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ネトウヨは、卒業することを知らない
湯浅誠×やまもといちろう リベラル対談(前編)
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集合知で解答にたどり着く可能性を探った
湯浅:やまもとさんは、どうして「2ちゃんねる」をつくったのですか。
やまもと:えっ、湯浅さん、そ、そこの話からですか?
湯浅:だめ?(笑)
やまもと:いや、いいですよ。(笑)。あれはね、もともと西村(西村博之氏)が作ったもので、私はそれに乗っかっていただけです。彼は頭の回転の速い、非常に優秀な男です。だけど当時からその場限りの瞬発力で行動するところがありまして、ビジネスをするにはあまりにも不安定すぎる。だから私は、とりあえず協力みたいな感じで関わっていました。
湯浅:「2ちゃんねる」は、やまもとさんにとっては、どういう目的だったのですか?
やまもと:当時は肩書きに関係なくフラットにものごとを話し合える場がなかったので、インターネットでの匿名掲示板が、(集合知)で一つの解答にたどり着く場になる可能性があると思ったんです。私自身も、パソコン通信の「ニフティーサーブ」で土地勘のある世界でしたし、ネットが作る匿名性によるフラットなコミュニケーションが築く未来ってどういうものなのか、一度見ていたいという夢がありまして。
湯浅:フラットに?
やまもと:「2ちゃんねる」には、社会悪を誰でも告発できる場にしたい、弱い人たちを助けるプラットホームにしたいという狙いもあったんです。匿名であれば、ある程度言いたいことが言えるじゃないですか。西村は、際どい情報が増えればそれを読みに来る人間も増える、と考えていました。
湯浅:へえ。知りませんでした。
やまもと:弱い人ほど自由にものが言えない。ブログなどが出てくるもっと前は、人がものを伝えることに関して、まだかなり制限がありましたから。西村が匿名制にこだわっていたのは、いろんな人がものごとを議論していくためには、肩書きが邪魔だと考えたからです。勤め人だったら特にね。私も、個人情報と切り離された言論空間があったほうがいいと当時は思っていました。
湯浅: 今は違いますか?
やまもと:今はもう「2ちゃんねる」が何をしようが個人情報は開いてしまうので、本来のユートピア的な機能は失われてしまいましたね。どう扱っても、誰が何を書いたかわかってしまう。
湯浅:そうでしたか。なぜ(集合知)がつくられていかなかったのでしょう。
やまもと:一部はつくられたと思いますよ。全部が全部だめだったわけではなくて、「2ちゃんねる」だからこそ、できたこともたくさんあった。ただ、デマの発生源にはなりやすいし、知らない人が集まっている中で、悪意のあるもっともらしいガセネタが流れるとどうしても信じてしまう人たちが出てしまう。
湯浅:悪意がむき出しになって出てくることも多くあると言われていますが。
やまもと:意外と人間って善でも悪でもない中立なところがあって、悪に偏りすぎたときは必ずそれを是正する動きがあると思いますよ。その場その場では脊髄反射しても、一定の年月が経つとある程度はあるべきところに収まっているというような、ある種の自然治癒力みたいなものがあります。
日本人であることしか誇れない人たちは多い
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湯浅:右寄りの意見が増えてきているんじゃないんですか。
やまもと:いや、まったくそんなことないですよ。よく右傾化とか言われるけど、過激なことを言うと目立つというだけで、一定のノイジーマイノリティが目立ってしまうのはネットでの言論の特徴だと思います。
湯浅:というと?
