唯物論者

唯物論の再構築

数理労働価値(第二章:資本蓄積(3)不変資本を媒介にした可変資本減資)

2023-07-22 13:12:24 | 資本論の見直し

(5c)不変資本を媒介にした拡大再生産(可変資本減資)

 蓄積資本を不変資本に充填した場合の拡大再生産では、とりあえず充填する自部門の可変資本の代わりに、不変資本を生産する他部門が登場する。この他部門は先に示した部門の三者相関を四者相関に変える。この生産財転換モデルでも資本回転終了時に、資本財部門可変資本の搾取部分が、そのまま資本財部門の蓄積資本として滞留する。しかしここでの増資は不変資本を充填するだけなので、可変資本は増大せず、可変資本からの搾取部分も増大しない。ところがここで増資した不変資本は、一方で可変資本を増強し、他方で可変資本を削減して、特別剰余価値を第三部門経由で取得する。しかしその特別剰余価値の大きさは一定したものではなく、また連続する資本回転において持続して同じ大きさを持つものでもない。とは言えその出所が同業他社にあるなら、その生産財転換モデルも部門の四者相関から五者相関により表現可能となる。これから示す不変資本導入での生産財転換モデルでも、不変資本による生産増をt倍と捉え、不変資本導入部門における特別剰余価値の生成を表現可能である。しかし需要増の無い状態での生産増は、需要を超えた分に売れ残りを生む。そしてその需要を超えた売れ残りは、不変資本導入部門と不変資本非導入部門の間で共有される。この場合に両部門において生産財に特異な差異を前提しなれば、それぞれの生産財は均等に生産量が売れ残る。このときに不変資本導入部門における特別剰余価値も、同様に目減りする。しかもその売れ残りは、割合が均等であっても、不変資本導入部門の側で量的に大きい。そこに生じる原料消費財の無駄は、むしろ不変資本導入部門の負担となる。しかしこのような売れ残りを前提した生産増は、そもそも非効率である。その非効率を避けるなら、むしろ不変資本稼働率を下げてでも可変資本を減量し、その減資により特別剰余価値を得るべきである。そこで以下ではまず、可変資本減資により不変資本導入部門が特別剰余価値を得る生産財転換モデルを確認する。


(5c1)不変資本による可変資本減資モデル

 以下の生産財転換モデルでは、生産増なしに可変資本を減資し、その減資割合すなわち可変資本減資率を、不変資本による生産増割合の逆数1/tで表現する。それゆえに資本財部門が不変資本生産に割り当てる消費財∮fと労働力∮kは、∮f+∮wの追加資本分と等しくなる。すなわち∮f+∮k=m(∮f+∮w)である。なおここでは簡略化のために、消費財部門と資本財部門用の資本財部門における剰余価値の生産の記載を排除している。また期首における不変資本導入部門と不変資本導入非部門の可変資本規模を同一に想定する。ちなみに上記(5)の記載を並記すれば五者相関の生産財転換モデルを表現できるが、ここでは割愛した。

[資本財交換における生産財転換モデル7] ※∮gXは価値形態の∮X。


[資本財交換における生産財転換モデルでの商取引7]※▼:出力、△:入力、なお∮gXは価値形態の∮X。


上記資本回転モデルは、資本財第二部門から第三部門に財移転する部分に不自然な表現を含む。それは資本財第二部門における資本財∮w/tが、第三部門において資本財∮wとして受け取られる部分である。これまでの資本回転モデルは、表現として∮wを資本財数量として扱ってきた。それゆえに資本財としての∮w/tも、資本財数量としての∮w/tとなるべきである。ところがここでの資本財∮w/tは、資本財第二部門における可変資本量でもある。すなわち資本財第二部門における供給資本財∮wは、同時に供給可変資本∮w/tになっている。そしてそれを受け取る資本財第二部門にとってもその供給可変資本∮w/tは、需要不変資本∮wであり、実際に需要資本財∮wである。ここには投下労働力としての価値量∮w/tに対して、資本財数量としての∮wを同一視する非合理がある。そしてその差額が、資本財第二部門に財代金 (1-1/t)∮wとして現れる。ここでの数量表現の非合理は、そのままこの差額の不当性を表現する。しかしここでの投下労働力量∮w/tと資本財数量∮wは、実際に両方とも価値量である。ただしその前者は物財交換前の引き渡しの投下価値量であり、後者は交換後の受取の収益価値量である。つまりそれは、数量の等価交換で偽装した価値の不等価交換である。


(5c2)不変資本が省力する可変資本の内訳

 上記(5)(5c1)に示した資本の拡大再生産は、資本財生産を可変資本増資に割り当てた規模で、蓄積資本を不変資本に増資したときの、各増資パターンでの資本回転の差異を示す。二つの資本回転モデルにおける資本財部門の総資本の差異をまとめると次のようになる。

