駐車場のルーフも何年経っただろう。アルミのヒンジ部が弛んていた。前から気になっていたが忙しくて手当てをしていなかった。見るに見かねて、息子のUに手伝わせてヒンジ部にビス打ちをした。軽量鋼材の中にヒンジとして厚肉のアルミ合金が差し込まれ、13mmのボルト三本で固定されている。風の振動や通常は張り出し梁だからこの部分には大きなモーメントがかかる。薄い軽量鋼材は、ボルトの緩みによって、剪断がかかりひび割れた。これでは近いうちに壊れてしまう。電動ドリルで下穴を開け、本来ならタップを立ててねじ込むのがいいだろう。
しかし、狭い場所ではタップを立てるのは難しい、下穴を一段上げて、SUSのネジを航空機のビスのように打ち込むことにした。千鳥に配置して、押し抜き剪断に耐えるように、下穴を開ける。
バッテリータイプの電動ドリルでは不安定なので、常用電源のドリルを使う。ドリルの歯はピンキリだ。安いドリルの歯はおむすび型に穴が開かれていく、高価なドリルなら円形に開く。素人細工だからこのドリルで勝負しなければならない。4mmのビス打ちで3.2か3.5の下穴、小さければ締め付けトルクは大きくなるが合金を割ってしまうかもしれない、3.4ぐらいがいいのだが3.5しかない。それでも最初のヒンジは10本綺麗に打ち込めた。腕力もここで限界に達していた。
第二、第三の支柱にかかったが段々締め付け時間に時間がかかる。息子は手伝うが、こういう細かい仕事は無理。息子ながら不器用という分類に入る。なんとか、補強が終わった。弘法筆を選ばす。そんなことはない。弘法こそ筆を選ぶのだ。ネジは精密なものからラフなものまである。イタリアのバンデット管路のバンドを補強する帯に13クロムのネジを使った。ゴミひとつでトルクが変わる。機械は恐ろしく正直だ。
それに比べ、法面のアンカーボルトはネジと言われるレベルではない。ネジも本当にピンキリだ。医療用の微小ネジに至っては、どうやって溝を切るのか、今でも想像することさえできない。レールの締結の金メッキされたボルトはあの後取り替えるのだろうか。何千本のHTボルトを検査したことを思い出す。あの頃は数十メートルの足場の上で検査することができた。今なら、寄り付きもできない。
ボルトやネジ、螺旋を発明した人は本当に天才だ。そういえば「ネジ」を日本語に書くと「螺子」と螺旋の字が用いられている。まさしくネジだ。
話は長くなるが、2004年に田沢湖に買ったばかりの二代目の一眼レフデジタル写真機を持って取材に行ったことがある。その時の不慣れな辰子象が一枚残っていた。
辰子伝説は、日本で一番深い湖にある。「田沢湖のほとり神成村に辰子という名の娘が暮らしていた。辰子は類い希な美しい娘でだった。その美貌に自ら気付いた日を境に、いつの日か衰えていくであろうその若さと美しさを何とか保ちたいと願うようになり、辰子は観音様に、百夜の願掛けをした。必死の願いを聞き入れた観音様は山深い泉の在処を彼女に示し、泉の水を飲むように言ったという。辰子はお告げどおりその水を飲んだところ、激しい喉の渇きを覚え、いくら水を飲んでも渇きは激しくなった。そして辰子の姿は龍へかわってしまった」という。そんな伝説がある湖。もう十年前のことである。