
先日の東京滞在の折に購入した腕時計が、15日間かけて
オーバーホールを施され、今日納品となった。
仕様は、次の通り。
製造社名
International Watch Company (IWC)
製品名
Schaffhausen
製造年
1940
製造番号
#1015905 (Movement)
#1057494 (Case)
ケース仕様・形状・材質
Snap back, Cylinder, Stainless steel
風防
Glass (Original)
防水性
No waterproof
文字盤仕上・直径・インデックス・材質
Black mirror dial, 30mm, Roman index, Gold (Back ground)
針
Steel (Gilding)
ムーブメント
Cal.61
巻き上げ
hand
石数、振動数、誤差
16, 18,000/hour, 0~100seconds/day
ベルト幅、材質
17mm, Crocodile
コンディション
New old stock
*****************************
このIWCの時計は、ドイツの時計店からアメリカ市場に
流出したものであるらしい。
1940年製ということもあり、非防水・手巻であるのは
当然としても、
全くの未使用品として、68年間も誰にも所有されないまま
ドイツの街角に眠り続けていたということは驚きに値する。
いわゆるデッドストックというもので、この僕がはじめての
所有者、ということになる。
多少のリペアや尾錠・ベルトの取り換え程度は行われていても
ムーブメントや文字盤、針の保存状態が新品同様であることも
にわかには信じがたい。
しかし、絹糸のような繊細なデザインと仕上げを施された秒針の
その優美な動きを見れば、それが1940年代のIWCの時計で
あることに間違いはないことが一目でわかる。
また、文字盤の仕上げにおいても、まず下地に金メッキを施し、
紙片などでローマ数字のインデックスの型をあらかじめ配してから、
全体をピアノと同様の黒色鏡面に仕上げ、先ほどのローマ数字の
型を除去し、金色のインデックスを浮き出させている。
ずいぶんな手間仕事を施してある。
ではなぜ、今まで誰の手にも渡らなかったのだろうか、と考えた。
この時計には、1938年から5年間、約7~8,000個ほど
製造されたCal.61というムーブメントが、
コート・ド・ジュネーブと呼ばれる美しい縞状の磨き上げを施され
収められている。
時計の直径は30mmほどであり、現在の腕時計と比較すると随分
小振りに見える。
1940年代の腕時計は押し並べて小振りなのだが、一般的には
時計の外枠のベゼルと呼ばれる部分や文字盤、ケースの形状等に
アール・デコ様式の影響が色濃く残した、装飾性豊かで個性的な
デザインのものが多い。
この時計のデザインは、シリンダーケースと大きなリューズという、
バウハウスデザインに通じる機能美を備えている。
思うに、そうした美的装飾を排した容器は、第二次世界大戦下の
ひとびとの心には、おそらく何も訴えなかったのだろう。
そして、シリンダーケースの中の文字盤と針の、あまりに繊細な
作りかたに、内と外との不調和、弱さを見たのかもしれない。
大戦ののち、腕時計は大型化し、自動巻ムーブメントが一般化し
耐震・防磁機構が導入され、さらにクオーツ式時計が発明されて
機械式腕時計が衰退していくうちに、この時計もおそらくは
忘れ去られたのではあるまいか。
******************************
この時計は、僕が東京を訪れた8月15日、ちょうどその日に
店頭に並んだものであった。
お盆の真ん中という、東京の人口が最も減少し、時計好きの
ひとびとから時計の情報が最も遠ざかる日であったことが
幸いしたのかもしれない。
最初に手に取ったときには、現在流行の直径40mmという
大きくて厚い時計と比較して、やはり随分小さく感じた。
それはジャガー・ルクルトのレベルソを手にしたときも同じで、
そうした声を知ってか知らずか、ジャガー・ルクルトは後年、
ビッグ・レベルソやレベルソ・グランドなどの大型のモデルを
発売している。
現在販売されている機械式腕時計の標準サイズは約38mm、
大きなものでは44mmほどにもなる。
これでは、まるで懐中時計を手首につけて歩いているようで
何とも見栄えが悪いと思ったことが、アンティーク腕時計を
購入しようという一つのきっかけでもあった。
僕の手首の幅はちょうど60mmであるから、ちょうど32、
33mm程度のダイヤル径の時計がよく馴染む。
そうした大きさのものが、アンティークには揃っている。
