Aquascooter Maintenance for Spearfishing アクアスクーターで魚突き 全76回

使いこなそう、アクアスクーター整備ノートby KosakaNatsuki

**全76回で終了済み**

Blog第9回 整備編 -キャブレタ③=小坂夏樹=#9 Carburettor Maintenance③

2015年02月26日 | マニュアル
すぐ再訪するつもりだったのに、離島の宿に4ヶ月間置きっぱなしにしてしまったアクアスクータのキャブレタ。
海岸で気がついたらアクセル(スロットル弁)が固着しており、慌ててその場でキャブ全体を予備品に交換してその日は魚突きをし、あとで見たらこのように塩が析出して内部を固めていた。

燃料タンクに溜まった海水が燃料に混入してキャブに送られたのだろう。徐々に塩が結晶・析出していたものをたまたま長期放置したため、残留した僅かな燃料も蒸発して塩だけが固着したと想像した。長年使ってきたが、こんな不具合は初めてだ。しかし下部のポンプ膜側には塩の析出は無かった。

なお、エンジン本体はオイルを入れて保護していたため別段問題はなかった。






キャブレタの整備

一般工具による整備
通常の作業としては、前回実施したポンプ膜と流量調整膜の交換、ガスケットの交換程度で十分な整備と考える。余裕があれば L/Hネジ、針弁(ニードル)を取り外し、各部の掃除をする。スプレー式の自動車用パーツクリーナやマリンCRCで各穴を吹飛ばすのが簡単だ。ガソリン機器の部品なので、そうしたクリーナでの耐ガソリン性は問題ないと思っているが、ゴム類のアルコールへの耐性は悪い場合があるので、使わないほうが安心だ。

表題写真の塩による固着の体験からも、調整膜は油断せず使用状況に応じた分解点検をすべきだろう。また、残った燃料は既に触れたとおり、頻繁に交換するか水混入の点検を心掛けている。

なお、メインノズルの掃除は注意が必要だ。私はそうとは知らずに針で突いてしまい、逆止弁が脱落して結局修理できなかったことがある。スプレーが安全だ。



燃料だまりを見ると、L H 各ネジの先に燃料を送る穴があり、ここからスプレーしてみるとメインノズル又はアイドルノズルから飛び出してくる。フィルタには糸くずの様なごみが溜まっていることがあるが、ノズルが詰まることは余りないようだ。ただし塩の析出は注意が必要。

AS600も650用もキャブの中身は同じだ。
なお、写真で解る通りLネジはHネジより長いことに注意が必要だろう。キャブをばらせば長さの違いは一目瞭然だ。シリコーン油脂を塗布する。



アイドルノズルは3か所から噴出することも確認する。


ニードルバルブを外すには連結稈 = Metering Lever を押えているネジを外すが、バネが飛去ってしまわぬよう注意する


ニードルバルブ先端の円錐部は弁座に当って閉じる最重要部で、ゴムがごく薄く被せてある。これがすり減っているときちんと閉じず、燃料が過剰に送られて来てこれまたプラグ被りということになる。

輪状の傷などが出来ていたりしたら交換しなければならない。
その時に必要なのが WalbroのK22-HDAというオーバーホールキットだ。

D22-HDAキット これは膜だけのもの

K22-HDAのキットにはニードルバルブやバネ、圧入する円板などの細かな部品が含まれている。
このキットも前述の、ノリモノランド、ponkichi173、barubon oota、チェンソー業者などで購入できる。


連結稈の高さ
HDAキャブではこの 連結稈の高さがアルミ本体の縁と面一になっていることが大切だ。
高さ確認のための各種キャブに使えるW形のゲージがあるが、本機の場合は単に面一かどうかなので、定規でも何でも構わない。この高さの調整には連結稈をドライバーやラジオペンチなどで曲げてやるだけで済む。
組立時にはガスケットの厚さが違えば連結稈と調整膜の当りが変わってしまうから、注意が必要だ。薄いシートから自作したガスケットの場合は燃料過多になり易いので、それなりに連結稈の高さを僅かに低くするなど工夫しなければならない。

