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【必読】「駆け付け警護」は自衛官の命を軽視しすぎだ…致命的欠点!「戦傷医療体制の不備」、他に装備・車両・衣服もetc

2016-11-22 11:37:13 | 平和 戦争 自衛隊

東洋経済ONLINE http://toyokeizai.net/articles/-/146208?utm_source=morning-mail&utm_medium=email&utm_campaign=2016-11-22より転載

「駆け付け警護」は自衛官の命を軽視しすぎだ

南スーダンで多くの隊員が死ぬかもしれない 

 
 政府は11月18日、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣される新たな陸自部隊に安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」の実施任務を付与した。

結論から記すと、これらの任務で交戦を行った場合、自衛隊部隊は他国の軍隊ならば出さないような被害を出す可能性が高い。すなわち、他国の軍隊の何倍もの比率で戦死する可能性がある。戦死しないまでも、手足がなくなる、あるいは視力を失うなど重大な後遺症が残る被害を受ける隊員が他国よりも多く発生する可能性がある。なぜだろうか。

自衛隊は軍隊ではない

両足を失って義足を使用している英軍兵士のリハビリ。自衛隊でも同様のことが起こる可能性がある(筆者撮影)


実際の戦闘での戦傷はハリウッド映画のようなきれいなものではない。手足が吹き飛び、腸が腹部からはみ出し、火傷で全身が焼けただれ、眼球に砲弾の破片が食い込む。顔を銃で撃たれれば、顎から鼻までの部位がごっそり無くなる。まるでスプラッター映画やゾンビ映画のような凄惨な状態となる。

当然ながら、重症を負った兵士たちは激痛に苛まれる。これがリアルな戦場だ。これを果たして日本の政治家や国民がどれだけ理解しているだろうか。

政治家も、メディアも国民も自衛隊を軍隊だと認識しており、軍隊と同じ能力があると無条件に思い込んでいる。だが軍隊と自衛隊は決定的に違う点がある。自衛隊は武装こそ軍隊と同じだが、平時の通常の法制に縛られており、まったく実戦を想定していない。誤解を恐れずに申せば、サバイバルゲームのマニアをいきなり戦場に放り出すようなものだ。そんな馬鹿なことがあるかと憤慨する向きもあるだろうが、実際にそうなのだ。

小泉政権時代に「存在する自衛隊から機能する自衛隊へ」というスローガンで自衛隊の改革が試みられたが、実態は何も変わっていない。自衛隊は戦闘機や戦車など軍隊らしく見える「見栄えのいい道具」を買うことに重点を置き、その運用や実戦で使用した場合の損害を考えてこなかった。諸外国はイラクやアフガンで多くの犠牲を出し、装備や運用、訓練を大幅に見直しているが、これらに興味を示すこともなく、他国の戦訓を取り入れてもいない。

 

左写真はイギリスの展示会「DSEI」で展示された、戦傷手当用の訓練システムを取り付けた両肢を失った兵。右上写真はDSEIで展示された、切断された下肢の処置の訓練用システム。右下写真は、パリで行われた防衛装備見本市「ユーロサトリ2016」で米陸軍が展示した応急処置訓練用の人形。傷口が極めてリアルで、ボディはシリコン製で肌の質感も人体に近い(いずれも筆者撮影)


 ところが政治家や国民は災害派遣の印象だけで、自衛隊を精強であると信じ込んでいる。これには、自衛隊の実態や問題点を指摘してこなかったマスメディアにも責任の一端がある。実は先の東日本大震災でも、さまざまな問題が発生した。無線機が足りず、しかも通じなかった。鳴り物入りで導入した無人ヘリは信頼性が低く、一度も飛ばなかった。NBCスーツ(化学防護服)もほとんどなかった。

日本のメディアでは、これらの問題が報じられることは少ない。そのため、なおさら自衛隊の実態と国民が抱いているイメージとの乖離が大きくなっている。

確かに災害派遣では現場の部隊は頑張っている。しかし、彼らは中央の無策を現場で懸命に補っているに過ぎない。政府も国民もこうした現場の頑張りを当然と思ってはいないか。その現場力が、戦闘場面でも発揮されると期待しているのではないだろうか。

自衛隊の致命的な欠点とは?

