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天皇と憲法〔週刊エコノミスト 特大号〕~ビデオメッセージ…三たび問われる安倍政権

2016-08-25 22:38:34 | 昭和天皇 平成天皇 天皇制

http://www.weekly-economist.com/2016/08/30/%E7%89%B9%E9%9B%86-%E5%A4%A9%E7%9A%87%E3%81%A8%E6%86%B2%E6%B3%95-2016%E5%B9%B48%E6%9C%8830%E6%97%A5%E7%89%B9%E5%A4%A7%E5%8F%B7/より転載

特集:天皇と憲法 2016年8月30日特大号

天皇陛下が心の内を率直に語った。異例の出来事に驚いた国民も多い。国と皇室、憲法のあり方を考える絶好の機会が訪れた。

第1部 天皇

◇“人間天皇”の重い決断

◇三たび問われる安倍政権

 

酒井雅浩/花谷美枝/金井暁子(編集部)

 天皇陛下が8月8日、11分、1800字の異例のビデオメッセージを公表した。

 「私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが、同時に事にあたっては、時として人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました」

天皇ご一家=御所・応接室で(宮内庁提供)天皇ご一家=御所・応接室で(宮内庁提供)

法律には「象徴」として何を務めなければいけないかは定められていない。陛下自身が「憲法下で象徴と位置づけられた天皇の望ましい在り方を、日々模索しつつ過ごして来ました」と語る。本来象徴のあり方を考えるべき国民がそれを放棄し、無責任に押し付けてきたというのが実情だろう。
 その陛下が高齢に伴う身体の衰えを考え「全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じて」望んでいるのが「生前退位」による皇位継承であり、気にかけているのが「皇室の将来」であることはメッセージから明らかだ。「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」ている。
 この陛下の思いを、政府の代表として受け止めなければならないのが安倍晋三首相である。だが、陛下と安倍首相が皇室の将来について軌を一にしているとはとても思えない。
 7月13日にNHKが初めて生前退位のご意向を報じたとき、「安倍首相は心から驚いたようだった。改憲スケジュールが狂う可能性もある」と、首相と付き合いが長い経済ブレーンは証言する。直前の参院選で、いわゆる「改憲勢力」が3分の2を超える議席を獲得したばかりだったからだ。生前退位の実現には憲法や皇室典範の検討が必要で、短期間で決着できる問題ではない。

 
戦地での祈りは陛下が大切にする公的行為(パラオで2015年4月9日、代表撮影)戦地での祈りは陛下が大切にする公的行為(パラオで2015年4月9日、代表撮影)

 そもそも、皇位継承をどうやって安定的に維持するかは長年の課題で、女系天皇と女性宮家が検討されたが、議論は先送りされている。安倍首相は「女系天皇」に反対の立場だ。自民党が野党時代の12年に月刊誌で、旧宮家の子孫(男系男子)の皇籍復帰を主張。「占領体制からの復帰という観点から特別立法の制定で、皇族たるにふさわしい方々に復帰していただく」と提案した。

 05年に小泉純一郎政権が女性・女系天皇を容認する報告書をまとめたが、06年に秋篠宮ご夫妻に悠仁さまが誕生したことで議論は下火になった。このときが第1次安倍政権。また12年には野田佳彦政権で、女性皇族が結婚後も皇室にとどまる「女性宮家」創設を柱とする論点をまとめたものの、12年12月の第2次安倍政権誕生後、議論が立ち消えになっている。
 

 陛下は今回のおことばを「『憲法違反』と批判される覚悟を持って発した」(宮内庁関係者)とされる。一方、早くも「政府は現在の陛下に限る特例として退位できる特別法の制定を軸に検討を始めた」と報道されるようになっている。だが、皇室典範改正に踏み込まなければ「安定的」とはほど遠い。

