https://www.news-postseven.com/archives/20170707_575600.htmlより転載
官邸による4億円政府広報費 大メディア支配は完成の域に
2017.07.07 07:00
この国の大メディアは本当に権力を監視する役割を担えるのか──都議選告示のニュースを各紙各局が報じた同じ日、そんな疑念を抱かせる“サイン”が紙面や画面に登場していた。2012年の第二次政権発足以降、安倍官邸が着々と進めてきた大メディア支配は、いよいよ完成の域に入ろうとしている。
支持率大幅ダウンの安倍晋三・首相が強気の姿勢を崩さない。
「私の友人だから認めてくれ、という訳のわからない意向がまかり通る余地などまったくない」
東京都議選の告示翌日(6月24日)、産経新聞が運営する神戸「正論」懇話会の講演ではいつもの調子で加計学園問題での“潔白”を主張。国会閉会後の会見で一度は口にした「反省」も、国民への真摯な「謝罪」をする気も全く感じられない。
虚勢を張っているのか、それとも、逆風をはねのける自信があるのか。確かに、政権への風向きが複雑に変わりつつあった。
講演前日の都議選告示日から、朝日、読売、毎日はじめ全国の新聞70紙に「弾道ミサイル落下時の行動について」と題する黄色と赤の派手なレイアウトの政府広告が掲載された。政府の全国瞬時警報システム「Jアラート」でメッセージが流れたら、屋外にいる場合は「できる限り頑丈な建物や地下に避難する」、建物がなければ、「物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る」という、いわずもがなの避難方法を説明する内容だ。
テレビでも、全国の民放43局で「弾道ミサイルが日本に落下する可能性がある場合」という同じ内容のテレビCMが同日から一斉に流されている。テレビCMは7月6日まで2週間にわたって放映される予定で、新聞、インターネット広告と合わせてこの政府広報に3億6000万円もの税金が使われている。
折からの「男女共同参画週間」(6月23~29日)の提供テレビ番組などを合わせると、都議選中に政府から大メディアに流れ込んだカネは約4億円に達する。
しかし、北朝鮮の弾道ミサイル実験は4月と5月に3回ずつ行なわれた後、6月8日を最後に発射されていない。国民以上に目を光らせていなければならない稲田朋美・防衛相さえ、「北への備え」などそっちのけで自衛隊を都議選の“集票マシン”扱いしているではないか。なにゆえに、こんなタイミングで大々的な“避難の方法周知”キャンペーンが始まったのか。上智大学新聞学科の田島泰彦・教授が強い疑義を呈する。
「弾道ミサイルの政府広報は、差し迫った状況ではないのに、いたずらに国民の危機を煽って不安にさせる問題の多いやり方です。“外敵”の存在を強調し、国民のナショナリズム的な感情を高め、政権が抱える加計問題などの疑惑から目をそらさせる。それが狙いではないかとさえ感じられる」
◆そして効果は表われた…
メディアに配られた4億円の“実弾”の効果はすでに見て取れる。政権批判一色だった加計問題でも、都知事選についても、大メディアの報道姿勢に変化が見えてきたのだ。
そもそも加計学園問題は当初朝日新聞の報道ばかりが先行し、他紙は決して積極的ではなかった。それが文部科学省の前川喜平・前事務次官の告発会見(5月25日)で国民の怒りに一気に火がついた。テレビのワイドショーはこぞって加計追及報道に参戦、「前川さんを善玉として取り上げないと視聴率が取れなくなった」(テレビ局報道スタッフ)からだ。
前川氏の出会い系バー通いを報じた読売新聞は批判にさらされ、安倍政治を礼賛してやまない産経新聞まで、〈冷静さ欠いた菅義偉官房長官 前川喜平前文部次官を「許せない!」 個人攻撃で問題こじれた〉(6月18日)と官邸の対応のまずさを指摘したほどだ。国民の空気は変わり、各紙の世論調査で内閣支持率が急落。東京都議選でも自民党は一気に苦戦に陥った。
ところが、政府広報が掲載された後に行なわれた前川氏の2回目の記者会見はなぜかワイドショーでもほとんど取り上げられることはなかった。
都議選についても、日本テレビ系『スッキリ!!』(6月26日放映)でコメンテーターの橋本五郎・読売新聞特別編集委員がこんな論理で都民ファーストの勝ち過ぎを牽制した。
「地方自治は二元代表制。互いにチェックし合ってほしいと住民が知事を選び、都議会議員も選ぶ。あまり知事与党ばかりになってしまうと、チェック機能がなくなってしまう恐れがある」
一見、正論のように聞こえるが、前々回の都知事選で都議会で圧倒的多数を持つ自公が舛添要一氏を支援した時に、「知事与党ばかりになる」という批判は見られなかった。前出の田島教授は政府広報に飛びついたメディア側の事情をこう語る。
「テレビ局はスポンサーからの広告料が減り、新聞は発行部数が落ちてどこも経営が苦しい。政府広報は取りっぱぐれがない確実な収入源だからメディアにとって非常においしい。そうした広告に縛られると、メディアは政府と適正な距離をおいて批判することができなくなる」
※週刊ポスト2017年7月14日号