やや小さいかな、と思いながら、その文字盤や針の仕上げを
見つめているうちに、その美しさに惚れこんでしまった。
そして裏蓋を開けてもらったとき、納められたムーブメント
Cal.61のコート・ド・ジュネーブと、配されたルビー、
歯車の動きと配列を見たときに、
この時計の最も美しい部分が隠されている、ということへの
官能的ともいえる機能美に、虜にされてしまったのだ。
****************************
届いた時計を改めて眺めると、シンプルという語を用いるにも
「単純」ではなく「純真」という意味を使うべきと感じるほど
機能としては一切の虚飾を排している。
そして、文字盤や針など、時計を構成する一切の可視的な要素の
作りにおいて、全くの妥協のない仕事がされている。
これを購うに、夏期の賞与では足りなかったが、
一生使うことができる、という点では、安い買い物だと思う。
人知の産物である時間を可視化した、その意匠と動きを眺めて
数時間が過ぎるような時計というものに巡り合えることなど、
そうあるものではないのだから。
しばらくは、遠出も散財も控えよう。
あとは、冬に備えて、アクアスキュータムのトレンチコートと
フランネル・ペンシルストライプのスーツを誂えるくらいか。
*****************************
近況。
祖母が寝たきりを脱し、店舗営業を継続。
父が再び倒れるも、大事に至らず、復調。
母は学会のため東京滞在、僕が一切の家事を行う。
誰からの便りもなく、出すべき便りもない。
業務9月より再び繁忙となる見込み。
職場内著しく不和。黙して語らず。
帰宅すれば初老含め老人3名のみ、年頃近いひとと
語らう機会はほとんどなし。
ひとびとが避けるのが露骨でどうにもいやな心持、で、
それをひとびとに返送するから、スパイラル。
ガソリン価格高騰のためボルボには乗らず。
酒量著しく減少し、一週間に一日程度、一合のみ。
体重が4kgほど減少。
断薬による副作用、禁断症状は終息傾向。
ピアノを弾かず、音楽を聴かず、本を眺め読んで
便りなくて一日が終わる。
休日、豪雨明けて快晴も、遊びに出ることもなく、
空ばかり眺めて過ごす。
鰯雲羊雲鱗雲飛行機雲の高く手に届かぬを諦めて
一切を見送るのみ。
オーバーホールを施され、今日納品となった。
仕様は、次の通り。
製造社名
International Watch Company (IWC)
製品名
Schaffhausen
製造年
1940
製造番号
#1015905 (Movement)
#1057494 (Case)
ケース仕様・形状・材質
Snap back, Cylinder, Stainless steel
風防
Glass (Original)
防水性
No waterproof
文字盤仕上・直径・インデックス・材質
Black mirror dial, 30mm, Roman index, Gold (Back ground)
針
Steel (Gilding)
ムーブメント
Cal.61
巻き上げ
hand
石数、振動数、誤差
16, 18,000/hour, 0~100seconds/day
ベルト幅、材質
17mm, Crocodile
コンディション
New old stock
*****************************
このIWCの時計は、ドイツの時計店からアメリカ市場に
流出したものであるらしい。
1940年製ということもあり、非防水・手巻であるのは
当然としても、
全くの未使用品として、68年間も誰にも所有されないまま
ドイツの街角に眠り続けていたということは驚きに値する。
いわゆるデッドストックというもので、この僕がはじめての
所有者、ということになる。
多少のリペアや尾錠・ベルトの取り換え程度は行われていても
ムーブメントや文字盤、針の保存状態が新品同様であることも
にわかには信じがたい。
しかし、絹糸のような繊細なデザインと仕上げを施された秒針の
その優美な動きを見れば、それが1940年代のIWCの時計で
あることに間違いはないことが一目でわかる。
また、文字盤の仕上げにおいても、まず下地に金メッキを施し、
紙片などでローマ数字のインデックスの型をあらかじめ配してから、
全体をピアノと同様の黒色鏡面に仕上げ、先ほどのローマ数字の
型を除去し、金色のインデックスを浮き出させている。
ずいぶんな手間仕事を施してある。
ではなぜ、今まで誰の手にも渡らなかったのだろうか、と考えた。
この時計には、1938年から5年間、約7~8,000個ほど
製造されたCal.61というムーブメントが、