自衛隊の個人携行救急品

言うまでもなく、戦争というものは現場力だけで戦えるようなものではない。実戦にあたって、自衛隊には致命的ともいえる欠点がある。それは「戦傷医療体制の不備」である。

自衛隊は戦争や戦闘で犠牲が出ることを想定してこなかった。各隊員が個人で装備する「ファースト・エイド・キット」は米陸軍が19アイテムを携帯しているのに対し、陸自はPKO用で8アイテム、国内用では3アイテムに過ぎない。太平洋戦争時における旧日本軍と同じか、それ以下の装備だ。

訓練もお粗末だ。米軍が将兵に施している救急処置の訓練項目は59項目だが、陸自がやっているのは2項目しかない。10月11日の参議院予算委員会での答弁で防衛省は個々の隊員の救急処置について「47項目を訓練している」と回答した。だが実技試験によって保証されている救急法検定項目はわずか2項目である。それ以外は各部隊長の努力目標であり、訓練する義務はない。これでは、教科書を配ったからみんな技能を持っていると主張しているのに等しい(米軍は座学、実技、試験を行っている)。

メディック(衛生兵)もお粗末だ。諸外国のメディックは高度な医療技術をマスターした専門家で、心電図モニター、超音波診断機器を駆使して傷病者の緊急度を判定し、治療の優先順位を判断することに長けているし、投薬、注射、簡単な手術もできる。
だが、自衛隊のメディックは麻酔投与すらできない。しかも陸自のメディックは人数が少なく、隊員250名あたり1名しかいない。我が国からODA(政府開発援助)を受けているヨルダン軍では1個分隊15名につき1名である。いかに少ないかがわかるだろう。

諸外国では下車歩兵1個分隊につき1つは折り畳み式の担架と後送に必要な救急品一式のセットを携行している。しかし、陸自には全く存在しない。そして戦闘地域の患者集合地点から負傷者を安全に運ぶための装甲野戦救急車も、これまた1台も存在しない。

 また、個々の隊員は、痛みを緩和するための麻酔や麻薬を携行できない。このため隊員が重篤な戦傷を負っても、痛みにもがき苦しみながら、絶命することが予想される。帯状疱疹でも痛みのあまりに死亡する人がいるが、人は痛みで死ぬこともあるのだ。麻酔を使えないために、助かる命が失われる可能性もある。他国の兵士であれば不要な苦痛や損害を自衛隊は甘受しなければならない。

これは、自衛隊が医師法に縛られているためだ。ここに手を付けなかったのは圧力団体である日本医師会の意向を忖度したものだろう。安倍政権は憲法改正を標榜しているが、憲法改正よりはるかに容易なはずの医師法改正もできない政権に憲法改正ができるのか、心配になってくる。

医師法以外にも、自衛隊に外国の軍隊に近い機能を持たせるためにはさまざまな法律の改正が必要だ。ところが、必要な法改正は小泉内閣以来まったく放置されている。

のみならず、法改正の必要がないレベルの問題も放置されている。例えば自衛隊の無線機がまともに通じない理由は、割り当てられている電波の周波数帯に問題があるからである。無線は軍隊の神経組織。これが機能しなければまともな戦闘はできない。しかし、問題は放置されたままだ。

戦傷医療体制の改革に乗り出したが・・・

多少の前進はある。防衛省は、有事の際の戦傷医療体制の改革に乗り出し、有事の際に最前線で負傷した自衛隊員の救命率を向上のため、医師免許がない隊員にも一部の医療行為を可能にすると発表した。具体的には、准看護師で救急救命士の資格を持つ隊員が、身体に侵襲を与える外科的処理をできるようになった。法改正は行わず解釈のみで可能とするものだ。

しかし、専門家からは戦傷医療の実態を無視した官僚作文に過ぎないと酷評されている。

しかもこの有事緊急救命処置の訓練開始は平成29年度、つまり来年度から。今度の南スーダンへの部隊派遣には間に合わない。それどころか、この改革は国内向けであり、PKOは対象とされていない。

つまり政府も防衛省も極めて低いレベルの戦傷医療体制で、多くの自衛隊員を危険な任務に送り出すことを問題ないと判断しているのだ。

確かにPKOの場合、国内部隊よりも手厚い衛生部隊が随行している。駆けつけ警護に備えて医官を3名から4名に増やしてもいる。だがNATO(北大西洋条約機構)やAU(アフリカ連合)などの軍隊では、この規模の部隊では医官が7名は必要とされている。指揮官が1名で、2交代で3名のチームとして運用される。この中には医師ではないが手足の外科手術をできるスタッフが置かれるのだが、日本の法律では医官でないと手術を行えない。

