(3c)価値単位としての労働力
労働力はそれ自身が価値単位であり、自らを基準にしてそれより大きくも小さくもならない。このことは上記で示したように、生産性向上が消費財の単位価値を下落させる形で実現する。この下落を根拠づけるのは、労働力が自らの生産消費財により生活することにある。一日の労働力は、一日に自ら生産した消費財を一日に必要な消費財と交換し、自らの一日の生を継続する。生産した消費財の価値は一日の労働力と等しく、交換される必要消費財の価値も一日の労働力と等しい。そうでなければ消費財を交換する理由は、交換に有利な一方の側に生じるだけで、交換に不利な他方の側に生じない。または我慢をして交換を試みても、恒常的な損失を通じて交換に不利な側が時間をかけて壊滅する。それゆえに等価交換は、消費財交換の理由であると同時に前提になっている。このことは、逆に何らかの事情により生産性が下落したときの、消費財単位価値の高騰を根拠づける。一方で単位価値量を基礎づけるのが生活単位Nmであり、それが労働力の最低限の人間生活であるなら、人数Mに対して労働力LをいちいちNmのM倍と表現してきた上記の表記は、無駄に表現重複してきたことになる。単位価値Nmは、その具体的数値の差異を除けば、通貨単位のドルや円と同等である。つまりそれは日割人数でしかない。すなわちLは消費財消費量であり、それは単位価値Nmの部門人数M倍に等しい。それゆえに人数Mと労働力L(=Nm・M)の記載を労働力Lとして一元表記して人数Mの記載を省略すると、先の表6も次のように少し簡略化する。
≪表6a:一部門の一部の生産性向上により変化する消費財生産数の2a≫
(3d)余剰労働力への対応
上記表6aは、表5に追加で消費財単位価値を上乗せしたものである。それを上乗せるのは、余剰消費財(=廃棄消費財)に対応する労働力を維持するためである。それゆえにこの上乗せは、生産性向上の有無に関わらず該当部門内の生産者の生活を保証する。したがって余剰労働力の生活も、その無益に終わる労働と無関係に部門が支える。一方で生産性向上の有無に関わらず生産者の手元には、部門内占有率に対応した余剰消費財が残る。余剰消費財は余剰であるゆえにその単位価値はゼロである。もしかしたらその廃棄作業があるので、その単位価値は逆に余計な労働力負担さえ必要とする。しかしこの余剰消費財は、今では生産性向上の有無に関わらず必ず生じる。そしてその限りで消費財単位価値にも常に減少圧力が生じる。生産者がこの減少圧力を回避する方策は二通りある。一つは部門における余剰消費財に対応する余剰労働力の排出であり、もう一つは生産消費財の質向上への余剰労働力の注力である。ただし余剰労働力は、他部門にとっても余剰労働力である。それゆえに余剰労働力は、部門からの排出圧力にさらされるとしても、やはり部門から排出され得ない。
(3d1)余剰労働力の排出に伴う部門分裂
余剰労働力が部門から排出され得ない事情は、生産者に余剰消費財に対応する余剰労働力を、生産消費財の質向上に振り向けさせる。生産消費財の質向上は、余剰消費財を数量的に減少する。それは生産性向上に乗り遅れた生産者の、生産性向上を果たした生産者への対抗策でもある。そしてこの減少により消費財生産量が消費財必要量と同数になれば、消費財単位価値は投下労働力に見合う値に収まる。またそれまでは、生産消費財の質向上が進む。一方でこの余剰労働力が尽力する労働は、それ自身が消費財である。それは部門内で消費財の直接生産に関与する労働かもしれないし、間接的に関与する労働かもしれない。間接生産労働力は、それ自身が部門の消費財生産に寄与する道具であり、その生産消費財もまた道具である。しかしそれらは、部門が為す消費財と異なる。そして直接生産労働力と間接生産労働力は、部門内で区別されない。しかしその余剰労働力が部門から自立すれば、該当部門の余剰労働力は減少する。つまりそれは該当部門において、余剰労働力の排出を実現する。それにより余剰労働力は、部門の消費財生産のための間接作業に特化し、そのサービス部門に自らを外化させる。それは一方に該当部門を統括する支配層を生み、他方に消費財生産のための道具または資源生産部位を生む。この中で分化した生産消費財の交換労働は、商業部位として現れる。それらはいずれも、元は部門内労働力の特定部位である。それらの自立を阻んだのは、余剰消費財の交換不能である。しかし商業部位の部門分離がその困難を解消すると、それを契機にしてそれぞれ別部門に分裂する。
(3d2)消費財生産のための部門内支援労働
部門において形式的なサービス労働は、もともと部門の消費財生産が内包していた支援労働と道具生産労働である。それは生活を保証された余剰労働として生産消費財の運搬や保管を担い、消費財生産のための道具および道具の原材料の収得を果たしてきた。ここで余剰労働が収得する道具および道具の原材料は、余剰労働力にとって自らが部門の生活提供を得るための媒介である。それらの道具及び道具の原材料は、余剰労働力にとって姿形を変えた部門の生産消費財である。一方で該当部門にとって余剰労働が収得する道具および道具の原材料は、該当部門の生産消費財と異なる他部門の生産消費財である。この見え方のずれは、余剰労働が部門内に閉じ込められ、部門が余剰労働力に生活を提供する限り露見しない。このことは道具および道具の原材料の収得に限らず、生産消費財の運搬や保管などの支援労働の全てに該当する。そして同じことは、後述の統括労働にも該当する。しかしいずれにおいてもサービス労働が余剰労働として存在する限り、余剰労働力は所属部門の生活提供を受けるだけに留まる。もし彼らが所属部門から生活提供ではなく生産消費財を受け取るとしても、それは該当部門の余剰消費財である。しかし余剰消費財は、交換不能に終わった消費財である。そして交換不能な消費財は、余剰労働力にとっても消費不能である。一方で部門においてこの困難な事情から自由な支援労働が存在する。それは自部門の生産消費財を他部門の生産消費財と交換する労働である。この支援労働は、商業としてまず元の生産部門から分離する。
(2023/03/31)
続く⇒第一章(5)商業 前の記事⇒第一章(3)消費財量増大の価値に対する一時的影響
数理労働価値
序論:労働価値論の原理
(1)生体における供給と消費
(2)過去に対する現在の初期劣位の逆転
(3)供給と消費の一般式
(4)分業と階級分離
1章 基本モデル
(1)消費財生産モデル
(2)生産と消費の不均衡
(3)消費財増大の価値に対する一時的影響
(4)価値単位としての労働力
(5)商業
(6)統括労働
(7)剰余価値
(8)消費財生産数変化の実数値モデル
(9)上記表の式変形の注記
2章 資本蓄積
(1)生産財転換モデル
(2)拡大再生産
(3)不変資本を媒介にした可変資本減資
(4)不変資本を媒介にした可変資本増強
(5)不変資本による剰余価値生産の質的増大
(6)独占財の価値法則
(7)生産財転換の実数値モデル
(8)生産財転換の実数値モデル2
3章 金融資本
(1)金融資本と利子
(2)差額略取の実体化
(3)労働力商品の資源化
(4)価格構成における剰余価値の変動
(5)(C+V)と(C+V+M)
(6)金融資本における生産財転換の実数値モデル
4章 生産要素表
(1)剰余生産物搾取による純生産物の生成
(2)不変資本導入と生産規模拡大
(3)生産拡大における生産要素の遷移
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