コート・ド・ジュネーブと呼ばれる美しい縞状の磨き上げを施され
収められている。
時計の直径は30mmほどであり、現在の腕時計と比較すると随分
小振りに見える。
1940年代の腕時計は押し並べて小振りなのだが、一般的には
時計の外枠のベゼルと呼ばれる部分や文字盤、ケースの形状等に
アール・デコ様式の影響が色濃く残した、装飾性豊かで個性的な
デザインのものが多い。
この時計のデザインは、シリンダーケースと大きなリューズという、
バウハウスデザインに通じる機能美を備えている。
思うに、そうした美的装飾を排した容器は、第二次世界大戦下の
ひとびとの心には、おそらく何も訴えなかったのだろう。
そして、シリンダーケースの中の文字盤と針の、あまりに繊細な
作りかたに、内と外との不調和、弱さを見たのかもしれない。
大戦ののち、腕時計は大型化し、自動巻ムーブメントが一般化し
耐震・防磁機構が導入され、さらにクオーツ式時計が発明されて
機械式腕時計が衰退していくうちに、この時計もおそらくは
忘れ去られたのではあるまいか。
******************************
この時計は、僕が東京を訪れた8月15日、ちょうどその日に
店頭に並んだものであった。
お盆の真ん中という、東京の人口が最も減少し、時計好きの
ひとびとから時計の情報が最も遠ざかる日であったことが
幸いしたのかもしれない。
最初に手に取ったときには、現在流行の直径40mmという
大きくて厚い時計と比較して、やはり随分小さく感じた。
それはジャガー・ルクルトのレベルソを手にしたときも同じで、
そうした声を知ってか知らずか、ジャガー・ルクルトは後年、
ビッグ・レベルソやレベルソ・グランドなどの大型のモデルを
発売している。
現在販売されている機械式腕時計の標準サイズは約38mm、
大きなものでは44mmほどにもなる。
これでは、まるで懐中時計を手首につけて歩いているようで
何とも見栄えが悪いと思ったことが、アンティーク腕時計を
購入しようという一つのきっかけでもあった。
僕の手首の幅はちょうど60mmであるから、ちょうど32、
33mm程度のダイヤル径の時計がよく馴染む。
そうした大きさのものが、アンティークには揃っている。
やや小さいかな、と思いながら、その文字盤や針の仕上げを
見つめているうちに、その美しさに惚れこんでしまった。
そして裏蓋を開けてもらったとき、納められたムーブメント
Cal.61のコート・ド・ジュネーブと、配されたルビー、
歯車の動きと配列を見たときに、
この時計の最も美しい部分が隠されている、ということへの
官能的ともいえる機能美に、虜にされてしまったのだ。
****************************
届いた時計を改めて眺めると、シンプルという語を用いるにも
「単純」ではなく「純真」という意味を使うべきと感じるほど
機能としては一切の虚飾を排している。
そして、文字盤や針など、時計を構成する一切の可視的な要素の
作りにおいて、全くの妥協のない仕事がされている。
これを購うに、夏期の賞与では足りなかったが、
一生使うことができる、という点では、安い買い物だと思う。
人知の産物である時間を可視化した、その意匠と動きを眺めて
数時間が過ぎるような時計というものに巡り合えることなど、
そうあるものではないのだから。
しばらくは、遠出も散財も控えよう。
あとは、冬に備えて、アクアスキュータムのトレンチコートと
フランネル・ペンシルストライプのスーツを誂えるくらいか。
*****************************
近況。
祖母が寝たきりを脱し、店舗営業を継続。
父が再び倒れるも、大事に至らず、復調。
母は学会のため東京滞在、僕が一切の家事を行う。
誰からの便りもなく、出すべき便りもない。
業務9月より再び繁忙となる見込み。
職場内著しく不和。黙して語らず。
帰宅すれば初老含め老人3名のみ、年頃近いひとと
語らう機会はほとんどなし。
ひとびとが避けるのが露骨でどうにもいやな心持、で、
それをひとびとに返送するから、スパイラル。
ガソリン価格高騰のためボルボには乗らず。
酒量著しく減少し、一週間に一日程度、一合のみ。
体重が4kgほど減少。
断薬による副作用、禁断症状は終息傾向。
ピアノを弾かず、音楽を聴かず、本を眺め読んで
便りなくて一日が終わる。
休日、豪雨明けて快晴も、遊びに出ることもなく、
空ばかり眺めて過ごす。
鰯雲羊雲鱗雲飛行機雲の高く手に届かぬを諦めて
一切を見送るのみ。
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