死せる珊瑚を手にとって
掌のなかで掻き混ぜると
生命の破片の音は 針となって
切ない切ない糸を使って
鼓膜に瑠璃の海を刺繍した
風は竹林をおおきく靡かせる
ぼくは部屋の窓から頭を出して
じっともぎ取られるのを待った
竪琴を弾けぬオルフェウスのように
波動に揉まれ 反復される生成を
貝殻のなかのぼくの死のなかで
蜂蜜のように味わうために
ふと視線を落とすと
名前のない足はいつしか
名前のない砂と等質に伸縮し
名前のない水の揺らぎのなかに
大地を失っているように見えた
ぼくは手をじっと見つめた
そこにはしっかりと手のひらがあって
死せる珊瑚の周囲には
熱帯の魚が群れ泳ぐ
ほくは すぐさま水をすくって
ありったけの力で大地を蹴り
この手のひらの中へと飛び込んだ
****************
9月16日
その日
その場所にいられたことが
妙にうれしかった、と
誰かが言っていたその場所に僕はいて
いつものように悪ふざけしながら
いま 居合わせたひと 向かい合っているひとは
もしかすると もう二度と
話すこともなかったかもしれないひとだったから
あれから1年が経ったあと
あの場所に あのように居合わせて
5時間半もの時間を過ごしていながら
時計をふと振り返ると
誰かがいたずらでもしたかのように
針が先へ進んでしまっているのを見て
切なくもあたたかくもあり
胸がつまった
いてくれてありがとう
*******************
大阪 堺筋本町の
商工会議所横の真新しいホテルに宿泊し
翌日 京都へ入った
京都教育大キャンパスの講義室の
グランドピアノを弾く
傍らにいるトランペッタ―は
ただの一音も吹かないまま
時がすぎる
さまざまな 音楽以前の断片を
ぽろぽろと零しては
それを拾い集めて ふるいにかける
ワインを飲み
語らい
翌朝 翌昼
風 虫の音 子供の声
雲の流れ 碧空
山の端 京都展望
陽射し
彼がぽつり、ぽつりと吹き始め
やがて結晶した音楽は
ニ長調の巨大なコラールと
オリジナルコンポジション
そして
さまざまの転調と飛翔を経て統合された
巨大なホ長調の子宮
弾きおえると まるでトム・ハレルのように
虚脱して しばらくして動悸して
しばらくのあいだ 抜け殻のようだった
トランペッターは
自分がいてもいなくてもいい、というのだろうか
彼がそこにいたから
ぼくは 音を出せた
それだけのこと
***********************
発作を起こしかけたりして
綱渡りのような旅程だったけれど
たくさんの感謝は
僕を治す
9月16日から18日にかけて
旅をしてきました
奇跡を告げるメール
暖かな瞳
湧き出づる このこころの水脈の中へ
ざぶん。
掌のなかで掻き混ぜると
生命の破片の音は 針となって
切ない切ない糸を使って
鼓膜に瑠璃の海を刺繍した
風は竹林をおおきく靡かせる
ぼくは部屋の窓から頭を出して
じっともぎ取られるのを待った
竪琴を弾けぬオルフェウスのように
波動に揉まれ 反復される生成を
貝殻のなかのぼくの死のなかで
蜂蜜のように味わうために
ふと視線を落とすと
名前のない足はいつしか
名前のない砂と等質に伸縮し
名前のない水の揺らぎのなかに
大地を失っているように見えた
ぼくは手をじっと見つめた
そこにはしっかりと手のひらがあって
死せる珊瑚の周囲には
熱帯の魚が群れ泳ぐ
ほくは すぐさま水をすくって
ありったけの力で大地を蹴り
この手のひらの中へと飛び込んだ
****************
9月16日
その日
その場所にいられたことが
妙にうれしかった、と
誰かが言っていたその場所に僕はいて
いつものように悪ふざけしながら
いま 居合わせたひと 向かい合っているひとは
もしかすると もう二度と
話すこともなかったかもしれないひとだったから
あれから1年が経ったあと
あの場所に あのように居合わせて
5時間半もの時間を過ごしていながら
時計をふと振り返ると
誰かがいたずらでもしたかのように
針が先へ進んでしまっているのを見て
切なくもあたたかくもあり
胸がつまった
いてくれてありがとう
*******************
大阪 堺筋本町の
商工会議所横の真新しいホテルに宿泊し
翌日 京都へ入った
京都教育大キャンパスの講義室の
グランドピアノを弾く
傍らにいるトランペッタ―は
ただの一音も吹かないまま
時がすぎる
さまざまな 音楽以前の断片を
ぽろぽろと零しては
それを拾い集めて ふるいにかける
ワインを飲み
語らい
翌朝 翌昼
風 虫の音 子供の声
雲の流れ 碧空
山の端 京都展望
陽射し
彼がぽつり、ぽつりと吹き始め
やがて結晶した音楽は
ニ長調の巨大なコラールと
オリジナルコンポジション
そして
さまざまの転調と飛翔を経て統合された
巨大なホ長調の子宮
弾きおえると まるでトム・ハレルのように
虚脱して しばらくして動悸して
しばらくのあいだ 抜け殻のようだった
トランペッターは
自分がいてもいなくてもいい、というのだろうか
彼がそこにいたから
ぼくは 音を出せた
それだけのこと
***********************
発作を起こしかけたりして
綱渡りのような旅程だったけれど
たくさんの感謝は
僕を治す
9月16日から18日にかけて
旅をしてきました
奇跡を告げるメール
暖かな瞳
湧き出づる このこころの水脈の中へ
ざぶん。
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