 米国の歴史家で、日本人の戦後の歩みを描いてピュリツァー賞を受賞した『敗北を抱きしめて』の著者、ジョン・ダワー氏は、生前退位のご意向について、「私は天皇陛下を尊敬している。生前退位の行く末がどうなるのか、近代になかったことでもあり予想しにくいが、陛下が心配だ」と編集部の取材に答えた。

 陛下は「国民の理解を得られることを、切に願っています」と結んだ。憲法が定める象徴天皇とは何か。主権者である日本国民として真剣に考えなければならない。(了)

 

 (『週刊エコノミスト』2016年8月30日特大号<8月22日発売>18~19ページより転載)
 

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生前退位に憲法改正は必要ない…憲法学界の通説的見解も、これまで示してきた政府見解も(南野森)ヤフーニュース

2016-08-25 00:51:41 | 昭和天皇 平成天皇 天皇制

http://bylines.news.yahoo.co.jp/minaminoshigeru/20160823-00061405/

生前退位に憲法改正は必要ない


日本テレビは昨日(2016年8月22日)、内閣法制局などが、天皇の生前退位を制度化するためには憲法改正が必要であると指摘していると報道した。同社のニュースサイトに掲載されたニュース原稿の全文はつぎの通りである。

 

天皇陛下の生前退位をめぐり、内閣法制局などが、将来にわたって生前退位を可能にするためには、「憲法改正が必要」と指摘していることが新たに分かった。

天皇陛下のお言葉について安倍首相は「重く受け止める」と表明したが、政府は憲法との整合性をいかに保つか、難題に直面している。政府関係者によると、憲法と法律との整合性をチェックする内閣法制局などは、生前退位を将来にわたって可能にするためには「憲法改正が必要」と指摘しているという。

これは憲法第1条で天皇の地位は日本国民の総意に基づくと定めていて、天皇の意思で退位することはこれに抵触するという理由。

一方、生前退位を今の天皇陛下にだけに限定するのであれば、特例法の制定で対応が可能だと説明しているという。政府は来月にも有識者会議を設置し、特例法の立法を軸に議論を進める考え。

菅官房長官「有識者会議の設置も含めて、どのように対応していくかということを、現在考えているところであります」

一方、特例法を定める場合でも退位された後の天皇の地位など、一から制度を作り上げる必要があり、政府高官は「調整はなかなか難しい」との見通しを示している。
 

天皇生前退位 制度化は「憲法改正が必要」(日テレNews24)

ちなみに、生前退位を可能とするために改憲が必要であるとする説(「改憲必要説」と呼ぼう)をメディアが採用するのはこれが初めてではない。8月6日・7日に実施された、産経新聞とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査においても、

現在の皇室制度では、天皇が生前に退位し、天皇の位を皇太子に譲る「生前退位」の規定がありません。生前退位について、あなたは、政府がどのように対応すべきだと思いますか。次の中から、あなたのお考えに近いものを1つ選び、お知らせください。

という質問(第13問)のつぎに、第14問として、

今後、天皇の「生前退位」が可能となるように、憲法を改正してもよいと思いますか、思いませんか。

という質問があった(→政治に関するFNN世論調査)。日本テレビの報道にせよ、産経=フジTVの世論調査にせよ、共通するのは、生前退位を(制度的に)可能とするためには、皇室典範の改正では足りず、憲法改正が必要になるという考えである。

しかし、このような考え(改憲必要説)は、憲法学界の通説的見解とも、日本政府がこれまで示してきた見解(政府見解)とも異なる。学説も、政府見解も、いずれも、生前退位の制度化のためには憲法改正は不要であるとしてきたのである。つまり、「改憲不要説」が通説である。

 

生前退位をめぐる憲法と皇室典範の関係

日本国憲法第2条は、皇位継承についてつぎのように定める。

 

皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

ちなみに、大日本帝国憲法第2条では、つぎのように定められていた。

皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス
 

両憲法の規定を比較すれば明らかであるが、旧憲法では皇位継承資格者を「皇男子孫」に限定し、いわゆる女帝を憲法上否定していたのに対し、現憲法ではそのような限定がない。代わりに、皇位継承についての憲法上の条件として定められているのは、「世襲」であることのみである。
 つまり皇位を継承するためには(嫡系の)子孫でありさえすればよく、それ以外の条件(子孫のうち女子は継承できるのか、継承順位をどうするか、そしてどのような場合に皇位継承が生じるのか、等々)については、現憲法では、「国会の議決した皇室典範」の定めにすべて委ねられているわけである。

そしてこれをうけて皇室典範の第4条が、皇位継承が生じる原因を、つぎのように定めている。

天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。

皇室典範はこれ以外の皇位継承原因を定めておらず、したがって、皇位継承の原因は天皇の死去のみであり、いわゆる生前退位は認められないということになるのである。

以上の説明から明らかなように、生前退位を制度化するためには、皇室典範を改正すればよく、日本国憲法を改正する必要はない。

なお、「皇室典範」とは変わった名称であるが、これは旧憲法時代の旧皇室典範の名前を受け継いだだけで、その実質は、旧憲法時代のものとは異なり、日本国憲法第2条がわざわざ「国会の議決した」と述べるように、たんなる法律である。したがって、通常の法律と同じ手続で、通常の法律と同じように改正することができる。

ここまで述べてきたことは、憲法学界の標準的な考え方(通説的見解)であるが、これは、日本政府がこれまでに表明してきた見解(政府見解)でもあった。

 

生前退位をめぐる政府見解

生前退位を認めるために憲法改正は不要であるという「改憲不要説」は、国会でくりかえし、政府によって表明されてきた。

たとえば、1971(昭和46)年3月10日の衆議院内閣委員会の議事録を紹介しよう。ときは第3次佐藤栄作内閣である。民社党の当選10回の大ベテラン、受田新吉議員の質問に対する、後に最高裁判事をも務めることになる、高辻正巳内閣法制局長官の答弁がそれである。

受田議員:「(前略)要するに皇室典範は、天皇が崩じたるときは、皇嗣があとをつがれるとなっていて、天皇は一生涯その任にあられるわけです。そうなっておる。したがって退位論ということになると、これは皇室典範の規定の『天皇が崩じた』ところを改めるということで、一応法律論として済むのではないかと私は思うのですけれども、憲法の規定は世襲のところを別に改める必要はない。憲法問題ではなくして、憲法の委任を受けた皇室典範の改正ということで済めば国会でいつでもこれが扱われるという立場であると思うのです。そのことはあなたとしてまた、別途法律論としては異論があれば異論を言っていただきたい(後略)。」

高辻長官:「(前略)天皇の御退位についての法律上の問題点の御指摘がございましたが、これは簡単に申せば仰せのとおりだと思います。憲法の第2条の、皇位は『国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。』という規定を受けまして皇室典範があって、これも御指摘のとおり第4条『天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。』ということで、退位の御自由がないというのが現行の憲法及び法律のたてまえであります。したがって、概していえば仰せのとおりということがいえると思います。」

国会会議録検索システム


この約1年後にも、同様の「改憲不要説」が、こんどは宮内庁から示されている
。1972(昭和47)年4月26日の参議院予算委員会第一分科会。前年の参院選で初当選したばかりの元アナウンサー、木島則夫議員(民社党)と瓜生順良宮内庁次長の質疑応答である。

木島議員:「陛下御自身の問題としてではなくて、制度の問題として、現行の皇室典範を立案する際も、実は天皇の退位制度の功罪についていろいろ検討があったようでございますけれども、まだその結論は得ておりません。(中略)この退位制度は、これは憲法には抵触をしないで皇室典範を改正すれば可能であると宮内庁では解釈されているかどうか、(中略)お伺いをしたいと思います。」