面一になっているということは、先端が定規などに当たるかどうか、或いは当たっても針弁に動きが出ないこと。




完全オーバーホールとしては、このキャブは細かな金属部品まで全ての部品をアルミダイキャストの本体から取外すことが出来るので、上に示した完全キットの部品に新替が可能だ。しかし圧入してある円板を取出して交換品を圧入したりなどの交換には治具或いは適当な工具が必要で、その技もない私としては針弁の交換以外は実施したことはない。技術のある人にとってはどうということは無いのかもしれないので、マニュアルに則って実施すれば良いだろう。Walbro Service Manual には専門家向け?のこれら治工具キットが紹介されている。


過去に経験したキャブトラブル=破損=の実例
この写真は、磯で波に叩かれて岩にぶつかりISCネジの台座が割れてしまったもの。こんな時は紐、結束バンド等有合せの物でアクセルが戻り切らぬように縛っておけば何とか使える。




L/Hネジが固着していたのを知らず、ねじ切ってしまった!という失敗もある。
数か月使わなかったアクアスクータの調整ネジが固すぎるなあと感じながらドライバーで捩じったところ、ゆるくなったのでやれやれと思い、もう1本も同様にしたが・・・・調子は出ず、あとで気が付いたら2本とも途中で破断しており、キャブ全体が使用不能になってしまった。
これなど、燃料溜まりからネジの先端を確認し、CRCなどの緩め剤を使ったり、加熱したりすれば何とかなった筈だ。使用後の塩抜きなどに気を使い、防錆油を塗布するなど、長期使わない場合は特に注意が必要だ。




取付部=フランジなどの防水
前にも触れたが、キャブを取外すと再組付したあと浸水を起こし易い。そこで確認試験をするために既に紹介したビニ袋を使う方法があるが、よりホンモノらしい用具もある。
これは仲間が作ってくれた、プラグ孔にねじ込んで加圧するもの。自動車用のポンプを使う。
水面で使用する本機に掛かる水圧はせいぜい+0.1気圧程度だが、波の圧力など余裕を見て+1気圧程度掛けて試験する。つまり1気圧≒100kPa程度でよい。あまり高くすると内部のオイルシールがずれるなどの心配がある。

この項、原版で2気圧掛けると書いて投稿してしまったが、あとで気が付いたら、メーター類は常圧つまり大気圧を0と表示しているので、それに習い、メーターとしては1気圧と訂正する。

こちらは空気孔にスノーケルの替りにねじ込んで加圧するもの。浮き輪用のポンプで数百円だが試験には十分な加圧が出来る。ゆるめるとシューっと空気が出てくる程だ。
本当はスノーケルの先端にホースを付けるほうが、スノーケルのねじ込み部からの浸水も点検出来るからより好ましい。しかしこれはポンプを取外せば、「柔軟スノーケル」としてバケツなどで運転試験をするときにスノーケルが邪魔をせず威力を発揮する。傾けたり逆さにしたり、どんな姿勢でも試験OKだ。


キャブ周りの浸水防止としてはガスケットの交換とエルボの取付も大問題で、何度か痛い目に合っている。そのあたりは次回に


Blog第9回 整備編 -キャブレタ③ 終り 


Blog第8回 整備編 -キャブレタ②=小坂夏樹=#8 Carburettor Maintenance②

2015年02月21日 | マニュアル
AS600型のキャブレタ 岩にぶつけて露出しているL/Hネジが曲がってしまうこともある。 

燃料流量調整膜・ダイアフラムの交換

キャブレタ全体の整備を考える前に、取敢えず調整膜を交換するだけで不調が嘘のように治ってしまう事を何度も経験しているので、半年~一年以上使ったら先ずここから始めたい。

キャブの燃料流量調整膜はポンプ膜及びガスケット(パッキング)と組にした交換キットとしてWalbro純正品が販売されている。右はポンプ膜とそのガスケットだ。

取敢えずここではWalbroキャブレタだけを取り上げていく。


Walbro製のキャブに必要なのはAS600、650共にこの D22-HDA というキットで、ノリモノランドで購入できるが、更にネット検索、ヤフオクなどでも手に入る。「ワルボロ」或いは「ワルボロキャブレター」、「ワルボロリペアキット」で検索し、同じ型番が見当らなければ、出品一覧で探すなどして簡単に見つけることが出来る。
私は ponkichi173 という業者から買うことが多いが、同社では他にも燃料フィルタなど、また後々進むつもりのアクアスクータ本体の分解整備に不可欠なフライホイル抜き具=「スチール用フライホイルプラー」も扱っている(2015年2月現在)。(この抜き具はスチール社のチェンソー用だが本機のフライホイルのネジサイズにぴったりのもの)