[蓄積資本の充填対象に対応する資本財部門総資本7] ※みなし差分は∮f+∮k=m(∮f+∮w)に扱ったときの差分


この形態の不変資本増資の場合、資本財部門の可変資本において、可変資本増資と比べて∮w(t-1)/tの差分が現れる。この差分がプラスとなる限り、すなわち可変資本の生産増がt>1となる限り、不変資本増資はその減資割合に相応する可変資本を不要化する。そしてこの差分はそのまま、不変資本増資による増資利益となる。しかしこの増資利益は、可変資本増資における増資利益と違い、経費の一過的な削減効果に留まる。とは言えその一過的利益が、可変資本増資における増資利益を大きく上回るなら、その増資利益は資本財部門の部門支配者に対し、不変資本増資を決断させると見込める。一方でこの∮w(t-1)/tの差分は、不変資本増資(∮f+∮k)をm(∮f+∮w)に扱ったときのみなし差分に従う。そのようなみなし扱いをしない資本財部門の可変資本の差分値は、必要消費財部分の差分(m∮f-∮f)と必要資本財部分の差分((1+m-1/t)∮w-∮k)の合算値である。ここでの利益増は、両方の差分増が実現する。そしてその差分は、m∮fと∮w(1+m)の増加、および∮fと∮w/tと∮kの減少により増大する。ただし∮fと∮wを所与とするなら、増加を期待される項はmである。それは単純に剰余価値率の増大を表現する。それは可変資本増資の利益増大でも同じ役割を果たしているので、不変資本増資に固有な利益増大要因ではない。これに対して減少可能なのは、不変資本生産に必要な消費財∮fと資本財∮k、および可変資本減資率1/tである。それは一方で導入不変資本価値の減少であり、他方で導入不変資本の生産増割合の増加である。さしあたりそれらは、単純に安い仕入れと高い売り上げが利益を増大させると言う当たり前の結論を表現する。とは言え逆にそれは、上記要領での生産増なしの可変資本減資ケースではなく、可変資本減資なしの生産増加でも、不変資本増資が生産部門に利益をもたらす可能性を示す。ただしその利益は、生産増に対する需要上限の制約緩和を前提する。もし需要上限の制約が緩和されないのであれば、不変資本増資と可変資本減資は実質的に同義である。


(5c3)蓄積資本の転化形態の差異がもたらす影響

 資本の拡大再生産は、蓄積資本が可変資本と不変資本のどちらに転化する場合でも可能である。もし生産部門の拡大再生産が可変資本の追加導入に踏み切れば、資本主義におけるマルクス式諸困難は抑止される。それは失業者に職を与え、労働力需要を増大させる。この場合に労働者の生活は、少なくとも最低限の人間生活を実現する。逆に生産部門の拡大再生産が不変資本の追加導入に踏み切ると、資本主義におけるマルクス式諸困難が発生する。それは労働者から職を奪い、産業予備軍を醸成する。それがもたらす労働力需要の減少は、労働者を人間以下の生活に投げ込む。そして部門支配者の私的利益から見ても、資本の拡大再生産は不変資本を媒介にすべきである。それと言うのも、部門支配者は他部門から魔法の杖の如くに不変資本を導入し、その導入実績を自らの成果として喧伝できる。そしてその喧伝において部門支配者は、導入した不変資本と増大資産を私物化できるからである。もちろんそのような選択的優位から言えば、資本主義の未来は労働者が貧困に喘ぐ暗い世界である。しかし現状の先進国社会は、必ずしもそのような暗澹たる世界になっていない。このことは蓄積資本が不変資本に転化するだけでなく、可変資本に同時進行で転化しているのを示す。そしてこのことは逆に、蓄積資本が可変資本に転化するだけだと資本の拡大再生産が実現しないのを示す。それと言うのも、蓄積資本の可変資本への転化は労働需要を増大させるが、労働力供給がそれに対応して増大し得ないからである。つまり資本主義における資本の拡大再生産は、蓄積資本の可変資本への転化、および蓄積資本の不変資本への転化の両方が、車の両輪のように実施されて初めて円滑に実現する。ただし資本主義におけるマルクス式諸困難は、この車の両輪のパランスだけで抑止されるものでもない。生産部門の拡大再生産が前提するのは需要の増大であり、需要上限の制約緩和である。そしてその需要上限を緩和するためには、部門支配者が貯めこむ蓄積資本を、資金運用のように元本以上の増大供給を伴う疑似消費ではなく、実際に消費する諸個人の実需要に向かわせる必要がある。そのような実需要は部門全体の普遍的利益に転じるが、それは相変わらず部門支配者の私的利益に対立する。
(2023/07/22)

続く⇒第二章(4)不変資本を媒介にした可変資本増強   前の記事⇒第二章(2)拡大再生産

数理労働価値
  序論:労働価値論の原理
      (1)生体における供給と消費
      (2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
      (3)供給と消費の一般式
      (4)分業と階級分離
  1章 基本モデル
      (1)消費財生産モデル
      (2)生産と消費の不均衡
      (3)消費財増大の価値に対する一時的影響
      (4)価値単位としての労働力
      (5)商業
      (6)統括労働
      (7)剰余価値
      (8)消費財生産数変化の実数値モデル
      (9)上記表の式変形の注記
  2章 資本蓄積
      (1)生産財転換モデル
      (2)拡大再生産
      (3)不変資本を媒介にした可変資本減資
      (4)不変資本を媒介にした可変資本増強
      (5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
      (6)独占財の価値法則
      (7)生産財転換の実数値モデル
      (8)生産財転換の実数値モデル2
  3章 金融資本
      (1)金融資本と利子
      (2)差額略取の実体化
      (3)労働力商品の資源化
      (4)価格構成における剰余価値の変動
      (5)(C+V)と(C+V+M)
      (6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
  4章 生産要素表
      (1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
      (2)不変資本導入と生産規模拡大
      (3)生産拡大における生産要素の遷移


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