瓜生次長:「(前略)何か皇室典範を改正すればそういう御退位も可能かということでございますが、純粋の法律論から言えばそうだと思います、 憲法には規定がないわけでありまするから。しかし、そういうようなことをいろいろ論議することも、いまお元気な陛下のお立場を考えますと、あまり愉快なことではないように私も思います。(後略)」

国会会議録検索システム
 

もう一つ、同様の「改憲不要説」を紹介しておこう。1978(昭和53)年3月16日の参議院予算委員会。やはり元アナウンサーで、田英男らと院内会派「社会クラブ」を結成し、のちに江田五月らの社民連に合流する秦豊(はた・ゆたか)議員の質問と、真田秀夫内閣法制局長官の答弁がそれである。ときは福田赳夫内閣である。

秦議員:「お元気な天皇で大変結構だと思いますが、お元気であればあるほどいまのうちに――退位や譲位がないんですね、皇室典範を変えなきゃならぬわけですね、法的には。」

真田長官:「その点もおっしゃるとおりでございます。もちろん、学説の中には、退位は憲法上できないんだという説もないこともないのですけれども、通説としては、憲法上その退位ができるかできないかは、法律である皇室典範の規定に譲っているというふうに言われておりますから、おっしゃるとおり皇室典範の改正が必要だということに相なります。」

秦議員:「皇室典範を改めるというのは、何か法的な妨げがございますか。」

真田長官:「同じく皇室典範と申しましても、明治憲法下の皇室典範は一種特別な法形式でありましたが、現在の皇室典範は通例の法律と同じように国会の議決によってつくられたものであり、国会の議決によって改正することができます。(後略)」

国会会議録検索システム

 

以上から明らかなように、日本政府の見解は、憲法学界の通説と同様、生前退位の制度化のためには憲法改正は必要なく、皇室典範の改正で足りるとする、「改憲不要説」なのである。
 

なのになぜ、今回、日本テレビは、「政府関係者によると」、「内閣法制局など」が改憲必要説を指摘していると突然報道したのだろうか。
不正確・不十分な報道(誤報?)なのか、それとも何か政治的意図があるのか、あるいはほんとうに内閣法制局が、過去の政府答弁にも憲法学界の通説にも反してそのような主張をしているのか(だとしたらそれは何故なのか)、現在の私には知る由もない。この点については、生前退位という論点そのものをめぐる議論とともに、今後の報道や(9月から始まるはずの臨時)国会での議論に注目したいと思う。

なお、生前退位と憲法をめぐる論点、とくに生前退位をどう制度化するべきかについては、言うまでもなくさまざまな議論がありうるし、私も必要に応じて今後論じていきたいとは思う。
 本稿は、それらの議論に立ち入るものではもちろんなく、ただ改憲必要説が内閣法制局などから主張されているという報道に接して、それはこれまでの政府見解とも学説とも異なるものである、ということを指摘するに留まるものである。

 

南野森 九州大学法学部教授

京都市生まれ。洛星中・高等学校、東京大学法学部を卒業後、東京大学大学院、パリ第十大学大学院で憲法学を専攻。2002年より九州大学法学部准教授、2014年より教授。主な著作に、『憲法学の現代的論点』(共著、有斐閣、初版2006年・第2版2009年)、『ブリッジブック法学入門』(編著、信山社、初版2009年・第2版2013年)、『法学の世界』(編著、日本評論社、2013年)、『憲法学の世界』(編著、日本評論社、2013年)、『リアリズムの法解釈理論――ミシェル・トロペール論文撰』(編訳、勁草書房、2013年)、『憲法主義』(内山奈月氏との共著、PHP研究所、初版2014年・文庫版2015年)など。

 

 

 


内閣法制局「天皇の生前退位は憲法改正が必要」に南野森教授・木村草太教授がダメ出し 〔なか2656の法務ブログ〕

2016-08-25 00:09:30 | 昭和天皇 平成天皇 天皇制

なか2656の法務ブログ

http://ameblo.jp/naka2656/entry-12193096398.html?frm_id=v.mypage-checklist--article--blog----naka2656_12193096398より転載