他にもヤフオク或いは直接市場の検索その他でこのキットは探せるのだが、barubon oota という業者はニードルバルブなど他の部品を含めたフルリペアキット=K22-HDA=を買えばHDAキャブの日本語整備説明書を進呈と謳っている。このキットについては後日紹介するつもり。

AS450など旧型では Tilotson HS196A型 のキャブであり、こちらには別のものが必要だ。ノリモノランドで扱がある。
なお、Tilotson キャブ用アクアスクータを Walbro キャブに載せ替えるキットがドイツの業者 Aquascooter Deutch で販売されている。

更に初期のアクアスクータには、写真で見るとバイク用のフロート式キャブを装着したようなものもあるが、これらはもう骨董的なコレクション用だろう。




さて、作業としてはキャブの調整膜交換だけでもキャブ全体を取り外す必要があるが、その長ネジ2本がエルボと干渉したり、ガスケットが固着していたりで意外と外し辛い。特にエルボにテープを巻き付けて防水したりしてあると少々苦労する。AS650型ではこの長ネジが6角穴ネジなので、先が丸くなっている長めのボールポイントレンチを使うと、エルボにぶつからず都合が良い。マイナスネジなら少々やりづらいが、長めのドライバでエルボに傷つけぬよう作業する。

私の場合は浸水の可能性を招かぬよう、なるべく部品を動かしたり外したりせず済ませたいのだが、結局タンクアセンブリを外してしまうことが多い。実はそのほうが、キャブ本体は固定されたままなので、再組立してもエルボ取付部以外からの浸水可能性が低い。チューブ類は抜く必要があるが、作業としては別段難しいことはない。
予備のキットを現場へ持参する場合は、当然ながら必要な工具も持たねばならない。



キャブ単体を取外すか、タンクを外してキャブが露出したら、上蓋四隅のネジ4本を外してエアチューブの付いた蓋を取ると、調整膜が現れる。



1年半ほど経過した調整膜が凸凹と変形しているのが解る。





裏返したところ


ガスケットも取り去り、ついでに内部の汚れが無いことを確認しておく



かなりひどく変形し、硬化していた



こちらは別のもので、ひどい変形はないが、硬化してバネ性が低下している。使用は半年程だったと思うが、右の新品と比べると違いがよくわかる


燃料溜まりの点検
折角調整膜を外したのだから、連結稈の点検もしておこう。写真は上のものの部分だ

溜まり内部に特段異常がなければあまり気にすることは無いが、針弁=ニードルバルブに連結したレバーの高さは重要事項だ。HDAキャブの場合はこのレバー先端が縁と同じ高さ(面一)になっていなければならない。

そのことは、Walbro 取説の図のように定規を当ててみればすぐに判明する。もし面一になっていなければ、レバーを曲げて調整する。この点は後日さらに触れるつもりだ。




調整膜取付

連結稈にも問題なければ再組立をする。間違い易いが、必ずガスケットをキャブ本体に先に載せ、その上に金属円盤のある側を内側にして調整膜を載せる。位置決めのピンが2か所あるから穴が正しく合うようにして位置決めし、蓋を載せて4ヶ所のねじ止めをする。


私は急いでいる場合は次のポンプ膜には触れず、これだけで済ませてしまう。そのままタンクアセンブリを取り付けてさっさと使用する。
それは、ポンプ膜はキャブをスクータ本体から取り外さねば触ることが出来ないからだ。また、上で触れたように、外してしまうとマニフォルド~フランジ~キャブ本体~フランジ~エルボまで数か所のガスケットまたはシールが影響を受けてしまい、組立後も浸水の危険が高まるからだ。そして経験として、ポンプ膜の劣化は今まで一度も経験しなかった故だ。

=この項はその後ポンプ膜のトラブル・劣化が続出したので、不正確な内容であることがはっきりしている。後続の回を参照して欲しい。
従って、読者諸兄は膜の点検・交換には十分な注意を払って欲しい。=



キャブ下側の燃料ポンプ膜交換
上記の如く、今までポンプ膜が劣化していた経験は無く、ほとんど触る必要もないと感じている。しかしこれも折角キットに含まれるので、キャブ全体を取り外した場合はもちろん交換しながら点検はする。
こちらは中央の大ネジだけで蓋が取れる。


