私の中学は墓地の傍にあって、お決まりのように七不思議というのがありました。
ただし、ほとんど覚えていません。一つだけ覚えているのは、マネキンが動くというものです。
マネキンは新入生に制服を紹介する3月のみに使われて、あとは倉庫に置いてあるのです。
何故かその倉庫が「出入り自由」で(これの方が不思議です)、よく肝試しに見に行ったりしました。
ある日本当に動いた、ことになりました。本当は全く動いてないのですが、誰かが「動いた」といい、びっくりして逃げたのです。
逃げた、のが恥ずかしいので、みんなで「本当に動いたことにしよう」ということになり、一時学校が騒然となりました。我々の嘘によってです。
まあ平和でしたね。
「いじめ」も特にひどくはなかったし、不良グループはいましたが、なるべく接近しないようにしていれば何の被害もありませんでした。
不良って、少なくともあの頃は、一対一だと、特に暴力的でもないのです。「みんなの前」だと何故か虚勢を張ります。そういう習性を押さえていれば、被害を受けることはありませんでした。
それに親のおかげで私は腕力だけは強く、今も昔も小心者ですが、柔道大会などでは結構上に勝ち上がったりするものですから(柔道を左右する組手では腕力が大切なのです)、
普段は「勉強めがね」と思われていたようですが、不良も僕にやられたりしたら「みっともない」と思ったのでしょう、一切ちょっかいは出してきませんでした。
そのうちに3年になり、高校受験も終わり、その後の一カ月が「お気楽」というか、教師も授業に力は入れないし、遊びに学校に行ってたみたいなもんで、ああ平和だったなーと思います。
ただその一カ月で、今考えると不思議なことがありました。
担任からA子さんの「学校内家庭教師をしろ」と頼まれたことです。
A子さんは勉強が強烈に苦手で、「せめて漢字ぐらい読めるようにして卒業させてやってくれ」と担任が頼むのです。
僕より成績のいいやつはクラスに何人もいました。だから当然断ったのですが、担任に言わせると僕は「教え上手」なんだそうです。
まあそこは生意気でも中学生です。「ついおだでに乗って」、引き受けました。
「なんで分からないんだと怒らない」が条件で、今考えると、滅多に怒らない私の性格に担任が目をつけたのでしょう。
A子さんはずっと私の隣の席に座って、それで漢字を教えるのです。思春期といっても別に全ての女子に対して羞恥を持ったりはしないので、私は「厳格な教師」になって教えました。
そのうち、漢字を教えているだけでは「つまらない」と思い、期末テストの解説を始めたりしました。
するとA子さんが言うのです。「教師は間違えさせようとしていじわるでこんな問題を作ったに違いない」と。
それは「指示語が指し示す内容が、通常のように指示語の前にある、のではなく、指示語の後にある」という問題でした。まあ「いじわる」と言えばそうです。
A子さんはさらに言います。「こんないじわるな問題、分かるやつがいるわけない」と。
たぶん半分以上の生徒は正解していたと思います。私はA子さんにそのように言い「ちなみに僕も正解している、ほら」と解答用紙を見せました。
A子さんは虚空を眺めるような表情で僕を見て、そしてこう言ったのです。
「あんた、馬鹿じゃないの」
僕は「世の中にはいろいろな感性をもった面白い人間がいる」と思い、初めてA子さんに対して愛情というか、興味のようなものを持ちました。
なるほど、こんな「いじわる」な問題を正解したぐらいで「頭がいいだろ」と思っている人間の方が人としてレベルが低いのかも知れない。
むろん明確に言語化してそう思ったわけではないですが、なんとなくそんな気持ちになったのです。読書の毒を知った今となっては、ますますそのように感じます。
A子さんはきっと普通の奥さんになって、幸福な人生を送っていると思います。
ただし、ほとんど覚えていません。一つだけ覚えているのは、マネキンが動くというものです。
マネキンは新入生に制服を紹介する3月のみに使われて、あとは倉庫に置いてあるのです。
何故かその倉庫が「出入り自由」で(これの方が不思議です)、よく肝試しに見に行ったりしました。
ある日本当に動いた、ことになりました。本当は全く動いてないのですが、誰かが「動いた」といい、びっくりして逃げたのです。
逃げた、のが恥ずかしいので、みんなで「本当に動いたことにしよう」ということになり、一時学校が騒然となりました。我々の嘘によってです。
まあ平和でしたね。
「いじめ」も特にひどくはなかったし、不良グループはいましたが、なるべく接近しないようにしていれば何の被害もありませんでした。
不良って、少なくともあの頃は、一対一だと、特に暴力的でもないのです。「みんなの前」だと何故か虚勢を張ります。そういう習性を押さえていれば、被害を受けることはありませんでした。
それに親のおかげで私は腕力だけは強く、今も昔も小心者ですが、柔道大会などでは結構上に勝ち上がったりするものですから(柔道を左右する組手では腕力が大切なのです)、
普段は「勉強めがね」と思われていたようですが、不良も僕にやられたりしたら「みっともない」と思ったのでしょう、一切ちょっかいは出してきませんでした。
そのうちに3年になり、高校受験も終わり、その後の一カ月が「お気楽」というか、教師も授業に力は入れないし、遊びに学校に行ってたみたいなもんで、ああ平和だったなーと思います。
ただその一カ月で、今考えると不思議なことがありました。
担任からA子さんの「学校内家庭教師をしろ」と頼まれたことです。
A子さんは勉強が強烈に苦手で、「せめて漢字ぐらい読めるようにして卒業させてやってくれ」と担任が頼むのです。
僕より成績のいいやつはクラスに何人もいました。だから当然断ったのですが、担任に言わせると僕は「教え上手」なんだそうです。
まあそこは生意気でも中学生です。「ついおだでに乗って」、引き受けました。
「なんで分からないんだと怒らない」が条件で、今考えると、滅多に怒らない私の性格に担任が目をつけたのでしょう。
A子さんはずっと私の隣の席に座って、それで漢字を教えるのです。思春期といっても別に全ての女子に対して羞恥を持ったりはしないので、私は「厳格な教師」になって教えました。
そのうち、漢字を教えているだけでは「つまらない」と思い、期末テストの解説を始めたりしました。
するとA子さんが言うのです。「教師は間違えさせようとしていじわるでこんな問題を作ったに違いない」と。
それは「指示語が指し示す内容が、通常のように指示語の前にある、のではなく、指示語の後にある」という問題でした。まあ「いじわる」と言えばそうです。
A子さんはさらに言います。「こんないじわるな問題、分かるやつがいるわけない」と。
たぶん半分以上の生徒は正解していたと思います。私はA子さんにそのように言い「ちなみに僕も正解している、ほら」と解答用紙を見せました。
A子さんは虚空を眺めるような表情で僕を見て、そしてこう言ったのです。
「あんた、馬鹿じゃないの」
僕は「世の中にはいろいろな感性をもった面白い人間がいる」と思い、初めてA子さんに対して愛情というか、興味のようなものを持ちました。
なるほど、こんな「いじわる」な問題を正解したぐらいで「頭がいいだろ」と思っている人間の方が人としてレベルが低いのかも知れない。
むろん明確に言語化してそう思ったわけではないですが、なんとなくそんな気持ちになったのです。読書の毒を知った今となっては、ますますそのように感じます。
A子さんはきっと普通の奥さんになって、幸福な人生を送っていると思います。
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