猫の目

◎5匹の猫を見送り30年の猫の居る生活に幕が下りましたが
まさかの展開で又猫の居る暮らし復活!

かわいそうなぞう

2021年08月15日 | 日記

終戦記念日に2016年4月99歳で亡くなった評論家の秋山ちえ子さんの「かわいそうなぞう」の朗読を聞きました

涙が溢れて胸が締め付けられました

戦争は何もうまない

悲劇だけだ

戦争を知らない子供にも読み伝えてほしいので全文を載せてみます

「かわいそうな ぞう」



上野の動物園は桜の花ざかりです
風に散る花.お日さまに輝いている花
その下に、どっと人が押し寄せて動物園は込み合っています
  
さきほどから長い鼻でラッパを吹き鳴らし丸太渡りの芸当を続けている象の檻の前も
うごけない程の人だかりです
  
その、賑やかな広場から少し離れた所に、一つの石のお墓があります気の付く人は
余りありませんが、動物園で死んだ動物達をお祭りしたお墓です
いつも暖かそうに、お日さまの光をあびています
ある日、動物園の人が、その石のお墓をしみじみと撫でながら
わたくしに哀しい象のお話を聞かせてくれました
  
今,動物園には三頭の象がいます
ずっと前にもやはり三頭の象がいました名前を,ジョン,トンキー,ワンリーと言いました
   
その頃、日本はアメリカと戦争をしていました
戦争がだんだん激しくなって、東京の町には朝も晩も爆弾が雨のように落されました
  
その爆弾がもしも、動物園に落ちたらどうなる事でしょう
檻が壊されて恐ろしい動物たちが町へ暴れ出たら大変な事になります
それで軍隊の命令で、ライオンも虎も、豹も、熊も、大蛇も、毒薬を飲ませて殺したのです
  
いよいよ三頭の象も殺される事になりました
まずジョンから始める事になりました
  
ジョンはじゃがいもが大好きでした、ですから毒薬を入れた、じゃがいもを
普通のじゃがいもに混ぜて食べさせました
けれども利口なジョンは、毒薬の入ったじゃがいもを長い鼻で口まで持って行くのですが
すぐにポンポンと投げ返してしまうのです
  
しかたなく毒薬を注射する事になりました
馬に使う、とても大きな注射の道具が支度されました
ところが象の体は大変、皮が厚くて太い針はどれもポキポキと折れてしまうのです
しかたなく食べる物を一つもやらずにいますと可愛そうにジョンは、十七日目に死にました

続いて、トンキーとワンリーの番です
この二頭は何時も可愛い目を、じっとみはった心のやさしい象でした
わたしたちは、この二頭をなんとかして助けたいので遠い仙台の動物園へ送ろうと考えました
けれども仙台にも爆弾が落とされて、町に象が暴れ出たらどうなる事でしょう
そこでやはり上野の動物園で殺す事になりました
  
毎日、餌をやらない日が続きました
トンキーもワンリーもだんだん痩せ細って元気がなくなっていきました
その内にげっそりと痩せこけた顔に、あの小さな目がゴムまりのように、ぐっと飛び出してきました
耳ばかりが大きく見える、悲しい姿にかわりました
  
今まで、どの象も自分の子供のように可愛がって来た象係の人は
「あぁ…可愛そうに可愛そうに…」
と、檻の前を行ったり来たりして、うろうろするばかりでした
  
ある日、トンキーとワンリーがひょろひょろと体を起こしてて象係の前に進み出てきました
お互いにぐったりとした体を背中でもたれあって芸当を始めたのです
  
後ろ足で立ち上がりました
前足を上げて折り曲げました
鼻を高く高く上げて万歳をしました
  
萎びきった体中の力を振り絞ってよろけながら一生懸命です
芸当をすれば元の様に餌が貰えると思ったのでしょう
象係の人はもう我慢できません
  
「あぁ…ワンリーや!トンキーや!」
  
と,泣き声を上げて餌のある小屋へ飛び込みました
走って水を運んで来ました、餌を抱えて来て象の足元へぶちまけました
  
「さぁ!食べろ!食べろ!飲んでくれ!飲んでおくれ!」
  
と、象の足に 抱き縋りました
私達は、みんな黙って、見ない振りをしていました
園長さんも唇を噛締めて、じっと机の上ばかり見つめていました
  
象に餌をやっては行けないです、水を飲ませてはならないのです
けれども、こうして1日でも長く生かしておけば戦争も終って助かるのでは
ないかと、どの人も心の中で神様に祈っていました
  
けれども、トンキーもワンリーも遂に動けなくなってしまいました
じっと体を横にしたまま、ますます美しく澄んでくる目で動物園の空に流れる
雲を見つめているのがやっとでした
こうなると象係の人はもう胸が張り裂ける程、辛くなって象を見に行く元気がありません
他の人達も,苦しくなって、象の檻から遠く離れていました

遂に、ワンリーもトンキーも死にました
どちらも鉄の檻にもたれ鼻を長く伸ばして万歳の芸当をしたまま、死んでしまいました
  
「象が死んだあ!象が死んだあぁ!」
  
象係の人が叫びながら事務所に飛び込んで来ました、拳骨で机を叩いて泣き伏しました
私達は象の檻に駆け付けました、どっと檻の中へ転がり込んで痩せ象の体にすがりつきました
象の頭を揺す振りました足を鼻を撫で回しました
  
みんな、おいおいと声を上げて泣き出しました、その上をまたも爆弾を積んだ敵の飛行機が
ごうごうと東京の空に攻め寄せて来ました、どの人も象に抱き着いたまま
  
「戦争をやめろ」
   
「戦争をやめてくれ…やめてくれえ…」
  
と、心の中で叫びました
後で調べますと、タライ位もある大きな胃袋には一滴の水さえも入っていなかったのです

その三頭の象も今はこのお墓の下に静かに眠っているのです

 

 

戦争は絶対にしてはいけない・・・

何の罪もない動物たちまで犠牲になる

 

 


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