内閣法制局「天皇の生前退位は憲法改正が必要」に南野森教授・木村草太教授がダメ出し

2016-08-23 22:15:42
テーマ:

 天皇陛下の生前退位の問題に関連して、8月22日にテレビ局のニュースが、「内閣法制局が天皇の生前退位は憲法改正が必要と主張している」と報道しました。

それは、「憲法第1条で天皇の地位は日本国民の総意に基づくと定めていて、天皇の意思で退位することはこれに抵触するという理由」だそうです。これは呆れてしまいました。


・天皇生前退位 制度化は「憲法改正が必要」|日テレ
 



この点、内閣法制局のあげている憲法1条は、

日本国憲法

第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。


という条文です。明治憲法1条が「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」と戦前の日本が天皇主権であることを明記しているのに対して、現行憲法1条の最大の目的は、「主権の存する日本国民」の文言にある通り、戦後の日本が国民主権であることを表すことにあります。
(芹沢斉など『基本法コンメンタール[第5版]』15頁、芦部信喜『憲法 第6版』44頁)

そのうえで、1条は日本国および日本国民統合の象徴としての天皇の「地位」は、その主権者たる日本国民の総意(=意思)に基づくとしています。

つまり、内閣法制局があげている「国民の総意」とは、主権者たる国民の意思が象徴天皇という地位、つまり象徴天皇制を認めているという意味です。

そこで、具体的に天皇には誰がどのようになるのかといった皇位の具体的・手続的な内容は、憲法2条が「国会の議決した皇室典範に定めるところによ(る)」としています。

つまり、憲法が規定しているのはここまでなのであり、皇位に関するより具体的・手続き的な事柄は皇室典範という名称の法律に委ねられています。(憲法2条があえて「国会の議決した皇室典範」という文言を用いているのは、皇室典範を憲法でなく法律のひとつであることを明確化するためです。)

ですから、生前退位を認める・認めない、認めるとしてどのような方式で行う等を決めるためには憲法を改正する必要はありません。国会が淡々と皇室典範の改正を行えばよいだけです。


なお、このテーマに関してはヤフー・ニュースに九州大学の憲法の南野森先生が寄稿されていました。憲法の通説だけでなく、これまでの政府の見解についてもわかりやすく解説されており、政府見解からみても、今回の内閣法制局の主張が無理筋であることがよくわかります。


・生前退位に憲法改正は必要ない|南野森九州大学教授

ところで、本日夜にツイッターにおいて、南野先生がこの寄稿の告知のツイートをされているところ、何と首都大学の憲法の木村草太先生が、引用リツイートで加勢をしていることを目撃し、驚いてしまいました。

 
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木村草太

木村草太さんがナンノツモリダー!™(南野 森)をリツイートしました

 

 

「学説の中には、退位は憲法上できないんだという説もないこともないのですけれども、通説としては、憲法上その退位ができるかできないかは、法律である皇室典範の規定に譲っている」(真田法制局長官答弁・昭和53年3月16日参院予算委員会)

木村草太さんが追加

 
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あっという間に結成された気鋭のオーソドックスな憲法学者2名の連合軍から速攻で「ダメ出し」をされてしまったわけですが、内閣法制局や安倍政権はこの劣勢をどうひっくり返すつもりなのでしょうか。

政府が再び西修氏などを引っ張り出してきても、とても勝てるとは思えません。

また、内閣法制局といえば、内閣が国会に提出する法律案を審査したり、法律問題に関して総理その他の大臣に意見を述べる等の業務を行う「法の番人」とも呼ばれる重要な部署です。それが、どうしても改憲がしたいという安倍政権の使い走りとなって、このような子ども騙しの主張をしてくるのは非常に残念です。


 
■関連するブログ記事

・政府「天皇陛下の生前退位は憲法上無理」は何が無理なのか?
 