現地との連携も不安だ。重篤な負傷が発生した場合、PKO部隊はケニアで処置することになっている。しかし、ケニア部隊は南スーダンから撤退することになっている。国連が今年7月の戦闘に対応できなかった南スーダンPKOのケニア人司令官を解任したからだ。反発したケニア政府は、PKO部隊は機能不全と批判し、部隊を撤退させることにしたのである。

これまでケニアは、内陸国である南スーダンのPKO部隊に補給経路を提供してきたが、今後はこれも期待できなくなるだろう。ケニアまでの負傷者の搬送をケニア軍に頼ることもできなくなる。国連といさかいを起こして撤退したケニアが、責任をもってPKO部隊の負傷者受け入れを担当するとは考えにくい。

重篤な負傷をした隊員の家族への配慮も欠けている。他国ではそのような万が一の場合に備えて、受け入れ病院に家族が見舞えるよう事前に手配がなされている。死亡するにしても息のあるうちに家族との再会を果たせるようにするためだ。だが今回派遣される部隊の家族は、そのような説明を受けていないようだ。

自衛隊の抱える問題は、衛生面だけではない。

自衛隊には現地の情報を収集するまともな情報機関もなく、現地部隊はUAV(無人偵察機)も持っていない。他国では当然のように装備されている個人無線機もない。記事が長くなるのでここでは触れないが、陸自部隊が保有している武器の火力も劣っている。

命を守るという点で注目すべきは、防御力の弱点だ。自衛隊のヘルメット(88式鉄帽)は砲弾の破片に近似した弾速の拳銃弾が命中した際、10センチほど凹む。対して同世代の米軍のヘルメットは、拳銃弾よりも弾速が速いトカレフ拳銃弾で撃たれても凹みは2.5センチ以内だ。

被服にも問題がある。自衛隊の迷彩戦闘服は難燃性のビニロンを使用しているが、世界で筆者の知る限り時代遅れのビニロンを戦闘服に使用している国はない。

車輛にも問題が・・・

使用している車輛も生存性が低い。今回の南スーダンに派遣されている車輌はほとんどが非装甲の車輌であり、駆けつけ警護の交戦において射撃されれば当然ながら弾は貫通してしまう。今回派遣されている軽装甲機動車の装甲は筆者の取材した限り5.56ミリNATO弾や7.62ミリカラシニコフ弾に耐えられる程度のものだ。

軽装甲機動車は装甲が薄い。この車両上部には運用試験中と思われる監視装置が搭載されいている(筆者撮影)

被弾に際しては装甲の内側が剥離し、金属片が高速で飛散する。これによって乗員が負傷するケースは、敵弾が貫通するよりもむしろ多いくらいだ。

これを防ぐのが複合素材によるスポールライナーである。軽装甲機動車を開発する際、このスポールライナーを採用する計画もあったがコストが高くなるため採用されなかった経緯がある。また軽装甲機動車は地雷には極めて脆弱だ。触雷してしまえば戦死は確実だろう。まさに安かろう、悪かろうの軽装甲機動車なのだが、価格は諸外国の同程度の装甲車の5倍もする(来年度概算要求分)。

ここまで見てきた通り、自衛隊の装備は、とても実戦を想定したものとはいえない。防衛省、自衛隊は戦車や機動戦闘車など見栄えの良い高価な兵器を買うことには熱心だが、軍隊として備えるべき地味な装備や訓練にはカネをかけてこなかった。

「平成28年度防衛省行政事業レビュー外部有識者会合」資料では、「個人携行救急品を全隊員分確保した場合、約13億円が必要となるが、限られた予算においては現実的な金額ではない。よって、即応隊員分等の最低限必要となる分を確保し、有事等の際において追加で必要となる隊員分の取得方法について検討を実施している」としている。

隊員の身を守るのに最低必要な装備ですら、カネがもったいないから調達しないと言っているのである。10式戦車の単価は12.6億円だ。戦車を1輛減らせば13億円など簡単にひねり出せる。そもそも、わざわざ新たに10式戦車を開発、調達する必要はなく、90式戦車の改良と延命で十分だった。連隊規模で戦車が揚陸して戦車戦が発生する状況は防衛大綱でもほとんどありえないと述べており、優先順位が高いはずがない。

これでよしとしているのは、やはり自衛隊が実戦を想定していないからだろう。そして隊員の命は使い捨てと思っているからだろう。しかし、今一度しっかり現実を見つめ直さなければならない。惨事が起きてからでは遅いのである。

 

清谷 信一 :軍事ジャーナリスト 清谷 信一Shinichi Kiyotani軍事ジャーナリスト1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

 

 



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