スーパーマグナムの故障
前回第34回で触れた、仲間のスーパーマグナムが不調になってきたとの情報だが、最近遂に本格的に故障し、修理を余儀なくされているという。大変興味深く、また今後の諸兄の整備計画にも有用と思われるので、提供写真を基に内容を確認している。
現在は故障の原因をやっと確認した段階であり、部品入手後の修理と言う事になるので、今回は故障状況のみの紹介をする。
状況としては、
15年6月に水没した本機をオーバーホールし、その後10か月間に亘り、毎週末使用していたが、基本的には低速を使わずいつも最高速で運転していた。約100時間運転ということになる。ところがこのところ始動に手間取るようになり、ガラガラという異音と振動が感じられていた。プラグの確認などは毎回していたが、2.5km先のポイントで魚突きをし、あと300m程で発着点に戻るところでエンストした。ロープは引けない状態になった。
当の仲間は予備機があるので、魚突きはそのまま継続し、修理作業はゆっくり進めている。
以下、分解点検状況を紹介:
プラグには残滓が附着
異音がするので、当初スタータ部の爪がぶつかっているのかと粘着テープで押へてみたりなどあれこれ悩んでいた。その時は、スタータケースを外すとガソリン臭がするとの話をしていた。
今回見ると、フライホイルには多少錆と油汚れが有った。
そのまま使用していて完全に故障してしまった訳だが、今回は全体を分解するので、当然ながらフライホイルを外した。CDI本体表面はきれいだ
ところがCDI本体の裏には、クランク室から侵入した油汚れらしき付着物あり、クランクケースからのシールの吹抜と判断
クランクケース前側=つまり高圧部の裏=を見ると、メインオイルシールが、正規位置から外れかけて浮上っている。そのシールがクランクのカウンタウエイトに接触してゴムが擦り減り、内部の金属が顔をのぞかせているという惨状だった。これではクランクケースの脈動圧が高圧部に吹抜けて、ガソリン臭の原因となる。
クランクのカウンタウエイトにはオイルシールが擦って削れた筋がはっきり付いている。
ピストンには金属片が刺さって動かなくなっていた。位置としては掃気口に近いが、内部で跳ね回るだろうからどこにでも刺さる可能性がある。
シリンダ内部の傷は目立たずそれ程深くないようだ
金属片の由来は不明だが、磁石にはくっつく。コンロッド大端部ベアリングのガタが大きいのでその辺りだろう。
コンロッド小端部の保持器付ベアリングはOKの様だ。 流石にBlog第28回で紹介したように、保持器付は旧来の外輪形ベアリングより丈夫なのだろうと想像する。
小端部内面も滑らか
ピストンピンもきれい
大端部ベアリングはガタがあるので大いに怪しい。バラさなければ詳細は判らない。しかし一旦ばらしてしまうとシャフトの直線性を保っての再組立はかなり難しいだろう。基本的には「クランク軸組立」全体の交換を要すると思われる。
カウンタウエイト後ろ側のプロペラシャフトは根元が露骨に削れている
後側=プロペラ側のメインシャフトシールは普通に見えるが、では何故シャフトがこんなに削れたのだろうか。ガタがあることと関係あるのか。
プロペラシャフト後端、ペラを外したところ。
プロペラ側の嵌合孔にも汚れが詰まっている。
余談だが、自動車修理工場を利用させて貰っているので作業環境は良好だ
プロペラシャフト=クランクシャフト後側のベアリングなどグリス封止部には水が混入し白(茶?)濁・乳化しているが、潤滑は機能していたようだ。
プロペラシャフトの水シール部
マフラを開けてみたところ。 未洗浄なのに、私の2台に比べて驚異的な清浄さ。この違いは何故なのか?混合オイルの種類でこんなに違うのだろうか。それとも気温・水温、使用頻度の相違か? 全く掃除の必要が無い!
