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それから数日後、千秋はまた例の夢を見た。
灰色の部屋の真ん中で、千秋が積み木を積んでいると、背後から声がする。
振り向くと、またあの黒い人影がいた。
また言うんだな、と千秋は思った。約束を守る、ってこと……。
だが、そのとき人影が言ったのは、別の言葉だった。
「インターバル……」
インターバル? 千秋が聞き返すと、突然黒い人影が絹子の顔になった。
「おまえはね、インターバルで、悪いことをしたんだよ……」
なんのことよ、それ、と聞き返すと、絹子の顔は消え、また元の黒い人影になった。
「約束だよ」
人影は言った。
「おまえは、俺と約束をした。でももうだめだ。どうしてもいやなことになる……」
目を覚ますと、雨の音が聞こえた。
しばらくの間、千秋は身動きができなかった。全身がしびれたように冷たくなっている。何かの病気だろうか? いやそれとも、変な夢にあてられたのだろうか。
千秋はとなりで寝ている真夏を見た。いつものように、とんでもない寝相で、腹を出して眠っている。千秋はゆっくりと身を起こすと、また真夏のパジャマをなおし、腹にふとんをかけてやった。
寝床からそっと出て立ち上がると、少しめまいがした。頭の中がもやもやしている。インターバル…インターバル…、夢で聞いた絹子の声が、頭の中で繰り返された。
ばかばかしい、あんなのでたらめよ。おかあさんに一度注意してやらなくちゃ。変な宗教にはまって、大変なことにならないように。
ふすまをそっとあけて、隣の部屋に入ると、外から聞こえる雨の音が一層強くなった。ああ、今日は外で遊べないって、真夏が残念がるだろうな。千秋がそう思いながら、窓によると、ふと、背筋を冷気が上った。
「インターバル・・・・・・」
聞こえないはずの、声が聞こえた。振り向いてはいけない、と思うのに、千秋は振り向いた。するとそこに、あの黒い人影がいた。
悲鳴をあげたような気がした。だがそれは夢だったようだ。目を開けると、千秋はまだ寝床の中にいた。二度寝してしまったのだ。
目覚ましを見ると、千秋は小さな声をあげ、あわてて寝床から起き上がった。