古代の日本語

古代から日本語には五十音図が存在しましたが、あ行には「あ」と「お」しかありませんでした。

かつて「い」はや行にあった

2021-08-22 09:57:19 | 古代の日本語

これまで、奈良時代初頭には、あ行の「え」が存在せず、平安時代以降、や行の「え」があ行に移動したことをお伝えしてきました。

そして、あ行の「う」も、かつてわ行にあったことを考察し、前回は、「得る」の古語「得」(う)が語幹「W」を有することをご説明しました。

これらのことから類推して、はるか古代の日本語では、「い」もや行にあったと考えられるので、その痕跡をご紹介しましょう。

まず、『語学指南 巻三』(佐藤誠実:著、佐藤誠実:1879年刊)という本には、や行の上一段動詞は、「いる」(射)、「いる」(鋳)、「いる」(沃=注ぐこと)の三つであると書かれているので、「射る」、「鋳る」、「沃る」はいずれもかつては「YIRU」と発音されていたと思われます。

加えて、『動詞の組織』(大島正健:著、啓成社:1917年刊)という本によると、「射る」という動詞は「矢」という名詞が転じたものだそうなので、「射る」は「YIRU」に間違いないでしょう。

さらに、『日本古語大辞典』には、戦争を意味する「いくさ」の原義は「射(い)衆(くさ)」すなわち軍兵であると書かれているので、「いくさ」の「い」もや行の「い」だと思われます。

また、この本によると、神聖、清浄等を意味する「い」(齋)は、「ゆ」と同語だそうですから、この「い」も、これから派生した「いはふ」(祝)や「いむ」(忌)の「い」も、や行の「い」だと思われるのです。

次に、『日本語原』によると、「いく」(行)、「いと」(糸)、「いは」(岩)、「いや」(弥)、「いや」(否)、「いゆ」(癒)、「いよ」(愈=いよいよ)などがや行の言葉だそうですが、「行く」は「ゆく」とも発音するので、これは確かにや行ですね。

最後に、『日本語源』によると、「いぬ」(犬)、「いかた」(筏)、「いわし」(鰯)などもや行の言葉で、「いわし」は「よわし」(弱)と同じ意味だそうです。

以上、これまでの検討結果から、本ブログの初回にご紹介したように、古代の五十音図は、や行とわ行に欠落がなかったことが明らかであり、平安時代にや行の「え」があ行に移動したことから類推して、本来あ行には「あ」と「お」しか存在しなかったことも確かだと思われるのです。

そして、このことは、阿比留文字が古代の発音を保存した真の神代文字であることを意味しているのです。(ここに阿比留文字の五十音図を再度掲載しておきます。)

古代の五十音図

次回は、「い」と「う」がそれぞれや行とわ行にあった証拠を、古事記より古い文献からご紹介します。

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