シリンダ排気ポートからマフラへの入口部分
排気口の内側もまったく清浄だ
毎回使用後にはマフラの洗浄をしているとのことだったが、少なくともこの故障時は5km近く走行した後であり、私の物に比べてこの清浄な状態は、私には想像できない。
大端部の惨状
やや日数が経過したが、クランクの分解をしたところ、予想通り、クランクピンが大きく齧られ、大端部ベアリングは錆びた上に大きく壊れていた。なお、表面は拭取り、多少磨いている。
プロペラシャフトは既に示した通り、齧られている。
大端部ベアリングの錆と破壊は予想以上に強烈だった。この部品と、クランクピンとは新品で購入して以来交換はしておらず、約4年経過している。
やはり潤滑が不十分になり易いのだろうが、浸水による被害も大きいと感じる。浸水時は勿論だが、定期的な分解整備が肝要と思い知らされる。
クランクピンは、これだけ錆びて破壊されたベアリングと接しているのだから齧られ、錆で孔食が有っても当然だろう。
大端部端面に欠けがある。製造時の欠けなのか、今回の破壊の一部なのかは不明だ。 なお、コンロッドは海外の販売情報を検索したところ、スーパーマグナムと従来機種とで共通と表示されていた。
しかし2009年型AS650以前の機種では違っていて、第28回で紹介した通り、小端部ベアリングも違う。
欠けた部分の拡大
大端部の内面は割にきれいだ(清掃してある)
小端部内面も既に示した通りで問題なさそうだ。
一応以上の写真で故障は大端部ベアリングが潤滑不足で破壊し、欠片がピストンに噛み込んでしまったのが原因と判る。私の仲間内では初めての事例だ。
大端部ベアリングの潤滑は、小端部に比べて容易だと思っていたが、そうではないのだろうか。
浸水では特に被害を受けやすいだろうが、通常時でも吸気には海面からの塩水分が常に混入している筈だ。普段から混合オイルは多めにしたほうが安全かもしれない。
・・・・そう言えば何年も前に、この点に関して多分K?氏のブログに、破壊されたベアリングの写真と共に濃くしろと有ったような記憶がある。
前側メインオイルシールがハウジングから脱落していた原因は何だろう?
ベアリング破壊でクランクシャフトの振動が大きくなり、シールを動かしたのだろうか、それとも前回の装着が悪かったか。当人は接着剤を塗布した上で装着したと聞いたような気もするのだが?
Blog第19回で紹介したPaolo氏は、「メーカー推奨の140~180時間または2年でオーバーホールでは不足で、もっと頻繁に点検すべきだ」と言っている。
新品の内はトラブルも少ないので、2年毎に新品を購入し、古い物は下取又はオークションで処分というのが賢明かもしれない。
仲間の修理作業が完了したら続編を紹介したい。
追加情報:
なお、予備機があるからとのんびりしていた当の仲間は、ここへ来て予備機の方も異音がし始めたので、些か慌てていると言う。
急遽点検したところ、ピストンヘッドに金属粉らしきものが光って見えたので、洗い出して磁石で確認すると磁性の金属粒だという。こうなると同じ大端部又は小端部ベアリング破壊の問題なのか?
交換用の部品は既に手配したとのことだが、破壊は時間の問題の様に思われ、当人には気の毒だが続報が楽しみだ!
以 上
Blog第35回 スーパーマグナム大端部ベアリング破壊① =小坂夏樹=
前回第34回で触れた、仲間のスーパーマグナムが不調になってきたとの情報だが、最近遂に本格的に故障し、修理を余儀なくされているという。大変興味深く、また今後の諸兄の整備計画にも有用と思われるので、提供写真を基に内容を確認している。
現在は故障の原因をやっと確認した段階であり、部品入手後の修理と言う事になるので、今回は故障状況のみの紹介をする。
状況としては、
15年6月に水没した本機をオーバーホールし、その後10か月間に亘り、毎週末使用していたが、基本的には低速を使わずいつも最高速で運転していた。約100時間運転ということになる。ところがこのところ始動に手間取るようになり、ガラガラという異音と振動が感じられていた。プラグの確認などは毎回していたが、2.5km先のポイントで魚突きをし、あと300m程で発着点に戻るところでエンストした。ロープは引けない状態になった。
当の仲間は予備機があるので、魚突きはそのまま継続し、修理作業はゆっくり進めている。
以下、分解点検状況を紹介:
プラグには残滓が附着
異音がするので、当初スタータ部の爪がぶつかっているのかと粘着テープで押へてみたりなどあれこれ悩んでいた。その時は、スタータケースを外すとガソリン臭がするとの話をしていた。
今回見ると、フライホイルには多少錆と油汚れが有った。
そのまま使用していて完全に故障してしまった訳だが、今回は全体を分解するので、当然ながらフライホイルを外した。CDI本体表面はきれいだ
ところがCDI本体の裏には、クランク室から侵入した油汚れらしき付着物あり、クランクケースからのシールの吹抜と判断
クランクケース前側=つまり高圧部の裏=を見ると、メインオイルシールが、正規位置から外れかけて浮上っている。そのシールがクランクのカウンタウエイトに接触してゴムが擦り減り、内部の金属が顔をのぞかせているという惨状だった。これではクランクケースの脈動圧が高圧部に吹抜けて、ガソリン臭の原因となる。
クランクのカウンタウエイトにはオイルシールが擦って削れた筋がはっきり付いている。
ピストンには金属片が刺さって動かなくなっていた。位置としては掃気口に近いが、内部で跳ね回るだろうからどこにでも刺さる可能性がある。
シリンダ内部の傷は目立たずそれ程深くないようだ
金属片の由来は不明だが、磁石にはくっつく。コンロッド大端部ベアリングのガタが大きいのでその辺りだろう。
コンロッド小端部の保持器付ベアリングはOKの様だ。 流石にBlog第28回で紹介したように、保持器付は旧来の外輪形ベアリングより丈夫なのだろうと想像する。
小端部内面も滑らか
ピストンピンもきれい
大端部ベアリングはガタがあるので大いに怪しい。バラさなければ詳細は判らない。しかし一旦ばらしてしまうとシャフトの直線性を保っての再組立はかなり難しいだろう。基本的には「クランク軸組立」全体の交換を要すると思われる。
カウンタウエイト後ろ側のプロペラシャフトは根元が露骨に削れている
後側=プロペラ側のメインシャフトシールは普通に見えるが、では何故シャフトがこんなに削れたのだろうか。ガタがあることと関係あるのか。
プロペラシャフト後端、ペラを外したところ。
プロペラ側の嵌合孔にも汚れが詰まっている。
余談だが、自動車修理工場を利用させて貰っているので作業環境は良好だ
プロペラシャフト=クランクシャフト後側のベアリングなどグリス封止部には水が混入し白(茶?)濁・乳化しているが、潤滑は機能していたようだ。
プロペラシャフトの水シール部
マフラを開けてみたところ。 未洗浄なのに、私の2台に比べて驚異的な清浄さ。この違いは何故なのか?混合オイルの種類でこんなに違うのだろうか。それとも気温・水温、使用頻度の相違か? 全く掃除の必要が無い!
