連載「ギロン堂」
田原総一朗「モリカケはぐらかす安倍首相に自民党は異議を唱えよ」
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
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5月30日に、1年半ぶりに党首討論が開かれた。
立憲民主党の枝野幸男代表は、たとえば新たにおびただしい文書が出てきた森友学園疑惑について、昭恵夫人付の政府職員が財務省側に優遇措置を受けられないか、と打診をしていて、これは昭恵夫人が森友学園への国有地売却に関与していたということではないか、と追及した。
去年の2月に安倍首相は国会で、「もしも自分自身や妻が、森友学園の認可や土地売却に関与していたら、首相も国会議員も辞める」と断言していた。だが、この文書によれば、あきらかに昭恵夫人は関与していたことになるのではないか。だから安倍首相は辞任すべきではないか、と質したのだ。
それに対して安倍首相は、28日の参議院予算委員会で、「贈収賄はまったくない」と答えており、「それは去年から繰り返し述べていることで、新しい定義を定めたわけではない」と答えにもならない答弁をした。国民のほとんどは、安倍首相がはぐらかした、と捉えているはずである。
さらに、2015年2月25日に安倍首相が加計孝太郎氏と面会していた、という愛媛県の文書について、26日に加計学園が突然、安倍首相と加計理事長は面会していないのに、面会したという誤りの情報を愛媛県や今治市に伝えた、と発表した。国民のほとんどはこれが事実だとは捉えられないはずである。
枝野氏が、これがもし事実ならば、「なぜ(学園に)抗議しないのか」と問うと、安倍首相は「訴訟になれば時間がかかる。首相の時間を費やすべきではない」と答えた。これもまったく答えになっていない答弁である。つまり安倍首相は、党首討論をほとんどはぐらかし続けたわけだ。
それにしても、党首討論が45分というのはあまりにも短すぎる。野党第1党の立憲が19分、国民民主党15分、共産党6分、日本維新の会5分、と細分化されていた。だから安倍首相は易々とはぐらかすことができたのである。
前回も書いたのだが、安倍首相は15年2月25日に加計氏と面会したはずだ、と国民のほとんどが捉えている。さもなければ、当時の首相秘書官・柳瀬唯夫氏の言動がまったく理解できないからである。そして、昭恵夫人はあきらかに森友学園への国有地売却に関与していたことになる。
だが、現在の野党には安倍首相を追い詰める力量はない。
そして自民党内にも、安倍首相に問題あり、という声が生じない。実は、私が若かった時代は、野党の動向にはほとんど関心がなかった。自民党には主流派、反主流派、非主流派などがあり、主流派と反主流派の論戦がダイナミックで、リアリティーがあった。その意味で、自民党は自由で民主的な政党であった。自民党の首相が辞任し、交代するのも、野党との戦いに敗れたためではなく、反主流派、非主流派の批判、反対が強まったためであった。岸信介、田中角栄、福田赳夫、宮沢喜一などである。だからこそ、自民党は長く政権の座を確保し続けられたのである。
だが、小選挙区制になって、執行部の意に反すると公認が得られなくなり、ほとんどが安倍首相のイエスマンになってしまって、安倍首相に異議を唱える議員がいなくなってしまった。私は、これは自民党の劣化ではないかと捉えている。安倍首相を含めて、幹部たちはこの現象に危機意識を有するべきである。
※週刊朝日 2018年6月15日号