キンモクセイの澄んだ香りが、風の中をただよってくると、もう秋も深まってきたと感じます。蝉の声でにぎやかだった夏は記憶の向こうに去り、だんだんと日も弱くなり、冬の予感が感覚の先端をなでてゆく。
11月になれば、きっと急に冷え込んで、冬のカーテンが開くでしょう。虫もいなくなり、花も少なくなり、冷たい冬を乗り越えるために、あらゆる生き物が準備をし始める。
だがこの花は言っているようです。さみしいのは、もうすぐ冬が来るからだけではない。もう二度と会えない友がいるからだ。
事態が進み、人類の進路がはっきりと見えてくるにつれ、かのじょが行ってしまったという現実が、彼女に心親しんでくれていた植物たちの胸を、悲しみでふさぐようなのです。
このキンモクセイの花も、どこか悲しみを帯びている。
今さらどうにもならない現実に、とやかく言っても何にもならない。だがいなくなった友達がどんなに頑張っていてくれたかが心に深く染み入った時、初めてわかることがある。
愛していたのだと。
もうすぐ冬が来る。冬は人間にも植物にも、悲しみを耐えていくための力をくれるでしょう。寒い試練を乗り越えてこそ、木も花も、人間の心も、強くなってくるのです。