 

【木村草太の憲法の新手】(38)お言葉の責任 天皇の政治的利用を危惧 ...

 
 
 
 
 

<生前退位 こう考える> 横田耕一さん

2016-08-23 14:43:34 | 昭和天皇 平成天皇 天皇制

中日新聞 http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2016081802000101.html

2016年8月18日 朝刊

<生前退位 こう考える> 横田耕一さん
写真横田耕一さん


◆「公務とは」まず考えたい

 天皇陛下が八日に表明した「お言葉」は、天皇としての立場ではなく、天皇である個人としての立場で述べられました。個人の立場とはいえ、象徴天皇制のあるべき姿について踏み込んだ話をしています。その内容は、憲法的に賛成できない点がいくつかあります。

 一つは、憲法は天皇の任務として「国事行為のみ」と定めていますが、お言葉の「国事行為や、その(天皇の)象徴としての行為を限りなく縮小していくことには、無理があろうと思われます」からは、天皇は国事行為以外の公的行為もやるべきだという印象を受けます。天皇がしなければならないのは国事行為のみであって、政府の見解でも、公的行為は「やってもよい」とされる行為です。

 国事行為は、憲法で内閣の助言と承認が必要とされています。一方、憲法に規定がない公的行為は、内閣が責任を負うとされていますが、天皇の主導権を認めていて歯止めがありません。天皇陛下の忙しさは、その多くが公的行為です。

 もう一つは、「天皇が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たすためには」のお言葉から、天皇が国民をまとめるような印象を受けることです。これも、憲法は天皇に国民をまとめることを求めていない、という憲法学の通説とはずれがあります。

 憲法の「国民統合の象徴」とは、天皇に国民統合を期待しているのではなく、天皇は国民統合を表しているものにすぎません。ただし、社会心理的に統合する機能を果たす、と解釈されています。例えると、天皇は国民を積極的にまとめるような扇の要ではなく、国民の姿を映す鏡です。とはいえ、象徴天皇制があることで、結果的に国民をまとめるような働きはあるとの考え方です。

 天皇陛下は生前退位という言葉を使わなかったものの、生前退位の希望を述べたことは自明です。憲法は天皇が「国政に関する権能を有しない」と定めています。お言葉がテレビで一斉に放映され、退位の制度化に向けて政治が動きだすのは憲法上、望ましくありません。こうした状況をつくった宮内庁の責任は大きいと言えます。

 本来は陛下の気持ちを忖度(そんたく)して、宮内庁が内々で検討したり、内閣に伝えたりして話を進めるべきです。陛下は五年ほど前から、内部でお気持ちを漏らしていたと伝えられています。政府はもっと早い段階から、議論を始めるべきだったとも言えます。

 皇室典範の改正は、お言葉を述べた天皇陛下をイメージしながら、差し迫った状況で慌ただしくやる議論ではないと思います。大きな目でいろいろなことを考えて、じっくり結論を出すべきです。

 国民主権の原則から言えば、「陛下がこう言ったから」という理由で議論するのではなく、陛下の事情とは別に、天皇制のあり方を客観的に考え、その中で生前退位の是非を検討すればよいと思います。その場合、「天皇の公務とは何か」から考え直す必要があるのではないでしょうか。

 (聞き手・森川清志)

 

 <天皇の行為> 
 政府は天皇の行為について、法律の公布など13項目の国事行為と、国内各地への訪問など象徴の地位に基づく公的行為、宮中祭祀(さいし)などその他の行為の三つに分類。国事行為は憲法で規定されているが、公的行為とその他の行為は規定がない。公的行為は他に新年一般参賀、国会開会式や全国戦没者追悼式への出席、外国訪問などがある。

 <よこた・こういち> 1939年、高知市生まれ。東京大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。九州大教授、流通経済大教授を務めた。専門は憲法学。著書に「憲法と天皇制」、共著に「国民主権と天皇制」「象徴天皇制の構造」など。

