安藤先生の月刊ブログ 「きらめき」

何気ない毎日に"きらめき"を感じていますか?

ことば力

2017年12月12日 | 月刊ブログ

 西九州道からみなとインターで降りると、目の前にまっすぐと佐世保湾が広がってきます。そこには自衛隊の大小の灰色の艦船が整然と並び、ファンの方には、筆舌に尽くしがたい光景ではないでしょうか。海に向かった突き当りを右に折れ、海沿いの道を進んで行くと、海上保安庁の艦船や、外国からの豪華客船、また、その先には五島列島や周辺の島々への定期船も、佐世保港がきれいに棲み分けられ、それぞれのふ頭に停泊しています。私は、佐世保港へとまっすぐに降りて行くこの道から見る港の景色が大好きです。

 

 ここ数日、急に寒波が押し寄せ、残り少ない12月のカレンダーを見ながら、季節と共にきちんと時間も過ぎて行っていることに、わけもなく焦る気持ちが出てきます。

 

 学生の頃の日本文学の授業で、宮沢賢治という作家を学びました。特に印象に残っているのは、「雨ニモマケズ」という詩です。これは高校の国語の教科書にも載っていました。

 この詩にはモデルがいたそうで、岩手県花巻に禅寺の三男として生まれた斉藤宗次郎という人だそうです。彼は小学校の教師になるのですが、内村鑑三の影響を受けて聖書を読むようになりクリスチャンになりました。当時は、キリスト教徒は「ヤソ教」などと呼ばれ迫害を受けていました。小学校の教師は辞めさせられ、その迫害は家族にもおよびましたが、彼はその地域の人々のために祈り続けたのでした。雨の日も、風の日も、「でくのぼう」と言われても、牛乳配達と新聞配達をしながら働き続けたのでした。

 そんな彼の姿は、いつのまにか人々の心を動かして、内村鑑三に招かれて東京にたつ日には、町の人たちが大勢見送りに来てくれていました。宮沢賢治もその中にいたそうです。

 

 「雨ニモマケズ」は、その体験から生まれ、賢治自身の自然観、宇宙観が表されています。そのリズミカルな韻を踏んだ表現に、私はすぐに暗唱することができました。

 賢治の作品は、子供向けの物語ようで、実は、読んだ大人たちが、ズンと腹に落ち込む何かを感じます。それは、自身の「思い当たる」というものでしょうか。自分もそんなことがあった、そのような考えを持っている、と共感するのです。そして、教えられるのです。相手に訴える言葉力があります。

 賢治は、生き物はみな兄弟であり、生き物全体の幸せを求めなければ、個人のほんとうの幸福もありえないと考えていました。

 「注文の多い料理店」や「よだかの星」も動物の考えや言葉で、人間の生来の傲慢さや悲しさを描くと同時に、そこに必ず、ユーモアであったり人の優しさであったりを吹き込んでいるのが、読み手に安堵感を与えているような気がします。

 

 先日で放送が終了したNHKのドラマ「この声を君に」の中の詩の朗読のシーンで、サトウハチローさんの「ことばはやさしく美しくひびきよく・・・」という詩が紹介されました。

   美しいことばは 相手にキモチよくつたわる

   ひびきのよいことばは 相手のキモチをなごやかにする

         ことばで 語り ことばで 受け答える

         ことばで はげまし ことばで 礼をいう

   よくわかることばほど うれしいものはない

   やさしいことば使いは おたがいの心をむすびつける

         ことばがすらすらと出た日は 一日たのしい

         ことばがつかえた日は 夜までくるしい

  (中略)

   美しいことばは 相手にキモチよくつたわる

   ひびきのよいことばは 相手のキモチをなごやかにする

 

 学校では、公務員試験の内定の声が届いています。

 合格した人は、面接練習に付き合ってくれた先生に一人ずつ内定の報告をしていました。

 残念ながら不合格の学生も、律義に一人ずつに「ダメでした」と報告をしてくる人もいます。

 面接試験で、自分の言葉で、自分の思いを伝えられた人と、そうではない人との境が合否の境なのかなと、言葉による表現力の重要性を改めて感じています。自分の思いは、言葉でしか表せないのですから、熱意や素直な気持ちを言葉に乗せて表現できたらどんなにいいかと思います。そのことが大事なのです。

 この学校に来た学生たちが、全員目標を達成するためには、この言葉での表現力が避けては通れない大きな課題のような気がして、やみません。

 

 今月の一枚は、八朔の実です。八朔は旧暦の8月に当たりますが、実が大きくなる冬に収穫して必ず、1,2カ月寝かせて酸味を飛ばして熟成させていただくのだそうです。甘みの乗った八朔の皮をきれいにむいて、子供たちに食べさせていた頃を思い出してしまいました。

 

  Photo by mizutani


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