本体アルミ表面に錆がでたり、ごみが付着していればポンプ膜が密着せず、機能が低下するだろうから、交換時はさっと表面を清掃し、今度はポンプ膜を先に本体のアルミに接するように載せ、それからガスケットを載せて蓋をする。これも位置決めピン2ヶ所が完全に合うように正しく組立てること。



キャブの再取付の際は、エンジン側のマニフォルド~フランジ~キャブ左端面にクランク室の脈動圧を伝える通路、つまり穴があるので、それを塞がぬよう注意が必要だ。上で触れたように何段にも部品が重ねられて兎角浸水を起こし易いので、各部ガスケットの状態には要注意で、怪しければ液体ガスケットを塗布したり、適当な接着剤を塗ってからにする。





エルボの取付部は特に浸水しやすい。ここも液体ガスケットや耐ガソリン性のある接着剤を併用すると安心だ。急いで作業しなければならない場合などは前回紹介したゴムの両面テープが有効だ。



今回は簡単で効果絶大な調整膜交換だけを紹介した。次からはWalbroのマニュアルも参照しながらキャブ全体の整備に触れたい。  
=小坂夏樹=


=Blog第8回 整備編 -キャブレタ② 終り= 






















Blog第7回 整備編-キャブレタ①=小坂夏樹=#7 Carburettor Maintenance①

2015年02月20日 | マニュアル

本機の整備業者用の資料が実は輸入代理店のノリモノランド社に有るらしいが、ポイント式高圧ユニットなどを扱った古い資料で、しかも専用治工具が必要らしい。興味のある向きは同社に尋ねてみればよいだろう。私は友人の個人的な紹介でアクアスクータと同社を知ったが、様々な質問にも丁寧に答えてくれる、信頼できる業者だ。

いずれにしろ、一般使用者を念頭に置いた本機の整備情報は全く不足していると言える。そこで、内燃機関の素人ではあるが、これまた素人のアクアスクータ・魚突き仲間の為に整備方法をまとめようというのが本編で、使用経験と各種資料に基づき、各種情報源も表示する。
そんな訳で内容は常に疑いながら読んで欲しい。


[1]キャブレタ(気化器)編

アクアスクータ付属マニュアルの手順に従って調整し、高圧部も正常に作動している場合でも始動できないかすぐエンストしてしまうなど、これまで紹介したような不調が続くのはキャブレタ(キャブ)が影響している場合が多い。キャブは最重要装置と言えるだろう。

今回は先ずキャブの機能を大略理解しよう。その後に実地の整備方法を紹介する。


WalbroキャブレタHDA型とその原理図
      
これはAS650に使われているHDA-233B型
AS600型などのHDA-155型も内部は同じ構成



キャブの構成はこの図のようなもので、スロットルバルブ(弁)とチョークバルブの開度から、現在は低~中速域にあることが解る。
動作としては、燃料を霧状にして空気と混ぜて混合気体にし(気化)、シリンダに送り込むもの。
この図を見れば、繰り返し触れているLネジとHネジの役割が理解できると思う。

キャブにはいくつかの形式があり、アクアスクータではチェンソーと同じで、逆さにしても正常に作動する「膜(ダイアフラムまたはメンブレン)式」といい、燃料ポンプ膜と流量調整ニードルバルブ(針弁)を駆動する流量調整膜が使われている。実際、同じHDAシリーズのキャブが様々なチェンソーに採用されているので、関係業者であれば技術内容は理解できるし共通した部品を持っていたりする筈だ。図中、ニードルバルブは途中を省略して表示してあることに注意

形式は違っても原理は昔ながらの霧吹き方式で、空気通路を絞った部分=ベンチュリとかスロート(喉)= で圧力が変化してその部分に設けたメインノズルから燃料を吸い出す。HDAシリーズでは別にアイドルノズルがあるが、絞りの替りにスロットル弁(バタフライ)の位置による圧力変化でこちらからも燃料が噴射される。いわゆる「2段式」というものらしい。
ネット情報で詳しい知識が得られると思う。


