波の上の“Here and Now”

あたかも乗りこなしている感じのするショットですが、サーフィンはこの夏が初体験でした。

今年の夏休みはタイのプーケットでのんびりと過ごしてきたのですが、滞在中に子供たちが現地で知り合った友達と一日中遊びまわるようになると、私たち親は時間を持て余していることが増えてきました。
そんな時に主人が「サーフィンでもやってみる？」と声をかけてきます。けれども、運動神経のなさでは幼少時からお墨付きだった私は躊躇。そんな私を見て主人は「ボードの上で太陽礼拝をやってるみたいだよ」とヨガネタを絡めてうまいこと誘い出そうとします。
そう言われると、どうにも興味が湧いてしまい、ほいほい付いていくことに。

1時間、日本円で3500円くらいのレッスンを受けることにしました。
砂浜にボードを置いて「最初はうつ伏せで、その次に１、２、３のタイミングでこうやって立ってね」という現地の青年のお手本の後、私も同じことを２回させられると、
「じゃ、海に入りましょう」の急展開。
「えっ？...あ、はい。」

内心「まさかこれだけで乗れるようになるのかな？こんなのがレッスンだったらぼったくりじゃないか。」などと騙された気分全開ながらも、そもそもサーフィンの予備知識が全くない私はそれ以上質問のしようもなく現地青年の後を追って海に入っていきました。


まず、次から次へと押し寄せる波に逆らって沖の方へ行くのが大変。この行程でかなりの体力を消耗するのだと学びました。
浅瀬を行ったり来たりしながらようやく初心者の波乗りポイントに到着。
「ボードに乗って」と言われるがままに乗ると、青年がボードの向きを浜辺の方へと回転させてくれます。彼の補助のおかげで私はあまり転倒せずに済みましたが、実は、この向きを変える際のバランス取りが難しい。回転途中に横から来た波にボードごとひっくり返されやすいので、波に乗る以前にこの場面で転落する人は浜から見ていても多かった。単にそこが初心者向けのビーチだっただけかもしれませんが。

やや緊張しながら待っているけれど、青年はボードを持ったままなかなか手を離しません。乗り易い波が来るまで見計らってくれているようです。
しばらくして「さぁ、乗って！」といきなり言われたのはちょうど集中力が途切れた時。不安定な心で不安定なボードの上に立ち上がるのは失敗に終わりました。

気を取り直して２回目のトライは、視点を前に定め、呼吸を整え、青年の合図に聴覚のすべてを傾けてスタンバイ。まさにヨガでいう「Here and Now（今ここ）」状態です。
「乗って！」
青年が手を離し、前へ滑り始めたボードの上で普段やっている太陽礼拝Bの中盤にある動きをしたら・・・乗れたーー！！
我ながら驚くべきバランスを保ったまま波打ち際まで乗り切りました。その間に興奮と共に抱いたのが「これが私！？」という思い。

「これは面白い！」味をしめた私は上機嫌で何度も何度もトライ。大きな波にざぶんとのまれてしまうことも、しょっぱい海水を飲んでしまうことも、なんだかとてつもなく楽しく感じられました。小さい子供が楽しい遊びを何度でも繰り返すように、私も童心に返っていたのだと思います。
そして、失敗するのはたいてい「どこらへんで降りるとカッコいいの？」などと余計なことを考えている時。ヨガでやらかしてしまう時と似ています。

これは４～５回目のトライ。ちょっとコツが掴めてきたところ。



終盤にはパドリングもやってみたのですが、意外なほどスピードが出ます。ボードにモーターが付いてるんじゃないかと錯覚してしまうほどの加速に最初は思わずおののきました。何事もそうですが、遠くから眺めているだけではわからないものですね。

あくまでも憶測にしか過ぎませんが、かつての私自身の運動能力ではこんな風に乗りこなせなかっただろうと考えると、ヨガによって培われた集中力、バランス感覚、スタミナ、敏捷性はただものじゃないなと思うわけです。


何千年もの歴史を持つと言われているヨガが近年になって世界中に広まったのは、1960年代に西洋のサーファーたちがこぞってインドにヨガを学びに行ったことがひとつの大きなきっかけだとされています。彼らはサーフィンとヨガとの間に通じる何かを見出していたのでした。例えば、アシュタンガヨガを最初にインドから持ち出した若かりし日のデヴィッド・ウィリアムス氏もサーファーでした。
そんな彼らが今や世界的なヨガ指導者となった背景を、知識だけではなく身体感覚で味わえたことがなんだか嬉しい体験となりました。



Namaste & Shalom
Nozomi