ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

桜木安夫(中山弥弘)『句集 花すみれ』

2010-12-15 11:26:36 | ときのまにまに
先月、菊池黎明教会での礼拝後、信徒の中山さんから句集『花すみれ』を頂いきました。薄い紫色の装幀は美しく品があり、中山さんのお人柄を表しています。中山さんの先生筋にあたる杉村凡裁氏の序文によりますと、この句集は平成10年までの前句集『日照草』に続く第2句集で平成11年から平成20年までの約700句が収められているとのこと。中山さんが俳句を始められたのが65歳の時からとのことです。中山さんは現在85歳くらいだと思います。
頁をめくりますと、中山さんの日々を写す数葉の写真と共に美しい「スミレの花」の写真が収められています。ご本人によりますと、この写真を選び出すのが一苦労であったとのこと、確かにこの写真はきれいです。少しぼかした葉っぱに囲まれたシャープなスミレ花が見る者の目を奪います。この写真を選び出した人の心を感じます。
私は書名になっている「花すみれ」という言葉の響きの心地よさに、中山さんにお尋ねいたしました。「『花すみれ』という言葉は季語になっているのですか」。全く不躾な質問で、俳句や季語のことを全く知らないことを告白しているような質問でしたが、中山さんは親切に「単に『スミレ』というよりも『花すみれ』という方が響きがいいでしょう。「スミレの花」という言葉から転用です」との答えでした。確かにスミレは「花」によってスミレであり、「花のないスミレ」は、スミレとも思わないものです。しかも写真の方の説明には「スミレの花」とカタカナが用いられていますが、書名の方は「花すみれ」とひらがなが用いられて、そこに優しさが表現されています。仮にこれを漢字で「菫」と書くと非常に堅苦しくなります。ここら辺りの言語感覚には中山さんらしい「穏やかさ」が表現されています。

目に止まったいくつかの句を拾い出しておきましょう。

○ 障害を大事に生きるクリスマス (平成11年)
○ 太陽に安眠貰う布団干し (平成12年)
○ 心込め新茶に負けぬ古茶の味 (平成12年)
これらの句からは中山さんの穏やかな日々が感じられます。
○ 亡き妻に先ず供えけり彼岸団子 (平成11年)
○ 大根煮て振る舞ふ妻の笑顔かな (平成12年)
○ 秋なすびお宝女房ぬか味噌に (平成20年)
○ 亡き妻の若き写真へカーネーション (平成20年)
四季折々の食事に、亡き妻を思い出している中山さん。中山さんの中では奥さまは今も元気に生きておられます。「亡き妻と寄り添う夢や明易し」(平成14年)
○ 満月や心の闇に光射す (平成13年)
○ 花菜摘む乙女の赤き髪飾り (平成15年)
○ ベランダに籐椅子揺らし星仰ぐ (平成19年)
○ 朝霧やダイヤの粒を枝先に (平成21年)
これらの句を読んで中山さんがもう20年近く視力を完全に失っていると誰が信じることができるだろうか。中山さんはもう一つの目で現実をしっかり見ている。
○ 焼き芋屋白杖止めて並びけり (平成21年)
○ 手引かれて雛の間に入るおきなかな (平成21年)
○ 草の芽の萌えしか杖の音変はる (平成21年)
拾い出すと切りがないので、これぐらいで止めます。最後に中山さんにはこんな句もあります。
○ 終戦日餓死せし友を偲びをり (平成16年)

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