ここで掲示するキャブの図は Walbro社キャブレタのオンラインマニュアルから勝手に転載するものだが、同社のネットページから取得し、日本語訳を付けてある。
原図は Walbro Service Manual で検索すればそのままの表題で見つかる。30ページ以上の詳しいマニュアルで、英文が少々面倒だが役に立つ。

これとは別に、HDAモデルのマニュアルがあり、 Walbro HDA manualで検索すれば表示される。こちらのほうが我等にとってはより重要かもしれない。展開図もあるのだが、それはHDAシリーズでも別の代表的番号のキャブであり、本機の物とはかなり異なる印象がある。


なお、マニュアルの原図はこれらの図とは上下が逆でひっくり返した状態が標準となっている。キャブレタ現物の刻印を見ても、本機ではキャブレタは標準とは上下逆取付に配置されている。どんな角度でも作動するキャブだから、単に構成上このような設計にしたのだろうが、そのせいで本機の運搬中には、上側になってしまった燃料溜まりから、キャブレタ内に過剰に燃料が垂込んでしまい易いようだ。つまり移動後に始動しようとしてよくあるプラグ被りの一因かもしれない。

このマニュアルには作動図の他に部品やトラブルシューティング、工具のページもある。大いに参考にしてほしい。




キャブの動作

順を追って作動状態をみると、

1、燃料の動き
まず燃料の混合ガソリンは、コックから繋がる燃料チューブ経由でキャブレタの燃料口から下部のポンプ部に吸い込まれる。そのポンプを動かす動力はクランク室の脈動圧で、現物ではフランジの中に通路穴があってキャブレタと繋がっている。ポンプは同時に吸い込んだ燃料を加圧し、針弁・ニードルバルブ経由で上部の燃料溜まりに送る。
ポンプそのものはペラペラ動く薄いプラスチック?板で、一方向弁として2箇所の孔を交互に塞いだり開いたりすることで簡単に構成されている。

この図では解りづらいが、圧縮工程ではクランク室の圧力が低下して黄色で示す通路経由でポンプ膜が引っ張られて燃料が吸い込まれる。赤が燃料 青は混合気の流れ

吸気工程では逆に圧力上昇でポンプ膜が押し上げられる。

この動きで一方向弁が動かされ燃料が加圧されて上部へ送られることになる。


2、上部燃料溜まり
上部燃料溜まりでは、噴出口・ノズルから燃料が吸い出されて内部圧力が低下すると、流量調整膜が大気圧力で押されて連結稈経由で針弁・ニードルバルブを開ける。燃料が送られて膜の内外がバランスするとバルブは閉じられる。バルブを押えているバネと大気圧による膜のバランスが巧くいかないと燃料過多でプラグ被りとなったり、逆に燃料不足で作動不良になる。
この調整膜の硬化などの劣化が最大の問題となる。



3、チョーク掛け・エンジン始動時のキャブの状態

(チョークを掛けない場合は次項以下のアイドリング~全開までの状態でそれぞれ始動させていることになる)

チョークを掛け、アクセルを少し握った状態で始動させれば、図のように流入空気が少なく、負圧が増大するので燃料はメインノズルとアイドルノズル両方から噴出して濃い混合気を作る。=この図では青い部分は空気(大気圧)=




4、アイドリング時
アクセルを離してしまえばスロットルバルブ(バタフライ)はほとんど閉じて、アイドルノズルだけから燃料が噴出する。青色は負圧を表している。この図のようにバタフライの外側になっているアイドルノズル2、3番からは空気が逆に侵入して燃料と混合し、アイドルノズル1番から噴出する。
メインノズルにも空気が逆流しそうだが、小さなチェックバルブ・逆止弁がそれを阻止している。
ISCネジを締めていくと機械的に連結したバタフライがだんだん開いてアイドルノズルの1番から2番、3番と噴出量が増え、アイドル回転が上昇する。




5、低~中速時
バタフライバルブがアイドルノズルを過ぎて開いているので、開度に応じてメインノズルからも燃料が噴射し始める。



6、全開時
バタフライバルブ全開なので、アイドルノズル位置ではバルブによる圧力変化が無くて噴射は少なく、メインノズルからほぼ全量が噴射される。





7、停止時
チョークを掛けて停止するのは始動時と同じバルブ位置になる。
なお、この図ではバタフライ(ここではスロットルバルブと表示してしまった)が少し開いた状態だが、停止時は普通はアクセルから手を離し、バタフライは閉じている。
どちらにせよ、チョークを閉じたことでメインノズルから大量の燃料が噴出し、プラグに過剰燃料が到達してエンストする。



