世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

ヒノキ

2025-01-12 02:45:41 | 月夜の考古学・第3館

やさしさだけでは
なまぐさくなる
きびしさだけでは
むごくなる

光と影を左右のポケットに入れ
空に向かって敢然と額をあげ
行く手を見据えなさい
あなたにはしなければいけないことがある

一度や二度のつまずきに
とらわれていてはいけない
そこで学ぶべきことを学んだら
次にすすみなさい
あなたにはしなければいけないことがある

泥沼のような哀愁に
とらわれていてはいけない
愛は腐りやすいものだから
傷み始める前に解き放たなければならない
そしてあなたには
しなければいけないことがある

学び 悩み 考えなければならない
なぜ人は苦しむのか
なぜ人は過つのか
暗い苦悩の霧の向こうに
光る何かがあるはずだ
それをつかまなければならない

そのためにあなたは生きるのだ




(1997年ごろか)




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アオスジアゲハ

2025-01-09 02:47:15 | 月夜の考古学・第3館

 ガラスの家の中で
 秘めごとの罪を編んでいる君よ
 わたしは君の
 言い訳のくちびるが汚す
 風のよどみを清めに来た

 死に滅びた愛の姿を
 みいらのように乾かして粉砕し
 それを嫌みの火で炒り
 それを燃やした煙の快楽に眠り
 長々と夢に浸りながら
 老いてゆく君の魂に
 神の悲しみを伝えに来た




(2008年)





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光の中で

2025-01-07 02:57:13 | 月夜の考古学・第3館

ときおり
光の中で
木のように
立ち尽くしていると
叫びだすような喜びに
全身を貫かれてしまう
ことがある

沈黙の形に
閉じ込めてはいるけれど
魂はもう空を飛んでいる
微笑が 光の珠のように
瞳からこぼれ出て
声にならぬ愛の言葉が
私の全てを埋めて
あふれかえってしまう
何もかもを
だきしめてしまいたくなる

ああ
木々が
全てのことに耐えて
立ち尽くし
続けているのは
このせい だったのか と

ただ 立ち尽くしているだけで
風にそよぐ木々は
ふりそそぐ光を
私たちのための声に
変えているのだ と






(1997年ごろか)




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センダン

2025-01-04 03:00:39 | 月夜の考古学・第3館

なぜ幸せになれないんだろうと
思ってばかりいるのは
自分の幸せのことしか
考えていないからですよ

人は自分だけでは
幸せになれないのだから
まずは目を周りに広げて
もっとたくさんの幸せと
自分の幸せを
響き合わせてみるんです

鳥や虫や森や 世界や
振り向くとそばにいる誰かさん
もっともっとたくさんの人たち
そして神さまの幸せと
共にありたいと願うんですよ

最初は難しくても
少しずつやっていきなさい
我慢強くしていれば
そのうち何かが変わってゆく
体中から花咲くように喜びがあふれ出し
喉が割れそうなほど 熱い歌が響きだす
心の底が すっぽり抜けて
青空の中に落ちたと思ったら
目の前で神さまが笑っている

幸せはいつも
自分の中にあったのだと
そのとき初めてわかるんですよ



(1997年ごろか)




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レモン

2024-12-29 03:17:36 | 月夜の考古学・第3館

心を静かに整えて
欲を少なくしていましょう

美しい人よ
すえた我臭の泥沼に
身を浸してまで
その底で揺れる
琥珀の檸檬に
手を出してはいけません

あれは琥珀などではなく
沼にうつる金の木漏れ日

哀しみに全てを失ってしまう前に
瞳をあげ
あの空一面の
花の野をごらんなさい
沈黙の奥に折りたたんだ
あなたの水晶の心臓を
今 布のようにいっぱいに広げ
風の中に溶け込む
美しいこの星の香りに
さらしましょう

魂に風がとおり
心が澄みわたる
閉じ込められていた小鳥が
あなたの中で金の歌を歌いだす

あなたが求めていたものの
全てがそこにある



(1997年ごろか)




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めぐり逢い

2024-12-27 03:16:29 | 月夜の考古学・第3館

海の向こうから
虹がせりあがってくるのを
初めて見ました
星々は
天使の軍隊のように
歌いながら行進していました
真実とは
知るものではなく
満身に浴びるものだったのです

初めて出会ったのかと思うくらい
永い永い間
お会いしませんでしたね
わたしたちは ただ
目を閉じていただけだったのでしょうか





(1999年)





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ジャンヌ

2024-11-24 03:07:45 | 月夜の考古学・第3館

もう いいの
あれは 終わったこと
もう お互い
十分に苦しんだではないですか
忘れましょう
許しあいましょう

復讐を繰り返すことに
どんな意義があるというの?
人間にできる
最も偉大なことは
許しあい助け合うことでは
ないの?

