散文的で抒情的な、わたくしの意見

大河ドラマ、歴史小説、戦国時代のお話が中心です。

白い巨塔・感想その4・唐沢版について

2019年05月26日 | 白い巨塔
白い巨塔・岡田版の悪口を随分書いてきました。とくに脚本です。なんか違うなと思えるのです。

まずは鵜飼教授の設定が変なのかなと思います。唐沢版では白い巨塔の象徴として実にいやな演技をしてくれています。それが松重さんの場合は、なんかユーモラスです。俳優を責めているわけじゃなくて、この点が唐沢版と岡田版の脚本の違いの「キモ」のような気がします。

財前と里見の関係性も違います。お互い尊敬しあっている。そこが描かれていないというか、薄いですね。

里見の島流しを知っても、財前にあまり変化がありません。唐沢版だと実はとても気にしていると描かれます。

以下、基本唐沢版のお話です。

里見には部下もいます。部下というか医局員。佐々木蔵之介さんが演じる竹内です。ドライな人間で、大学病院の醜さも飲み込んでいる人間です。

里見が大学を去ると知って、散々悪態をつきます。先生のような馬鹿を受け入れてくれる次の病院などないとまで言います。

しかし最後にはこう言うのです。「やめないで欲しい。先生の代わりなどとてもできない」。里見のことを深く尊敬しているのです。

こういう具合に、表面的には批判をしていても、心の底では尊敬している。そういった人間関係が多く描かれます。

柳原の理解者もいます。亀山君子で西田尚美さんです。未婚という設定で、柳原とは多少恋仲でもあります。これが実に魅力的な女性であるし、最後の証言のカギを握る人物でもあります。岡田版だと原作に近いのか、既婚です。さほど柳原ともからみません。これは惜しいですね。

東教授のことも財前は実は尊敬しています。最後に自分の手術を頼む。まあこれは岡田版でもそうなるでしょうが、今までの描き方で、寺尾東教授は「手術執行の体力もない」となっているのです。大丈夫かなと思います。

財前は里見と対立し、しかしそれでも、一度は断った少女の手術を引受け、少女の命を救う。そんなヒューマンな面も描かれます。

里見は大学病院を去りますが、財前には彼を引き戻そうという計画もありました。しかし病に倒れます。

人間の描き方が重層的です。やはり半年ぐらいかけないと無理な作品なのかも知れません。

以下、唐沢版の雑感
・石坂浩二さんの東教授は、実に似合っている。
・矢田亜希子がまさにお嬢様だ。
・上川さんの関口弁護士、登場段階では詐欺師的なことをやっている。が、裁判で彼も更生する。
・伊藤英明と西田尚美の関係が非常に素敵である。

白い巨塔・感想・里見、僕に不安はないよ、、ただ無念だ 

2019年05月26日 | 白い巨塔
白い巨塔唐沢版には財前が里見に自らの診断を求めるシーンがでてきます。ドラマ史に残る名シーンです。

大学病院は財前の症状が末期であることを財前に対して隠します。しかし気がついた財前は別の病院にいる里見に診断を求めます。

里見「君の診断は正しかったよ。転移も起こっている。」
財前「それで余命は」
里見「長くて三ヶ月だろう」

里見「おれは君を助けたいんだ」
財前「おれは助からないよ」
里見「おれが君を助けたいんだ。君の不安を受け止めたいんだ」

ここでドラマ史に残る名セリフが。

「里見、ぼくに不安はないよ、、ただ、、すまん、、、ただ無念だ」

財前には里見と手を組んで「がんセンター」を運営していこうという構想がありました。

ただ単に「裁判に負けたから無念」というわけではないのです。財前は「白い巨塔の権化」ですが、批判も実は秘めており、見方によっては大学病院の体制「白い巨塔」「白い虚塔」に挑もうとしていたとも言えます。「見方によっては」です。

それが自らの死によってできなくなる。それが無念なのだと私は考えました。

最後の死のシーン。うなされるままに鵜飼教授を「出て行け」と怒鳴りつけ、手を上に伸ばす。その手を里見が握りしめます。鵜飼を突き飛ばして、握りしめるのです。

それを見た西田さん、財前又一は「みんな病室から出よう」と言います。財前と里見の強い絆を財前又一は実は知っていたわけです。東教授以下みんな去り、鵜飼も侮蔑の笑みをたたえて去ります。

鵜飼が象徴するものは、言うまでもなく「白い巨塔」「白い虚塔」です。財前は最後の最後に「白い巨塔」の象徴である鵜飼を拒否し、里見と手を握り合います。

唐沢版白い巨塔の録画を見直していますが、疲れます。自然と泣いてしまうし、胸が揺すぶられるし、感動で疲れるという状態になります。岡田版の感想はこちら

白い巨塔・第四夜・感想その3・大河内教授・岸部一徳の名演技

2019年05月26日 | 白い巨塔
第三夜までで「大河内教授・岸部一徳はミスキャスト」と書きましたが、前言撤回です。第四夜ではいい味だしてました。

そもそも「悪人ばっかり、善人の里見は弱い」というこのドラマにあって「強い善人」は大河内教授だけです。「救い」みたいな存在です。

ただ「善人」とも言い難いのです。研究者として医者として「ひたすら客観的」なわけです。

裁判で大学側に不利な証言をするのは里見も大河内も同じですが、大河内は責められません。教授だからでもありますが、大河内に「作為」がないからです。

証言はひたすら客観的で「わからないことはわからない。しかし財前が術前の全身状態に疑いがあるにもかかわらず、全身検査をしないで局所だけを手術したのであれば、注意義務を怠ったと言わざるを得ない」というのが主旨です。

