半月ぶりに職場に戻ると自分の席があった。
5年前に倒れて3か月休職したときには
会社に行ったら席がなくなっていたので、
席があるというのは意外だった。 . . . 本文を読む
私の花はなんの花
艶やかなカトレアの花かな
心の美しいスズランの花かな
海の好きなハマナスの花かな
私の花はなんの花
母の愛のようなバラの花かな
ちょっとすましたユリの花かな
水遊びの好きなスイレンの花かな
私の花はなんの花
スマートなチューリップの花かな
いつも明るいヒマワリの花かな
山の好きなエーデルワイスの花かな
私の花はなんの花
爽やかな朝顔の花かな
可愛い小菊の花かな
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ひとりというのは自由でいて窮屈だ。
この世の中は金を遣わせるように出来ているから、ひとりよりも
ふたり、さんにん、を厚く遇するような施設がたくさんである。
その最たる例が日本の旅館で、これはひとり客を歓迎しない。
ひと部屋に最低でもふたり泊める、というのが採算の最低ラインに
なっているから、ひとり客は金にならないから泊めないのだ。
5割増しで泊まれるのならまだいいほうで、なかにはふたり分 . . . 本文を読む
ひとには、「母国語」でも、「日本語でもない」、
「母語」というべき言葉がある。
誰にも、「母国語」の語彙を用いて、自身の生活のなかで育み
ふくらませてきた、独自の言語の体系がある。
母語とよんでいるものはそれである。
そのひとだけに備わった言葉、の意味である。
ひとは母語に拠って生き、考え、感じている。
そのひとが話している言葉というのは極めてパーソナルで、
「日本語」、といった大まかな分類では到 . . . 本文を読む
未来って何なの。
聞かれたから、
こうあって欲しかったっていう過去のことや、って
いい切ったら、
記憶って何なの。
って、たずねられたから、
ずっとてめえが正しかったって言い張るのに使うための
嘘のかたまり、って答えた。
そしたら、じゃあ
意識って何なの。
って、聞かれたので、
てめえと関係ねえことに出しゃばるくせに、
都合が悪ぅなったら引っ込むカタツムリの眼みたいなもんや、
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うすうす気づいてはいたけれど、
僕にとってこの10年間、それは生きる支えでした。
その存在のおかげで、ぼくは復職もし、勉強もし、
演奏して、もっといえば生きてこれたと思います。
伝わることはないことも知っていて、
妨げにならないようにと、音信をなるべく絶っていた
それだけのことでした。
僕の心をおもんばかってのことだったのか、それとも
どうせ知っているだろう、ということからだったのか、
いずれにせ . . . 本文を読む
祖父は、今生きていれば、今日でちょうど90歳。
21年も前に死んだから、もう殆ど覚えていない。
黄疸でからだは真っ黄色、黄河で泳いだようなふうになり、
歩くこともできないくらいに衰え弱って、
座敷を這いずって、病院からの迎えの車に乗るために
玄関のほうへそろそろ進んで消えていった、
その痩せたくるぶしを見たのが、僕の見た最後の姿だった。
おじいちゃん、よくなるよ、と、話しかけた覚えがある . . . 本文を読む