     *****************
玄人でない者の説明では心許ないのだが、一応キャブの基本は以上の様に理解すればよいと思う。

次は不調の最大の原因になる「流量調整膜」の交換を取り上げたい。 
=小坂夏樹=


= Blog第7回 整備編 -キャブレタ① 終り =








 
 
  




Blog第6回 「水中(水面)でのトラブル対策」 =小坂夏樹=#6 Trouble in Water

2015年02月15日 | マニュアル
バイクでイザ出陣・・・・手銛の後ろは荷台に縛り前はハンドルが切れる程度にゆるくゴムひもで縛る。キャリアが無いのでボードは前に引掛け、アクアスクータは足元に置いて左足で押えるか、背負いかごに足ひれなど他の道具と一緒に入れて海岸へ。離島では宿からの移動距離も短いのでこんなことも出来るが、かなり危険でお勧めは出来ない。



前回まで、現地でアクアスクータを始動できない場合の対策を紹介してきたが、次は始動は出来たが、水に入った後のトラブル対策だ

水中(水面)でのトラブル
陸上で何事もなく始動が出来る場合でも、水に入る途端に様々な問題に遭遇する:

1)水中で不安定
始動した本機を水に入れて吹かそうとしても回転が上がらない、或いは不安定になる、吹かし続けないとエンストする場合は、更にキャブレタの調整が必要になる。既に紹介したとおり、LネジとISCネジの調整でアイドル回転を高めにするのが安全だ。吹け上がりが悪い場合はHネジを右に締めるだけで改善することが多い。
こうしてキャブレタのH/Lネジ調整だけで作動が安定すればよいが、何度調整しても不安定という場合は先に述べたように、内部の流量調整膜=ダイアフラムを疑ったほうが良い。これは私自身何度も、繰り返し悩まされた問題で、1年も経たずに交換が必要になったこともある。海岸で調整膜を交換することも可能だが、通常は持帰り交換することになるだろう。遠征の場合で、使用開始から半年も経過していたら予備品を用意しておきたい。
離島の宿に置きっぱなしにした結果、キャブが固着していた。海岸の車上でダイアフラムどころではなく、持参していた予備のキャブと交換している図

この燃料流量調整膜は、実質的に本機には最重要部品と思われるので、後日予定している整備編のキャブレタを参照し調整膜の交換その他の整備をして欲しい。


2)水に入れると停止する
始動して水に入るとすぐエンストする原因は:
‐キャブレタ調整不良: キャブレタ調整不良は最初に戻ってL/Hネジの基本位置からやり直す。前項の如く、調整膜の劣化なら、交換するしかない。
‐プラグキャップで漏電: 漏電の場合は吹かしながら水に入れると感電で手にびりびり来るので解る事が多い。取敢えずキャップに輪ゴムをきつく掛ける、ゴムテープを巻き付ける他、接着剤でシールするなどで急場を凌ぐことだ。写真でプラグキャップに巻付けたテープはニトムズの両面ゴムテープで、手銛の握りに使ったり、ウエットスーツが破れたときの応急修理に使ったりとあれこれと便利なので紹介する。



‐浸水:吸気流路のエルボ、キャブ周りのガスケットなどからの浸水があるとすぐにエンストする。但し浸水がごく少量の場合は暫く操縦しているうちにプラグが濡れて火花が飛ばなくなってからエンストする。見た目では解り難いがプラグに付着した液体が僅かに白っぽくなっていたら浸水を疑う。
私はある日海上を快調に操縦していて突然エンストし、やっと戻って点検すると問題なく始動する、ということを何度か体験したことがある。原因はエルボが小さくひび割れてごく少量の浸水をしていたことだったが、判明したのは宿に帰って点検した結果だった。このようなエルボ周りであれば、これも上記のゴムテープ巻付で凌ぐことが出来るだろう。