過失とも言わず、注意義務怠りと言っています。

どっちにも偏らず、真実だけを追求しようという大河内を、あのクセが強い岸部一徳さんが、堂々と演じてなんの違和感もありませんでした。あの何考えているか分からない無表情が活きていました。

そして解剖を研究目的だという弁護士を、きっぱりと斬り捨て、医学を何もわかっていないと叱りつけます。

ミスキャストではなかった。岸部一徳はやはり名優でした。

白い巨塔・第四夜・感想その2・里見と柳原の過失

2019年05月26日 | 白い巨塔
この脚本だと「里見と柳原の過失のほうが目立ってしまう」と昨日書きました。☆他にも沢山書いています。

今回の白い巨塔には脚本家が三人います。どうやら僕が指摘している「矛盾」に誰かが気がついたようで、「作中で作中の設定をつっこむ」セリフが沢山でてきます。

まずはICUの医者が柳原に言います。

「こんなになるまで一体お前は何をやっていたんだ」

そして帰国した財前は柳原にこう言います。

「馬鹿の一つ覚えみたいに私のいうことを守らず、なぜ准教授の金井に相談しなかった。君は担当医として何をやっていたんだ」

その通りなわけです。柳原にはやるべきことがあったはずです。ドイツの財前にメールを送る。また准教授の金井に相談して肝臓の生検をやる。もっと早くICUに入れる。財前より上の鵜飼に相談する。

それが「絶対にできないほど財前に圧迫を受けていた」という伏線が「ない」のです。この脚本だと「柳原はそれができたはずだ」という感じになります。財前自身が柳原を「馬鹿みたいにだた俺の命令を守って失敗した」と言っているわけです。もっと柔軟に対応してくれたほうが財前にとっても良かったわけです。

柳原がそれをしないで忖度ばっかりだから、結局財前は「隠蔽」という悪の道に踏み込まざる得なくなります。

さらに里見について財前側の弁護士は言います。

「里見先生が肝臓を疑っていたのなら、なぜそれを家族に言わない。これは里見の過失ではないのか」

岸本加世子さんは「里見先生は親身になってくれました」と反論しますが、その反論では里見は守れません。里見が家族に言い、家族が強く肝臓の検査を求める。そうすれば結果は多少変わっていたはずです。

里見や柳原が悪いとか言ってるわけではありません。
この脚本だと「里見と柳原の過失の方が財前より大きく見える」と言っているのです。作中人物である柳原や里見を責めても意味ありません。脚本に矛盾が多いと言いたいわけです。

ネットでは柳原かわいそうという声が多い。「かわいそう」なのは「隠蔽を財前に強制される」からですが、そもそもその原因を作ったのは柳原ということにこの脚本だとなってしまいます。

柳原と里見はベストを尽くしたが、大学の体制と財前に行動を阻止された、となっていないのです。もちろん肝臓の病気がたとえわかったとしても「手術をした時点で既に手遅れ」なのですが、それにしても柳原の設定はどうも矛盾が多い気がします。

どうも三人の脚本家も気がついていたようで「作中で作品の矛盾をつっこむ」という変な事態になっていました。

もっとも、唐沢版では里見は裁判において「結局は財前の独断を許した自分と大学にも責任がある」と言っています。そこまで狙って「故意に里見と柳原の過失を強調した」なら、私の指摘は的外れということになります。

さらに書くと唐沢版でもこの点は似たり寄ったりです。財前の医療過誤とするなら、もう少し脚本に工夫が必要だと思います。



白い巨塔・第四夜・感想その1・夏帆がホラー

2019年05月26日 | 白い巨塔
この感想1は短く書きます。

第四夜、存在感のなかった夏帆が急にホラー的怖さをかもしだしていました。

あの女には子どもは産めない、だってあなたの妻ではないから。

そう言いながら赤ワインをグラスに注ぎ続けます。

沢尻対夏帆のバトル

沢尻も急に財前を批判したりして、黒木瞳にあった財前を包み込む母のような雰囲気を捨てています。

「変なところで脚本をいじくっている」というのが男である私の印象です。

もっとも唐沢版の記憶がふたしかです。たしか財前の死の前は妻から黒木瞳さんを呼び寄せて財前に合わせたと記憶しています。

妻対愛人に興味はありません。

しかし女性からしてみれば、これはこれで理解可能な、共感できる構図なのかも知れません。

でもあくまで男としても私の感想だと、「こんな構図はいらない」となります。

短い時間なんだから描くべきはそんな点じゃないだろと思います。感想2はこちらにあります。