
これでボンネット・前ドア2箇所・後ろドア2箇所・ハッチバックドアの計6箇所のボンディングを行ったことになります。
本当はハッチバックドアに基台を設置したかったのですが、ハッチバックドアではアース線が長くなってしまったことにより、良好なアースが取れていない可能性が高いため、ボンネットに設置することにしました。
この作業をするにあたり、大切なポイントがあります。
それは、
網線・ボルト・圧着端子とボディの金属面が接する部分に導電グリスを塗布する事です。
こちらに詳しい説明がありますが、導電グリスを塗布することにより、導通が良くなりアース効果が高まるようです。
私も全ての接触面に導電グリスを塗布しました。
これで車体に接続した自動車の金属面が安定したアース(高周波グランド)として働くようになります。
また、ボンディングに使う導線は平網線のような太いものを短く配線することが重要です。
平網線がない場合は被覆銅線でも大丈夫ですが、なるべく太いもの(できれば8sq以上のもの)を使うようにした方が良いでしょう。
細い線を使った場合はインピーダンスが十分に下がらずに、アースの効果が十分出ないことがあります。
なお、エンジンルーム内やマフラー等熱の出る部分には、被覆が溶けて思わぬトラブルが起こる可能性があるため、被覆銅線は使わない方がいいです。
熱がある場所にアースを取る場合は、面倒でも平網線を使うようにして下さい。
ボンディング作業終了後、試しに釣り竿アンテナで運用してみたところ、SWRは落ち、1.5の範囲はだいたい±15KHz位はありました。PCへの回り込みもなくなり、50W出力でも問題なく運用できるようになりました。
また、以前は車のエンジンをかけると点火プラグのノイズ(イグニッションノイズ)が出て7MHzから下はリグのNBを入れないと運用できない状態だったものが、エンジンをかけた状態でも3.5MHz帯にノイズがほとんどなくなり、NBを切った状態で運用できるようになりました。
これもボンディングをすることにより、エンジン内で発生するノイズを封じ込める形となり(ボンネットがシールド板の働きをする)、イグニッションノイズに対して効果が現れたものと考えられます。
近頃の移動運用では発電機を使う事が多い為、自動車のエンジンをかけた状態で運用するときは、イグニッションノイズは無線機のNBでしのげばいいや、と考えていましたが、これで発電機を使うのをためらうような場所や、発電機を持たないでフラッと移動したいときにもエンジンかけっぱなしで運用できます。
本当はバッテリー運用で騒音を出さないのがベストなのですが(^^;)。
以前よりは快適な環境で運用できるようになりましたし、移動運用の選択肢が増えました。
次に②の回り込み対策ですが、回り込みは主にアース不足とコモンモード電流により起こることが多いようですが、今回①の対策でアースの容量不足は解消されたものと思われますので、コモンモードフィルターを用いた対策(対策というよりも予防ですねhi)を行いました。
写真のように、大型のクランプコア(内径Φ19mm)に同軸ケーブルを5回巻き付けたものを2つ、4回巻き付けたものを1つ作りました。
なるべく無線機に近い場所に入れた方が効果が高そうなので、無線機側のコネクタのすぐ後に入れました。
特に3.5MHzなどの低い周波数で運用する場合は、クランプコアに巻き付ける回数が多い方が良いです。
はっきりとしたことは言えませんが、7MHzでは5~10回、3.5MHzでは15回くらい巻き付ければ実用的な効果があるものと思います。
なお、ケーブルはRG58/Uタイプで割と細めでしたので、クランプコアに巻く回数を多くすることができました。
こちらは比較実験をしていないので効果については何とも言えませんが、回り込みの予防には役立っているものと思います。
アンテナを取り付けた状態はこのようになります。
ルーフトップに取り付けるよりは低い位置になってしまいますが、コイルが屋根よりも上に出ている為、使ってみたところ影響は少ないのかな、と感じています。
市販のモービルホイップではあまりアースを意識しなくても使えていましたが、釣竿アンテナのような性能の高いアンテナの場合、アースを意識することが重要であることを改めて実感しました(空芯コイルを使ったアンテナを制作している某工房がボンディング、高周波アースの重要性を何度も説明している理由がよくわかりました)。
これから空芯コイルを使ったHF用のアンテナを車載で使ってみたいという方や、軽自動車でHFモービルをしているけれども、SWRが良く下がらない、回り込みがある、電波が思うように飛ばないと感じている方の参考になれば幸いです。
最後に、私のつたない長文をお読み頂き、有り難うございました。