浸水は意外な箇所からも起こるので、ねじ込み部やチューブの嵌めあいを点検する=燃料コックのパッキング不良で水が少しずつ吸い込まれていて、コックを交換したら解決したとの話もある。
で、点検と言っても少量の浸水箇所は外から見ても判らない。点検方法としては、タイヤのパンクと同じで、本機全体を水に漬けて空気(吸気)流路に圧力を掛け、気泡が出るかどうか、或いは石鹸水を塗り付けて泡が出る場所を見つけることだ。浸水は外から内へ、この点検では内から外への漏れなので、完全に対応するか疑問もあるだろうが、現実にはこれしか方法は無い。
点検方法は、スノーケルをくわえて思いっきり息の圧力を掛ければ良いのだが、これでは視野が限られてしまい、自分だけでは気泡の発生個所がはっきり見えないことが多い。そこで、簡易的ではあるが遠征先での点検には、スノーケル先端にビニール袋をかぶせて輪ゴムなりビニテープなりでしっかり押さえて空気袋の形にし、それを握ったり、押し付けるなどして圧力を上げ、発生個所を見つけることが出来る。

但しこの圧力検査では、当然ながら排気口からは空気が漏れてしまうので、それを押えたり塞いだりとの手間は掛けなければならない。

かなり使い続けた場合で、プロペラシャフトの水シールからの浸水も経験がある。何度も浸水して浸水箇所が分からなかったが、ふと、尻を下げてプロペラ部だけを完全に水に漬けるとエンストするので判明したことがある。こんなトラブルは遠征先では簡単に修理というわけにはいかないから諦めて持帰って修理するしかない。

浸水対策も、今後紹介する整備上の重要項目だ。


3)走行後しばらく停止した後で再始動が出来ない
魚突きなら停止を頻繁にするからこの問題が深刻だ。
水に入れると回転が上がらないなど不安定なまま走って、一旦止めてしまうと水面での再始動をできないことが多い。こんな場合は上記のキャブレタ調整が重要だ。水面での調整はなかなか面倒で、出発地点へ戻れなければ、可能であれば近場の岸へ上がり、今まで紹介した方法を総合して何とか再始動させる。そして一旦始動したら回転を止めることなく、吹かしながら入水してそのまま上陸点へ戻ったほうが身のためだ。しかし重い本機を抱えて岩場に上がるのは、穏やかに感じられる場合でも波で危険な目に遭いやすいので判断は慎重にしたい。

魚突きに時間が掛り、さあ再始動しようとしても浸水で始動ロープがガシッと固まって引けない場合は通常は上陸して水抜をし再始動させる。そして浸水箇所が解れば塞ぐが、それらしい箇所が無ければ、たぶん排気バルブからの浸水だろうと目星を付ける。何故なら、圧力テストではこの部分は押えるか塞いでおかねばならず、実質的に検査できないからだ。これはやっかいで、今まで何でもなかったのに長時間浮かべておいたためにここから浸水することがある。勿論先に挙げたプロペラシャフトも考えられるが、この場合は回転と共に水を巻き込むイメージであり、静止中は気づかず運転中に浸水・エンストすることが多い。

水抜きして再始動が巧くいったら・・・・再び水に浮かべて暫く運転し、更に停止してしばらく放置し、再始動が可能か試してみる。これで問題なければまた使用を継続すればよい・・・・と行きたいところだが、それでは不安が残る。状況次第だが、私なら再始動出来たら、いくらそこに魚が群れていても、上陸地点へ戻る事を優先する。一旦戻って更に詳しく点検したほうが良い。

ボード或いはゴムボート状の梵天(フロート)などを曳航している場合は、(そもそも魚突きをしている間は本機をボードに載せて置けば浸水の危険が無いのだが!!)そのボード上でこれらの調整、水抜、プラグ交換をすることも不可能ではない。
波や流れの弱い場所を探し気を落ち着けて事に当ろう。私自身は何度も経験済みだ。この場合も、前回紹介したように、排気バルブを外してみると回復し易い。そして始動できたら、エンジンを決して止めることなく吹かしたままで水に入り、そのまま上陸地点へと帰る。排気バルブを取除いても吹かしたままであれば浸水はしないから、非常の時には試してみると良い

