朝夕、ずいぶんと過ごしやすくなりました。海の色も空の青さも、あの真夏のころとは透明度が違います。9月には、新しい風が吹いてきます。
先週から、初中級の公務員試験がスタートしました。教室ではいつも通りの笑顔の中に、緊張感が隠れているのがわかります。
先月まで、県北の高校生たちがたくさん公務員試験夏期講座に参加をしてくれました。今年は募集を始めてすぐに定員に達し、机を入れられるだけ教室に入れて、希望者は受け入れるようにしました。できるだけたくさん、目標に向かって努力をする人を、応援したいと思いました。
あっという間の20日間でしたが、指導する私たちは、大変だっただけに、大きな達成感を味わうことができました。受講生たちも、最後の日、がんばったよと言わんばかりに、輝いて見えました。「合格したら、ぜひ知らせてください。私たちにも喜びを分かち合わせてくださいね。」と伝えました。
今日の世界史の授業の中で、宗教改革をしたカルヴァンという人が、「職業召命説」と「予定説」というものを説いているという話をしました。「予定説」は、「今の自分の仕事を天職として真面目に働けば、神様に選ばれて天国に行ける。」として、お金を貯めることは悪とされていた時代に「天職に励んだ結果としての蓄財を認めた」ことで16世紀のヨーロッパの市民の人たちに多くの支持を得ていきました。
これから就職する人たちは、この先45年の仕事を選択していくことになります。どのような仕事が自分に合っているのか、今の時点で決めることは本当に難しいことだと思います。働いていくうちに、この仕事が私の天職でした、と言えるようになるのでしょうか。何人の人が天職と呼べる職業と出会うことができるのだろうかと思います。日々の仕事にやりがいが持てること、自分の仕事が誰かの役に立っていることが自覚できれば、それが天職なのかもしれないと思います。
8月には、本校オープンキャンパスの一環として、公務員になった卒業生を招いて話をしてもらいました。そこに集まった7名の卒業生は、現在の仕事の内容ややりがい、公務員に合格するまでの道のりなど、自分の言葉でこれから受験する後輩に話してくれました。
福岡市役所で窓口業務をしている男性は、いつも住民の方と直接話をしなければならないので、笑顔で話す練習をしておいた方がいいとアドバイスをくれました。長崎県職の教育事務に合格し小学校で働いている女性は、子供と毎日関われてとても楽しいと嬉しそうでした。外務省の本省で国際緊急援助と人道支援の仕事をしている女性は、学生の内から視野を広げておくことが大切、ニュースなどテレビや新聞でチェックしておくことを進める、ということでした。卒業生のたちは、ココではこれまでにないくらい勉強をしたが、仕事に就いてからはもっと勉強していると、口々に言っていました。
働く場所や働き方は違っても、周りの人に助けてもらいながら、一生懸命努力している卒業生の姿は、本当に頼もしく、大きく見えました。
その日から数日経って、今度は警視庁に勤務している卒業生が訪ねて来てくれました。社会人になってもう4年が経って、今言えることは、本当に「やる気」がある人に来てほしいということでした。これが現場で最も大切なことなのでしょうね。
彼らのイキイキと話をしている様子を見ると、今の仕事が、きっと天職なのだろうと思います。
今、試験を受けている学生も、「カルヴァンの予定説」から言えば、それぞれの職業はもうすでに決まっているのだろうかと、運命みたいなものがあるのかどうか、不思議な気持ちになりました。
学生たちにも、自分がなりたい職業を目指して、今まで頑張ってきた力を本番で十分に発揮してほしいと思います。
そんな日々の関わりが、私のやりがいなのだと感じている今の私の仕事も、天職なのかもしれないと気づかされます。
今月の花は、朝顔です。戦国時代の茶人千利休は満開の朝顔を一輪を残して全て摘み取り、見物に来た豊臣秀吉を迎えたそうです。秀吉はいぶかしんだのですが、茶席に生けられた一輪の朝顔に感動したと伝えられています。茶の道を究めるための心憎いほどの演出も、利休自身の天職に対する自信と誇りとこだわりの表れなのでしょう。
生垣の日よけの藍色の朝顔が定番ですが、夏の終わりの白い朝顔は、季節の移り変わりを、優しく教えてくれているようです。
photo by mizutani