白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

冷たい夕方

2008-11-23 | 日常、思うこと
冷たい夕方、
光の繊維が、ほそくほそく千切れて尽きていくさまを
窓越しに、風邪の臥し床から平行の眼で観ておりました。





ふと、思う、という、不図、という、はからずの声に
なにものか、影がそっと、移っていきます。
かそけき、余白に染みて落ちない、薄墨の、声、
雪が雨よりもすこし遅れて地上に到達するのと同じくらいに
すこし遅れて、響いてきます。





心臓を下にして横たわっておりますと、
うっかり目蓋を閉じ忘れて、
地底に眼を、卵でも割りいれるかのように
落としてしまいそうになります。





網膜の透間から重力がひとりでに浸み出していくような。
眠りとは、わたしたちを地球の核へ注ぐということかしら。
血液の壜詰、を、携えている歩みを止めてみますと
ふ、と、思った、という
それ、よりも、街に色彩があふれているのがわかります。





紅葉と果実とが映る水盤へと指を差し入れて搔いて混ぜて
引き上げて、指紋に蒸着した五色の糸滴、
わたしは珊瑚で築かれた蝶の教会の
あでやかな象眼を模様に透かしこんだこころでありたかった。





鼻が詰まっているせいで、山茶花のこれっぽっちの肌をも
嬲りつくすことができなかったものですから、
そっと花にちかづける闇まで
不貞寝する硝子体が反射しきれぬ霧の粒の糸を引き落ちるまで
待っておりました。
街燈が緑白に蝶を焼いて、色を路上へと投げかけておりました。





ふ、と、なんにもなかった、という声に、黙りました。
ちいさな声です。
ほんとうは 手で渡さなければならないような声で、
花とはほんとうは そういうものであるべきでした。





格子の額縁に 揺れる影花を匂うものがあるのでした。
その影のまだひとつ奥の茂みのなかにじっと息をひそめている
あなたこそ、だれなのですか。





愛するひとの、幼かったころを知らぬという口惜しさに
弾むのをやめたとたんのできごと、
詐欺師のようにあなたに出会いたくはなかった、という
ひとりごとへの、声、
薄墨の声。







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