■「第29回豊築将棋名人戦」結果-NO.12(平成20年3月23日:福岡県吉富町「吉富亭」)

★「第２９回豊築将棋名人戦」結果－ＮＯ．１２
　［自戦解説］Ｓ級決勝　▲山由太郎　対　△早咲誠和（第１譜～第５譜）
　（平成２０年３月２３日:福岡県吉富町「吉富亭」）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　自戦解説：山由太郎

＜Ｓ級第４Ｒ……決勝＞
▲山由太郎
△早咲誠和

（左）山　（右）早咲

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＝第１譜＝

▲２六歩　　△３四歩　　 ▲７六歩　　△３二金　　 ▲２五歩　　△８八角成　 ▲同　銀　　△２二銀　　 ▲１六歩　　△１四歩（第１図）　　 ▲３八銀　　△３三銀　　 ▲３六歩　　△４四歩　　 ▲３七銀　　△４二飛（第２図）

●戦形の確定 　僕にとって、待ちに待った対局が始 まりました。初手は決めていたので、 迷わず▲２六歩と突きました。そし て、早咲さんはいつもの通り少考して △３四歩。▲７六歩△３二金▲２五歩 △８八角成▲同銀△２二銀▲１六歩△ １四歩（第１図）と進行しましたが、 僕にとって△１四歩はちょっと意外で した。 　僕はその△１四歩に応えて早繰り銀 を選択し、▲３八銀△３三銀▲３六歩 △４四歩▲３七銀と進みました。そし て、早咲さんの応手は△４二飛。飛車 を振ることで、僕が攻める場所と反対 方向に玉を囲い、僕の攻めを間接的に 緩和する指し方です。早くも、僕の頭 の中ではデータがなくなり力戦形に なってしまいました。ここからは、自 分で考えなければなりません。

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＝第２譜＝

▲６八玉　　△６二玉　　 ▲７八玉　　△７二玉　　 ▲９六歩　　△８二玉　　 ▲９五歩　　△９二香　　 ▲８六歩　　△９一玉　　 ▲８七銀　　△８二銀　　 ▲８八玉　　△７一金　　 ▲７八金（第３図）

●構想 　▲６八玉△６二玉▲７八玉△７二玉 ▲９六歩△８二玉。お互い玉を囲い合 いましたが、▲９六歩のところは個人 的にかなり迷いました。初めは▲７七 銀～▲８八玉～▲９八香と穴熊にする 予定でしたが、その後の展開で千日手 模様になったときに自分から打開する 展開が見えなかったからです。せっか くの先手番だったので序盤の千日手だ けは避けるようにしていました。 　ということで、▲９六歩はバランス 重視の銀冠にしようということです。 △８二玉▲９五歩△９二香▲８六歩△ ９一玉▲８七銀△８二銀▲８八玉△７ 一金▲７八金。△８二玉は意外でし た。てっきり、△９四歩として僕の応 手を聞いてくると思ったからです。 　早咲さんは、相手の手を見てから自 分の手を決めることが多いように自分 では思っていますが、今回は自分から 形を決められました。感想戦ではここ は質問しなかったので裏に何があった かはわかりませんが、△８二玉以下数 手は時間を使わずに済みました。

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＝第３譜＝

△４五歩　　 ▲８五歩　　△４三金　　 ▲５八金　　△６四歩　　 ▲５六歩　　△５四歩　　 ▲４八銀　　△５五歩（第４図）

●開戦？ 　お互い最低限の囲いは作りました が、僕の方は右の金と銀を玉側に持っ ていき遊び駒をなくしたいところで す。２筋、３筋はしっかりと守られて いるため、３七の銀は攻めよりも守り に使ったほうが率がいいと思いまし た。ただ、直に銀を引くと△５五角の 王手飛車や△４六歩があります。 　△４五歩▲８五歩。▲８五歩のとこ ろは何を指していいか正直よくわかり ませんでした。▲４八銀～▲５七銀と 銀を使いたいものの、銀が動くと△４ 六歩の筋がありますし、４九の金を５ 八に動かすと△３九角などの角の打ち 込みの筋が生まれます。また▲５六歩 を突くと、△５七角から馬を作る筋も 出来ますし、▲７七桂は得になってい るかどうかわかりません。反対に自分 の玉が弱くなっているというマイナス の要素しかないかもしれません。要は 自分からはあまり手を進めたくなかっ たんです。 　 　そして、考えた挙句、一番有効に手 を渡しているのが▲８五歩かと思いま した。持ち時間を使いすぎたかもしれ ませんが、これは昔からの僕の悪い癖 で未だに直りません。頭によぎった筋 に怯え、迷っているのではなく手を指 すことに恐怖を覚えて指せなくなる現 象です。なので、僕の長考には意味の ないものも結構含まれています。（苦 笑） 　△４三金▲５八金△６四歩▲５六歩 △５四歩▲４八銀△５五歩。慎重に駒 組みを進めているつもりでしたが、▲ ４八銀と引いた瞬間にノータイムで△ ５五歩が指されました。その瞬間、 「ヤバイ、もしかして終わったのか ？」と思ってしまいました。強者と対 戦したときに誰もが感じる実戦心理？ です。

