海軍大将コルシンカの航海日誌

ロシアの作曲家リムスキー=コルサコフについてあれこれ

《アンタール》の「版」に関するメモ2

2008年02月06日 | 《アンタール》
【2】それぞれの「版」の楽譜について

4つあるそれぞれの「版」の楽譜の特定についてですが、これが少々厄介な問題を孕んでいます。
《アンタール》に限ったことではありませんが、問題というのは、その楽譜が信頼できるものかどうか、という点です。

私は詳しくは知りませんが、楽譜には、学術的に信頼に足る権威あるものから、出版社の都合で作曲者の預かり知らないところで勝手に変更されたりしたようなものまで、様々なものがあるらしいとのこと。しかし、まあ、疑い出したらキリのない話になりますので、とりあえずは「正しいもの」であるという仮定をここではしておきましょう。

リムスキー=コルサコフの作品に関しては、本国ロシアで「全集」が出版されており、それをBelwin Mills社が版権を取得して出版したもの(The Complete Works of Nicolai Rimsky-Korsakov)がありますので、《アンタール》についても、これをベースに確定するということになりそうです。

幸いにしてBelwin Mills社の出版した《アンタール》の楽譜は、上野文化会館の音楽資料室に収蔵されていますから、それを閲覧することが可能です。もっとも「全集」で収録されているのは4つの「版」すべてではなく、「初稿」と「第3稿」の2種類のみです。

次に、Kalmus社から出版されているもの(Kalmus Orchestra Library)があり、「第2稿」と「第3稿」がネット通販で入手可能となっています。これらは私も購入して手元にあります。
そのほか上野文化会館にBereitkopf社(うろ覚え。違っているかもしれないので要確認)Boosey & Hawkes 社のポケットスコアがありますが、このスコアにはヴァージョンの記載はなく不明。ただし別の文献に示された内容から考えると「第4稿」である可能性があります。(【2015.9.28注記】「第4稿」でした。)

以上から、「全集」のBelwin Mills社「第3稿」と、Kalmus社の「第3稿」が被っていることになりますが、これが同一であると確認されれば、とりあえずは両社の残りの「初稿」と「第2稿」もまずは正しいとして良いでしょう。

問題は「第4稿」ですが、それと思しきポケットスコアを以前私が上野文化会館で見た範囲では、Belwin Mills社「第3稿」とも微妙に異なっている点がありました。これが「第4稿」として良いものか、あるいは単に出版社の都合で勝手に変更したものなのかまでは特定はできていません。(【2015.9.28注記】「微妙に異なっている」と書いていましたが、楽器編成をはじめ、「相当異なっている」と訂正します。「微妙に異なっている」のは「第2稿」と「第4稿」。)

ということで、それぞれの「版」の楽譜についてまとめると、

■初稿(1868年)
・Belwin Mills社(The Complete Works of Nicolai Rimsky-Korsakov)

■第2稿(1875年)
・Kalmus社(Kalmus Orchestra Library)

■第3稿(1898年)
・Belwin Mills社(The Complete Works of Nicolai Rimsky-Korsakov)
・Kalmus社(Kalmus Orchestra Library)

■第4稿(1903年)
Bereitkopf社ポケットスコア(?)Boosey & Hawkes 社
・Elinbron社【2015.9.28追記】
・Serenissima Music社【2015.9.28追記】(楽譜に「1875 version, rev.1903」と明記)

ということになりましょうか。
実はこの他にも、先に書いたElinbronからも《アンタール》が出ているのですが、こちらは未購入。そんなに高いものでもないので次回注文するときにでも併せて購入しておきましょうか。(【2015.9.28追記】Elinbron社は第4稿。)
(つづく)