やまもと:特に「2ちゃんねる」の住人だけでなくネットに入り浸っている人たちの一部は、かなり特徴的に過激なことを言い、またそれを信奉して、信者同士が互いに思想強化しあっているところがありまして。
例えば「あなたは何が誇れますか?」と聞かれたとき、職歴が誇れない、学歴が誇れない、家系が誇れない。日本人であることしか誇れない人たちが結構いっぱいいます。本当は、高いところに自分の理想があっても現実の自分はそこにまったく手が届かない。だから、彼らなりの合理的な選択として右翼的な発言をするコミュニティや、ある種の反原発運動のような極端な思想と活動をしているネットのねぐらに居場所を見つけようとします。とりわけ、右翼的な発言をする彼らのアイデンティティは、実は日本人であること以外ない。そうなると民族主義的な発言をしやすくなるということです。
でもそれは今に始まったことではなくて、明治維新のときに攘夷運動をしていた連中だって同じですよ。何の学もなく地方から出てきて刀振り回してたような連中が、何を拠りどころにしたかと言えば、日本人の魂とか伝統。まだ日本という概念もはっきりしていなかったのに、そういったものに対して、えも知れぬロイヤルティーを持っていただけ。でもそれは人間の心の働きとして、自然なことだと思いますね。
湯浅:明治維新のときに攘夷運動をしていた連中(笑)
やまもと:実は右傾化的な発言をしているコミュニティーはものすごく小さい。その小さいのが、タコツボのようにグズグズ、グズグズやっている部分はあるんですが、マイノリティである割に声が大きいので、ヘイトスピーチやるぞ、となるとそれなりの人数が集まってしまうことになる。
湯浅:実数のロットは、何万人ぐらい?
やまもと:140万人ぐらいです。
湯浅:140万人も?! 私が思っていたよりは多いです。
やまもと:ネット調査会社を使って、かなり定期的にちゃんと調べてるんですよ。でも、だいたい有権者の2%前後が右派思想の持ち主だ、と言われれば何となくそんな感じじゃないですか。ネットだと、だいたい「2ちゃんねる」にネトウヨが、ほぼすべて集まって日々頑張っておられます。
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湯浅:ネトウヨの反対側の人たちは「2ちゃんねる」には集まっていないんですか?
やまもと:あ、「放射脳」ね。
湯浅:左の人を「2ちゃんねる」では「放射脳」って言うのですか?
やまもと:いや、本当の意味で右と左のように対称ではなくて、原発反対を過激に訴える人たちのことです。結局「放射脳」の人もネトウヨも、基本的にはものごとを中立的に理解するリテラシーを欠いていたり、制御できるかもしれないリスクを過大に評価する人たちの集まりですよ。本当のマジョリティーというのはもっともっと穏便なもんです。
湯浅:やまもとさん….(苦笑)
私は純粋なる保守主義者
やまもと:だってそうなんだもん。しかるべき教育を受けて物事を考える能力があり、相応の立場にいる人が、人前で日本は神の国だとか、従軍慰安婦問題の偏向報道は是正するべきだとか、南京大虐殺はなかったとか、言うかといったら言わないですよ。でしょう?
湯浅:ですね。
やまもと:たまにネトウヨを自認する人たちからイベントとか何とか動画に呼ばれて、しゃべってくれと言われて行くじゃないですか。そうすると、「やまもとさん、南京大虐殺はなかったですよね?」なんて言われるんですよ。「いや、あっただろ。ねえわけねえだろ」みたいな。(苦笑)
そしたら、次は「日本は侵略戦争してないですよね?」とか言うわけですよ。「したじゃん」みたいな(笑)。過剰に戦争を反省するべき時期は過ぎたけど、でも歴史的にはそう見られても仕方の無いこともあった。南京大虐殺にしたって、中国政府が言ったような人数については異論はあるし、そこは反論しなければならない、日本人としてね。だけど、さすがに無かったことにしちゃ駄目だ。
従軍慰安婦にしたって、いまごろ出てきている韓国人の老婆の被害告白なんてたいていがガセでしょう。だから日本人としてガセはいかんと言うことはしても、一応は旧日本軍が商売女を抱えてあれこれやっていたのだから、そこはいまの常識に照らし合わせて「辛い思いをさせて済まなかった」という態度をとっておくのは必要なことでしょう。
湯浅:なんでネトウヨの人たちは、やまもとさんを担ごうとするんですか?
