ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

東野圭吾『手紙』(毎日新聞社)

2009-05-29 13:01:02 | ときのまにまに
前半はちょっと退屈するが、第3章あたりから俄然盛り上がる。しかし、第1章と第2章をしっかり読んでおかないと、その面白さは半減する。強盗殺人という凶悪事件の犯人必ずしも極悪人ではない。当たり前のことであるが、この当たり前のことを当たり前のことと考えるのはなかなか難しい。まして、犯罪者の家族も犯罪者と思う差別意識も根強いものがある。
この小説では、犯罪人とその家族に対する世間の目は厳しさが、これでもか、これでもかというぐらい執拗に描かれている。この問題についての世間の人々の意識について、最後のあたりで登場する電器会社の平野社長の言葉には説得力がある。
この小説のクライマックスは、主人公直貴(獄中にいる犯罪者の弟)が被害者の家族を訪れる場面で、強盗殺人という犯罪の加害者と被害者とがどのようにして「和解するか」ということについて感動的に描かれている。獄中にいる兄と娑婆にいる弟とをつなぐほとんど唯一のコミュニケイションが「手紙」で、この「手紙」が持つ意味の変化は非常に面白い。
この作品は、東野圭吾のものとしては珍しく「推理小説的香り」が全くしない「心理劇」である。

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