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＝第４譜＝

▲同　歩　　△５二飛　　 ▲５七銀　　△５五飛　　 ▲５六歩　　△５一飛　　 ▲６六歩　　△５三金　　 ▲６七金右　△７四歩　　 ▲２四歩　　△同　歩　　 ▲３七桂　　△７二角　　 ▲４六歩　　△同　歩　　 ▲同　銀　　△４四歩　　 ▲４五歩　　△５二金（第５図）

●開戦 　▲同歩△５二飛▲５七銀△５五飛▲ ５六歩△５一飛▲６六歩△５三金▲６ 七金右△７四歩。△５五歩の意味は、 一歩を手持ちにし、飛車の筋を変え駒 組みを楽にするものでした。一瞬、 「終わったか？」と思ったので、対局 中ながら安心したのを覚えています。 こちらは、▲６七金右で指したい手は 全て指したのであとは攻めるだけで す。 　▲２四歩△同歩▲３七桂。とは言っ ても本譜の仕掛けは無理かな？と思い ましたが、「咎められるのも勉強」と 思い、突っ込んでいきました。ここら へん、開き直れる所が下手のメリット です。 　そして、早咲さんの△７二角は僕の 攻めに対し「それは指しすぎでしょ ？」と問いかけてくる指し方。▲４六 歩△同歩▲同銀△４四歩▲４五歩△５ 二金。攻めてしまった以上は後戻りで きないと僕も銀の援軍を送りこみまし た。

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＝第５譜＝

▲７五歩　　△同　歩　　 ▲５五銀　　△３五歩　　 ▲２六飛　　△５七歩　　 ▲同　金　　△２五歩　　 ▲同　桂　　△３四銀　　 ▲７四歩　　△６三金　　 ▲４二角　　△４一飛　　 ▲２四角成　△４五銀（第６図）

●攻めが途切れないように 　おそらく、ここらへんから僕は秒読 みで早咲さんは５分以上持ち時間を残 している状態だったと思います。▲７ 五歩は経験則で嫌味をつけておこうと した手です。秒読みのため、この時、 僕の頭の中で具体例は一切浮かんでお らず、７三の地点に駒の効きを集中指 せて駒をぶち込むことしか考えていま せんでした。 　それを実現させるために、△同歩▲ ５五銀。そして、△３五歩が飛んで来 ました。僕が桂馬を跳ねなかったらな かった筋です。そんなこと思っても仕 方がないと思いつつも対局中は後悔し てしまうものです。「やはり無理攻め だったか・・・」のような感じで。 　強者はこのような相手に後悔させる 手を指すのがうまいと思います。そし て、相手に後悔させることで、相手の 持ち時間を間接的に減らすという感じ です。そして、僕は桂頭を守るために ▲２六飛。すると今度は△５七歩。飛 車が２八にいればなんともない歩…… …また後悔、なんか泣きたくなってき ます。（苦笑） 　仕方がなく▲同金。歩一枚で守りの 要の金を離されてしまいました。△２ 五歩▲同桂△３四銀。飛車先を重くさ れた挙句、ついに３三の銀を活用され てしまいました。▲７四歩。７三に駒 を効かします。▲６四銀は気持ち悪い と△６三金。しかし、局後、早咲さん はこの手をもっとも後悔されていまし た。 　第一感は△２四歩で、それだと早咲 さんが指しやすかったようです。とは 言っても僕は僕で、７筋を守られたの で対局中はまたパニック。具体例は浮 かばない上に７三に駒を効かすという 目的まで奪われました。そして、僕が ３０秒で出した結論は、「自分が攻め 出したのだからせめてその攻めを途切 れないように指そう」というもの。 ま～　開き直りです。 　▲４二角△４一飛▲２四角成△４五 銀。

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