空飛ぶ自由人・2

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小説『無限の月』

2023年10月12日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「ゴリラ裁判の日」でメフィスト賞を受賞した
須藤古都離(すどう・ことり)の第2作。

3つの話が、
時間軸を歪ませながら、
並行して描かれる。

まず、中国のある町で起こった出来事。
外国人カメラマンを案内する男。
町の人々を紹介する中、
英語を話せる女性とその夫に出会う。
真夜中、パソコンのディスプレイに
「助けてくれ、警察に連絡」の文字が表示された。
町中のパソコンに。
何者かによるハッキングが原因かと思われたが、
犯人はわからない。

2つ目は、タイダルというIT企業経営者の妻・聡美が、
相手の不倫が原因で別居をしていた夫と、
久しぶりに会う。
そして、気づく。
この人は、私が愛したあの人じゃない。
別人だ。

3つ目は、そのIT企業経営者・藤波隆の不思議な体験。
彼は脳科学をテクノロジーに昇華させた技術で、
一時代を築いた人物。
その技術というのは、
脳の中に装着した装置によって、
他人の脳の機能を共有し、
機能を高める、というもの。
ある日、開発途中で断念した失敗作の
頭部に着けるカチューシャ状の装置を
試しに装着した途端、
中国のある女性の脳と<同期>してしまい、
その人生を共有、
やがては記憶を乗っ取られてしまう。
外見は藤波隆だが、
内面は中国人女性・張月。

張月がDV夫に虐待されていることを知った隆(の中の張月)は、
「自分自身」を救うために、
中国に向かう。

3つの物語のピースが、
ある時点で一つにつながる
その見事さ。巧みだ。
特にプロローグに当たる、
カメラマンを案内した男の部分と
つながるのは、興奮を呼ぶ。
よくできたホラ話に翻弄される、知的な快感
しかも、並の「入れ替わりもの」とは違う、
ひねりが加わる。
藤波隆と帳月の交錯の描写は、
映画にしたら、さぞ効果的だろう。

特に、中国に行った藤波隆(の中の帳月)
「もう一人の帳月」と出会うあたりは、
超サスペンスフル。
また、子供時代の帳月の書を巡る話、
同級生の劉項との恋は、美しさを伴う。
隆の部下の木下の存在も魅力的だ。

最後に、脳が沢山の人とつながれた「集合的人格」の登場、
「ホモ・コネクサ」と呼ばれる、
人類の未来の姿が提示され、
この話が単なるヨタ話ではないことが示される。
この進化の究極点は、
いろいろな思想家も既に指摘している。

「ゴリラ裁判の日」も驚愕かつ新鮮だったが、
本書も読書人にとって脅かされる奇想に満ちている。

 



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