 

 

 

 


「天皇に基本的人権はあるのか、自己決定権を行使できるのか」~憲法から読み解く (ニューズウィーク日本版サイト‐ 長嶺超輝)

2016-08-19 21:42:05 | 昭和天皇 平成天皇 天皇制

「天皇に基本的人権はあるのか、自己決定権を行使できるのか」

 

意見をつなぐ、日本が変わる。BLOGOShttp://blogos.com/article/187541/?p=1より転載

天皇陛下の基本的人権――日本国憲法から読み解く ‐ 長嶺超輝

<天皇陛下の「お言葉」公表をきっかけに、生前退位を可能にする法改正をすべきかどうかが議論されている。ここで、改めて憲法を読み込んで整理しておきたい。そもそも、天皇陛下は基本的人権をお持ちなのか。基本的人権に制約がかけられているとして、どの条文によるどのような制約なのか。果たして生前退位に憲法改正は必要なのか>

 去る8月8日、天皇陛下が「お気持ち」を語るビデオメッセージが公表された。これをきっかけに、天皇という地位をご自身の意思で譲ることを可能にする法改正をすべきかどうか、すべきとしてどのような形を採るべきかが議論されている。

【参考記事】天皇陛下の「お言葉」全文

 神話の時代も含めて2600年以上、125代にわたって連綿と継承されてきた皇位だが、天皇が生前に皇位を譲って退いた例は、歴史をひもとけば過去に58例あるとされ、全体の約46.4%にも及ぶ。つまり、生前退位そのものは皇統の本質を脅かすものではない。

 ただ、最後の生前退位の例は1817年の光格天皇で、それ以来、約200年間も行われていない。生前退位が行われていた時代の雰囲気を誰も知らないので、「本当にやっていいのかどうか」現代人が不安を覚える要素は確かにある。

 まず、確認しておきたいのは、天皇陛下も日本国民でいらっしゃる以上、基本的人権をお持ちだという事実である。

◆日本国憲法 第11条
 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 ただし、天皇という極めて特殊な地位ゆえに、その基本的人権に特別な制約がかけられる場合がある。というより、人権が制約されていると考えなければ説明しようのない様々な制度が、陛下を取り巻いているのである。

 まず、日本国憲法1条で「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と定められていることから、日本国籍から離脱する自由(22条2項)を、天皇陛下は持ちえないとされる。国外に移住する自由も、事実上封じられているといえよう。

 また、日本国憲法2条で「皇位は世襲のもの」とされていることから、「両性の合意のみ」で成立するはずの婚姻の自由(24条1項)も制約されていると考えられる。まわりの反対を押し切って結婚することはさすがに不可能だろうし、生涯独身を貫く、いわば消極的婚姻の自由も実現困難と思われる。

 日本国憲法4条は「国政に関する権能を有しない」と定めている。そのため、天皇陛下は選挙権や被選挙権(15条)を持ちえない。法改正や政権批判などの政治的発言が許されないことから、表現の自由(21条1項)や学問の自由(23条)も一部で制約を受ける。「お気持ち」のビデオメッセージで、生前退位のご希望を遠回しにしか表明なさらなかったのも、生前退位の実現には皇室典範の改正が欠かせないためだ。政治的発言と受け止められないよう、極めて慎重にお言葉を選んだためと思われる。

 なお、憲法上の制約ではないが、天皇は神道における祭祀の主宰者というお立場上、信教の自由(20条1項)も制約を受ける(理論上は、天皇陛下がお心の中で神道以外の宗教を信仰することは禁じられていない)。

 

天皇陛下は自己決定権を行使できるか

 では、天皇陛下は、ご自身の地位を、自らのお考えとタイミングで次の継承者へ譲り渡す「自己決定権」を行使することが許されないのだろうか。

 日本国憲法13条には、自己決定権の源流である幸福追求権が定められている。さらに「幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とも明記されている。よって、天皇陛下が生前に退位をお決めになる自己決定権も「立法その他の国政の上で、最大の尊重」をされるのが原則だ。もし、「最大の尊重」をされないとすれば、その例外を設けなければならない特別な根拠が、果たしてどこにあるのかが問題となる。

