十九歳の時に、片思いの恋を
一度だけ。あとは恋に恋して
ばかり。臆病だった。
勇気がなかった。嫌われるのが
怖くて、丸ごとの女になれなか
った。求めることも、求められ
ることも、できないまま、まる
で蛹(さなぎ)のように、
身も心も固くして。それが、き
のうまでのわたし、あなたに出
会うまでの、わたし。
ふたりのあいだを、沈黙が流れ
た。透明な砂時計の中を、透明
な砂がさらだらと、こぼれ落ち
ていくような、清潔な沈黙。
「そう、いないんだ」
あのひとはそれ以上、何も言わ
なかった。「つき合って欲しい」
とも、「つき合おうか」とも。
わたしも、言えなかった。だっ
て、あしたはもう、遠く、離れ
離れになってしまう人に、
どうしてそんなことが言える?
茫洋とした海をあいだに挟んで、
東京とフランスに別れ別れに
なって、どうやって、つき合って
いったらいい?
カーテンの取りはずされた部屋
の窓から、見えていたのは朧月。
滲んで、霞んで、今にも闇に溶
けてしまいそう。
でもわたしはこの想いを、この
まま溶かしてしまいたくない。
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Olivia Ong-Fly Me To The Moon (LYRICS)
https://www.youtube.com/watch?v=tWsRSSDnY08