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もうじき奥様との結婚を決めてからまた娘の夢ばかり見るようにな
った。
今さっきも眠くて昼寝していたのだが、ほんの一時間くらいの昼寝
でも娘が出現する。
正直、いくら諦めたと言っても、結婚が決まったからと言っても娘
が恋しくて仕方がないのには違いがない。
普段は忘れていても寝ると必ずと言っていいほど出てくるようにな
ってさみしい思いをさせるのだ。
月一回の娘からの非通知ワン切り電話は相変わらず律儀に掛かって
くるしたぶんだが娘も私のことは何かと忘れられなくているのだろ
う。
なんの脈略のない内容の夢の中にも娘がひょこっと現れるのだ。
もうじき奥様も、死んだお父さんの夢をしょっちゅう見るといって
いたからどうしても忘れる事のできない事と言うのは誰にでもある
のかもしれない。
人間背中に色々傷をつけながら生きていくものだけれど傷跡が大き
すぎるようだ。
もうじき奥様もそこのところは分かっているようだから何も言わな
いけれど、私ももうじき奥様にはそういう話はしないのであるけれ
ど、私が寝込むと「ああまた夢見たな」と思うらしいからバレバレ
なのだが仕方がない。
結婚という嬉しい行事が今迫っていても結婚してからでもこれだけ
は変わらないだろうと思う。
そのたびにさみしい思いをするのだがそれでそのたびにもうじき奥
様の前でふさぎ込んでいたらそれも失礼かと思うのでなるべく平生
を装っているが今とてもさみしい気分なのである。
どこで何をして暮らしているのかも分からない娘に私ができる事は
せめて幸せに暮らしていてくれる事を願う事だけなのだ。