 1984年、当時やはり80歳を超えるご高齢だった昭和天皇の「生前退位」の是非が、国会で議論されたことがある。当時の宮内庁長官だった山本悟氏は、国会答弁として、生前退位を認めた場合の問題点を3つ挙げた。

●もし、退位を認めれば、「上皇」が存在しうる(天皇を超える影響力を生じさせかねず、それが社会に弊害を生むおそれがある)。
●何者かの圧力によって、天皇陛下ご自身の意思に沿わない「退位の強制」がなされる危険がある。
●天皇陛下が恣意的に退位できるようになる(「なんとなく嫌だから辞める」のも可能になり、皇室に対する敬意や信頼の基盤が揺らぎかねない)。

 以上の理由で、「生前退位」の自己決定権が封じ込められているのが実情だ。

 その皇位継承などについて定めた皇室典範は、明治時代になって初めてつくられた。当時の天皇陛下は、大日本帝国を代表する元首にして、国家の統治権を掌握する「現人神」だった。戦前ならびに戦時には、その計り知れない影響力が、先の戦争において軍部に都合よく利用されたこともあった。

 1946年7月、臨時法制調査会第一部会の小委員会において、天皇陛下が生前退位できるよう、皇室典範を改正すべきかどうかが議論された。

 このころ、陛下の「戦争責任」がGHQによって厳しく問われるおそれを、敗戦直後期の日本政府は怖れていた。もし、この状況下で皇室典範に生前退位を認める規定を盛り込めば、天皇陛下が自らのご判断で「辞任して戦争責任を果たす」ことを可能にしてしまう。そこで、当時の宮内庁を中心に、生前退位の導入を見送る動きが強まっていた。

 当のGHQは、マッカーサー元帥を中心に、天皇陛下の戦争責任は問わないことを確認していたものの、退位した「元・天皇」が政治運動などに乗り出す可能性を危険視し、やはり生前退位に反対していた。

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 1947年5月3日、日本国憲法と新しい皇室典範は同時に施行された。それ以後、天皇陛下は日本国の象徴でいらっしゃることを前提に、神ではなく「人間」として国民から敬意を寄せられている。ただ、その敬意の裏返しで、皇室の祭祀や行事、外国要人との面会以外にも、全国各地から大小多くのイベントへの出席を依頼されているのが現状である。82歳のご高齢にもかかわらず、週休0~2日という、驚くべき公務スケジュールが組まれている。このたびの「お気持ち」は、陛下の「悲鳴」に近いお言葉ではないだろうか。

生前退位に憲法改正は必要ない

 なお、生前退位を認めるのに、憲法改正までは必要ない。仮に、天皇陛下の地位が「終身制である」とか「崩御によってのみ終了する」といった類いのことが憲法に書かれていれば、その部分を改正することが、生前退位を認めるために最低限必要な手続きとなるだろう。だが、現在の憲法には「皇位は世襲のもの」としか書かれていない。

◆日本国憲法 第2条
 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

 この条文で、皇位が継承されるきっかけやタイミングが限定されていない以上、憲法改正は必要ない。生前退位を実現させるためには、皇室典範の改正で十分である。そして皇室典範は、他の法律と同じ手続(衆議院と参議院で、それぞれ過半数の議員の賛成)で改正できる。

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 皇太子殿下は現在56歳であり、生前退位が実現した暁には、一般であれば定年退職を控えたぐらいの年齢で初めて、極めて重い皇位を引き継がれることになる。少子高齢化の大波が、皇室にも例外なく押し寄せている現実を受け止め、時代の流れに応じて変えるべきところを速やかに変えていく決断が求められる。


 

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」