シリンダ排気ポートからマフラへの入口部分
排気口の内側もまったく清浄だ
毎回使用後にはマフラの洗浄をしているとのことだったが、少なくともこの故障時は5km近く走行した後であり、私の物に比べてこの清浄な状態は、私には想像できない。
大端部の惨状
やや日数が経過したが、クランクの分解をしたところ、予想通り、クランクピンが大きく齧られ、大端部ベアリングは錆びた上に大きく壊れていた。なお、表面は拭取り、多少磨いている。
プロペラシャフトは既に示した通り、齧られている。
大端部ベアリングの錆と破壊は予想以上に強烈だった。この部品と、クランクピンとは新品で購入して以来交換はしておらず、約4年経過している。
やはり潤滑が不十分になり易いのだろうが、浸水による被害も大きいと感じる。浸水時は勿論だが、定期的な分解整備が肝要と思い知らされる。
クランクピンは、これだけ錆びて破壊されたベアリングと接しているのだから齧られ、錆で孔食が有っても当然だろう。
大端部端面に欠けがある。製造時の欠けなのか、今回の破壊の一部なのかは不明だ。 なお、コンロッドは海外の販売情報を検索したところ、スーパーマグナムと従来機種とで共通と表示されていた。
しかし2009年型AS650以前の機種では違っていて、第28回で紹介した通り、小端部ベアリングも違う。
欠けた部分の拡大
大端部の内面は割にきれいだ(清掃してある)
小端部内面も既に示した通りで問題なさそうだ。
一応以上の写真で故障は大端部ベアリングが潤滑不足で破壊し、欠片がピストンに噛み込んでしまったのが原因と判る。私の仲間内では初めての事例だ。
大端部ベアリングの潤滑は、小端部に比べて容易だと思っていたが、そうではないのだろうか。
浸水では特に被害を受けやすいだろうが、通常時でも吸気には海面からの塩水分が常に混入している筈だ。普段から混合オイルは多めにしたほうが安全かもしれない。
・・・・そう言えば何年も前に、この点に関して多分K?氏のブログに、破壊されたベアリングの写真と共に濃くしろと有ったような記憶がある。
前側メインオイルシールがハウジングから脱落していた原因は何だろう?
ベアリング破壊でクランクシャフトの振動が大きくなり、シールを動かしたのだろうか、それとも前回の装着が悪かったか。当人は接着剤を塗布した上で装着したと聞いたような気もするのだが?
Blog第19回で紹介したPaolo氏は、「メーカー推奨の140~180時間または2年でオーバーホールでは不足で、もっと頻繁に点検すべきだ」と言っている。
新品の内はトラブルも少ないので、2年毎に新品を購入し、古い物は下取又はオークションで処分というのが賢明かもしれない。
仲間の修理作業が完了したら続編を紹介したい。
追加情報:
なお、予備機があるからとのんびりしていた当の仲間は、ここへ来て予備機の方も異音がし始めたので、些か慌てていると言う。
急遽点検したところ、ピストンヘッドに金属粉らしきものが光って見えたので、洗い出して磁石で確認すると磁性の金属粒だという。こうなると同じ大端部又は小端部ベアリング破壊の問題なのか?
交換用の部品は既に手配したとのことだが、破壊は時間の問題の様に思われ、当人には気の毒だが続報が楽しみだ!
以 上
Blog第35回 スーパーマグナム大端部ベアリング破壊① =小坂夏樹=