あなたは すばらしい人
だからもう 自分を責めないで
花のように伸びて
あなた自身を咲かせなければ
神様から頂いた命を

過去
憎みあうことがあったとしても
私達はいつも
新しい明日を
生み出すことができるのよ
あれはもう終わったこと
たとえ傷痕があったとしても
それは私達の魂の物語の証し
とらわれてはいけないの
だから

成長することを
拒まないで
生きていくことに
ためらわないで

私達はみな同じ
神様から頂いた命



(2003年)





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詩のことば

2024-10-30 02:16:30 | 月夜の考古学・第3館

私の額のあたりには
小さな一脚の椅子がありまして
いつもは私がどっかりと
真ん中に座っているのですが
時々 後ろのドアがとんとんと鳴って
神さまがいらっしゃることがあるのです

そのとき私は椅子を立って
神さま どうぞお座りくださいと
申し上げます
すると神さまは
しばし私の椅子にお座りになって
私の手や眼や口をお使いになり
ご自分を表現なさいます

詩のことばは
そんな風にやってくるのです



(2004年)





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一日に一度は

2024-09-29 01:21:39 | 月夜の考古学・第3館

朝 風や光を入れるために
家の窓を開けるように
一日に一度は
目を 深く閉じて
神さまの顔を見よう
そして
霧の向こうに つないだ船を
たぐり寄せるように
本当の自分を 確かめよう

日々のあくたにまみれたまま
心を見捨ててしまわないために
一日に一度は
風に耳を浸し
花に耳を寄せて
神さまの歌を聞こう
岩の上で日を浴びる
トカゲのように
額をあげて
暖かく大きな光の中に
飛び込もう

一日に一度は
一日に一度は
神さまの前に立とう
鳥が翼をひらくように
大きく
心のカギを ひらいて



(2002年)




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海・6

2024-08-26 03:01:42 | 月夜の考古学・第3館

 それからどうなったのか、ふと目を覚ますと、床に、青いかけらが散らばっていました。それは魚の残骸でした。だけど店の中は、変わった様子はありませんでした。品物達もきちんといつもの棚の上に並んでいました。昨夜見た海は、あれは、夢だったのでしょうか?

「おい、き、君、死んだのかい?」

 おそるおそるぼくは言いました。と、絞りとるような微かな声が聞こえました。

「死んだのではない。脱ぎ捨てたのだ」

 それは旗魚の声でした。

「…わしは、やつのように、真摯に夢を信じることができなかった…。たとえかなわぬ夢でも、深い心の奥で信じて生きてさえいれば、それだけで、よかったのに…」

 そのとき、彼の青い透きとおった体の中に、細い光が走るのをぼくは見ました。それは、まるで生き物のような。微かな暖かい振動でした。



 ぼくの話はこれで終わりです。長い間聞いてくれてありがとう。

 そうそう、言い忘れてましたが、あのあとすぐ、旗魚は元客船の船長だという老紳士に買われていきました。
「こいつには、どこか、海がしみついている」
 紳士はそう言っていました。

 え? サビーネのことですか? 彼女は、あれから、もう何も話さなくなってしまいました。動かないし、しゃべりもしない、本当の品物になってしまったんです。ぼくは、彼女の気持ちがわかるような気がします。何もかもを忘れてしまわなければ、生きていけなかったのです。

 ねえ、あの青い魚は、いったい、どこに行ってしまったんでしょうね? ぼくは、彼が死んだなんて、とうてい思えないんです。遠いはるかな大海原のどこかで、木漏れ日のような水の中の光にまといつきながら、ひらひらと楽しげに泳いでいるような気がして、しょうがないんです。

(おわり)





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