やまもと:自分ではそんなつもりはないんですが、一時期はネトウヨの親玉みたいな思われ方をしました。全然違うわけですけど。私は純粋なる保守主義者(バーキアン)ですよ。
湯浅:そうなんだ。
やまもと:一方で「放射脳」の人も、セシウムが基準値を越えたから、もう3年後には日本人の大半が死滅します、みたいなことを言う。リテラシーのある人はおかしいだろって気づくようなことでも、軽薄で根拠のない議論に惑わされちゃう。
根が真面目なネトウヨも、少し真面目に考えりゃわかることを煽られて鵜呑みにする。ちょっと調べれば、在日特権とか言われているものもガセネタが多いわけですよ。そんなものが、さもあったかのようなネットの言説に惑わされて、自分で検証することなく信じた結果、「韓国人に虐げられている日本人は立ち上がるべきだ」と言うわけですよ。それはもう、ほんと少し考えたほうがいい。むしろ、それが事実だとしたら日本人は韓国人より余程劣っていることをネトウヨ自身が認めてしまっていることになるじゃないですか。
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湯浅:たしかに、全くの嘘がまるで真実のようにで出回ることもありますよね。
やまもと:ただ彼らが悪意を持ってやっているかというとそうではなくて、善の善たる動機です。ネトウヨも「放射脳」も、真剣に自分や家族や社会のことを考えて行動している。ピュアに、自分の得た情報は正しくて、活動が正義だと思っている。だからそこは、かわいそうというか、もったいない….。
ネトウヨは卒業を知らない
湯浅:その人たちに軌道修正するためのメッセージを伝えるのは、やまもとさんが適任かもしれませんね。私が何か言っても、その人たちには届かないから。
やまもと:でも彼らは軌道修正する情報には食いつきません。
湯浅:なんとかならないかな?
やまもと:ネトウヨの恐ろしいところは、卒業を知らないことですよ。普通、自分のしていることのバカバカしさに途中で気付くでしょう。
湯浅:平均年齢はどれくらいですか?
やまもと:一昨年に、調査会社さんの協力が得られたので一週間統計を取ったことがあります。「日本文化チャンネル桜」という右翼系のすてきな動画サイトの調査をする機会があって、興味があったのでGoogleのサービスやパネル調査で分析したら、42歳から46歳にでっかいボリュームゾーンがありました。
もう一つのもう少し小さいボリュームゾーンは、18、19歳から20代前半ぐらい。80歳以上にもなってかじりついている根っからの民族主義者もいましたね。そのときは太平洋戦争に関する動画を流していた日も含まれていたためか、偏りはあったのかもしれませんが、全年代にそういう民族主義者という層はいます。
民族主義的価値観の人たちは各年代層に1%から2%前後くらいのものですが、ウェブで発言するので存在が目立つ。ただタコツボなので、なかなか横には広がらないという傾向がありますね。
湯浅:卒業しないということは、時間がたてばたつほど確実に増えていくわけですか?
やまもと:「退室」はないですね。ネット右翼的な行動原理とか行動様式を持っている人たちは、やめませんね。だけど増えない。ずっと同じような主義主張をもって大人になり、老人になるんだと思います。
湯浅:まあ、ネットの世界だから、暴走族とかと違って、体がきつくなったりしませんものね。暴走族はやっぱり中年になると、だんだん夜中走り回るのが辛くなってくるから(笑)。
やまもと:(笑)
湯浅:ただ彼らが悪意を持ってやっているかというとそうではない。善の善たる動機なんだと、やまもとさんがおっしゃるなら、なんとか、そのパワーを、本当の意味での良い方向にもっていけないもんですかねぇ。
(構成:長山清子、撮影:今井康一)
湯浅 誠:社会活動家