部屋に戻って、やりかけだった翻訳
の仕事を片づけたあと、昼間に買い
求め、連れて帰ってきた絵本を手に
取った。
「急ぎの仕事がある」というのは
嘘で、本当はこの「青い絵本」と
ふたりきりで時を過ごしたくて、
わたしはまっすぐに、ここに戻っ
てきたのかもしれない。
膝の上にのせて、ゆっくりとペー
ジを捲(めく)った。猫の背中を
撫でるように、大切に、大切に、
いとおしながら。
陽の光と、海から吹いてくる風を
感じるようにして、絵と文章を
味わった。
最後から三番目の見開きページ
まで進んできた時、瞼が涙で
膨らんだ。
その次のページを開いて、窓辺
に立って海を見つめている小さ
な熊のぬいぐるみの姿を見た時
に、涙があふれた。
最後の文字は、涙で曇って、読み
取れなくなった。
予想していたことだったけれど、
絵本を閉じたあと、わたしは頬を
伝う涙を止めることができなく
なっていた。
それなのに、また最初に戻って、読
んだ。
読みながら、小さな旅をした。子ども
時代のわたしへ。海辺へ。家族で
暮らしていた家へ。アメリカへ。
月へ。熊のぬいぐるみと一緒に、何
度も何度も旅に出かけては、戻って
きた。
この涙のわけは、悲しみなのか、感
動なのか、区別がつかなくなって
いた。そうやって長い時間、絵本と
一緒にすごしていた。
YouTube
Olivia Ong - Sweet Memories
https://www.youtube.com/watch?v=AEMDlRy12WI
の仕事を片づけたあと、昼間に買い
求め、連れて帰ってきた絵本を手に
取った。
「急ぎの仕事がある」というのは
嘘で、本当はこの「青い絵本」と
ふたりきりで時を過ごしたくて、
わたしはまっすぐに、ここに戻っ
てきたのかもしれない。
膝の上にのせて、ゆっくりとペー
ジを捲(めく)った。猫の背中を
撫でるように、大切に、大切に、
いとおしながら。
陽の光と、海から吹いてくる風を
感じるようにして、絵と文章を
味わった。
最後から三番目の見開きページ
まで進んできた時、瞼が涙で
膨らんだ。
その次のページを開いて、窓辺
に立って海を見つめている小さ
な熊のぬいぐるみの姿を見た時
に、涙があふれた。
最後の文字は、涙で曇って、読み
取れなくなった。
予想していたことだったけれど、
絵本を閉じたあと、わたしは頬を
伝う涙を止めることができなく
なっていた。
それなのに、また最初に戻って、読
んだ。
読みながら、小さな旅をした。子ども
時代のわたしへ。海辺へ。家族で
暮らしていた家へ。アメリカへ。
月へ。熊のぬいぐるみと一緒に、何
度も何度も旅に出かけては、戻って
きた。
この涙のわけは、悲しみなのか、感
動なのか、区別がつかなくなって
いた。そうやって長い時間、絵本と
一緒にすごしていた。
YouTube
Olivia Ong - Sweet Memories
https://www.youtube.com/watch?v=AEMDlRy12WI