4)浸水時の処置
マニュアルに処置方法が紹介されているのでそれに従い、内部を十分排水する。プラグを抜き、ひっくり返して始動ロープを何度も引くだろうが、その時にスノーケルをねじ込む空気孔が岩に接していると縁に傷がついてこれまた浸水の原因になるから保護すること。
その後乾かしたプラグをまた取り付けるが、時間短縮と確実性からは新品に交換すれば完璧だ。これで普通に始動させる。勿論そもそもの浸水原因は取り除かねばならない。その後暫く運転して内部をきれいにするよう心掛ける。イタリアのネットでは、その後2週間ほどは毎日10分程度でも運転した方が良いとのエンジニア?の意見が見られる。通常は以上の手順で意外と簡単に再始動が可能だ。
もしその場で再始動が出来ない場合は、残留水分と塩分がベアリングとピストンリングを腐食させぬよう、プラグ孔からエンジンオイルを多目に入れて始動ロープを何度も引き、内部をオイルで保護する。そして持帰ったら出来るだけ速やかに始動させるか修理することが肝要だ。

以上で現地で対応できるトラブル対策は一先ず終り。次回からは整備編として先ずキャブレタの情報紹介の予定です。同時に、各種情報源も紹介するつもりです。
=小坂夏樹=



=Blog第6回「水中(水面)でのトラブル対策」終り=








Blog 第5回 「現地でのトラブル対策 始動不可」 その3=小坂夏樹= #5 Hard Starting at Site ③

2015年02月14日 | マニュアル

予備プラグは防水ケースに入れてスノーケルに取付けるなどすると使い易い。広口のペットボトルも便利に使える。加熱して平たく潰したり、細く絞って携帯しやすくする。ウエスやプラグレンチも入れることが出来る。


=始動不可・前頁から続き=
5、排気口と排気弁=ゴムカップ

廃液(残滓)の排出及び排気弁なしでの始動
点火系は正常らしいがそれでも始動しないという時に、排気バルブを外して始動ロープを引いてみると、ごく簡単に始動出来る。それはゴムカップをバネで押さえていることからくる排気抵抗が無くなるからだ。こうして少なくともエンジンが回転していれば、不具合の原因を見つけやすくなる。


このとき、白い栓とバネだけを外せばゴムカップは浮いた状態で、抵抗が掛からなくなるから、このまま始動して構わない。但し、外すときは特に野外などではバネがはねて転がったりすると見失うことがあるから注意が肝要。

取敢えず私の経験では、
ピストン・シリンダの損傷で圧縮が不足
高圧部の不良で火花が不安定
キャブの流量調整膜が劣化
こんな場合でも不安定ながら始動は可能だった。
勿論万能と言うつもりはないが、特にプラグ被りらしいがプラグレンチを持っていないという時には是非試して欲しい。一旦始動すればプラグ被りは解消すると思う。

都合の良いことに、バルブを外すと、マフラー内に溜まっているどろりとした残滓が排出できる。これは混合ガソリン燃焼に伴う生成物つまり水や煤と吸気系から入った海水のしぶきなどの水分とを含んだものだ。エンジンを始動すれば、排気の圧力で排出されるのだが、停止してしまえば意外に多量の廃液が残っている。

遠征先で数日間使用したら始動が出来なくなり、キャブ調整をしても不調だったときに、バルブを外したところ大量の残滓が流れ出て、それを排出したら始動出来るようになったことがある。たとえ残留していてもそれほど抵抗になるとは考えづらいが、残滓が大量に溜まっていると、本体を傾けたり寝かせたりした時にシリンダに逆流してプラグを汚損することも考えられる。

始動したら、ついでのことに浮いた状態のゴムカップを指で押し付けてみると、先に紹介したように調子が良いかどうかが推測出来る。かなり押し付けてもエンストしなければそのまま使用して構わないというわけだ。



ところで排気バルブによる抵抗と浸水の可能性を除く方策として、ここ数年のイタリアでは、排気口にホースを直結して空中へまたは水中へ排気する改造が活発に行われている。PescaSubApneaフォーラムを見ると、空中排気用のマフラ(消音器)の仲間内での販売もされているようだ。私も現在改造したものを使っているが、もうこれしか使いたくないと思うほど快調だ。改造は簡単だ



後日詳細を紹介するがこれまたYouTubeに改造動画などが投稿されているから参照を薦める。写真はホースが入手できず、通常の水道ホースを使ったもので、2日ほどで穴が開いててしまった。今はピンクの耐油ホースに替えている。

以上で陸上での始動トラブル対策の項終わり。
次回は水に入ってのトラブル対策
 =小坂夏樹=


=Blog第5回「現地でのトラブル対策 始動不可」その3 終り=