空飛ぶ自由人・2

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小説『まずはこれ食べて』

2025年03月11日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

ITベンチャー企業「ぐらんま」で働く人々の人間模様。

「ぐらんま」は、医療患者管理システムで伸びている会社。
大学の仲間たちで起業したものだ。
だから、仲間意識が強いし、半分学生気分が抜けない。
社長は多方向に気配りができる田中雄一、
営業の伊丹大悟(だいご)、
プログラム担当の桃田雄也(ゆうや)、
経理や事務仕事の池内胡雪(こゆき)の4人。
実は、元々はアイデアマンの柿枝駿(はやお)の発案で
成り立った会社だが、
その柿枝はある日失踪して所在不明。
メンバーの上に大きな影を落としている。

狭い会社で少ない人員で回しているから、
最近はいろいろと綻びが出ている。
不規則な生活で食事はおろそかになり、
社内も散らかり放題で殺伐とした雰囲気だ。
そんな状況を改善しようと、
社長は家政婦を雇うことにした。
やってきた家政婦の筧(かけい)みのりは無愛想が来てから、
職場がきれいに片づき、
夕食と夜食は心がほっとするご飯を作ってくれた。

6つの話で成り立つが、
メンバーたちの心の動き、本音が描かれる。
たとえば、事務だけではつまらないからと
営業まで手を伸ばしたが、
実績を上げられず、鬱屈を抱えている胡雪。
アルバイトのフィリピン人とのハーフのマイカは、
故郷の叔母に仕送りしている。
本当の不幸を叔母の上に重ねる。
マスコミに知られた社長に見込まれて転職を考えている伊丹。
唯一の趣味の山登りで孤独なテントですごす桃田。
筧自身も大阪のラブホテルで勤めていた時に、
面接した庄田翔太が無戸籍者だと知って、
東京に移転して、手がかりを探っている。

そんな時、柿枝らしき男を見かけた、という情報が入って来て、
社内に波紋が広がり、
ミステリーの色を帯びる。
そして、誰にも言っていない、
田中と柿枝の接触の話を
筧は田中から聞き出す。

と、多数の人物の心の中を辿るのだが、
それが結構重い
人間の心の闇にまで迫る。
原田ひ香の小説は、
ほっこり系で、軽い、と思っていたが、
これまでの作風と一味違い
こういう人生も描けるのかと、
見直した思い。

エピローグで、思いもしなかった展開があるのだが、
それまでの人物像とかなり違う造形があり、
戸惑う。

いろいろな問題を抱える人物に、
筧が作るお料理を「まずは食べてみて」と言って食べさせる。
食べることによって、悩んでいた気持ちが変わったり
区切りがついたりする。
食べ物の力を再認識する。

筧は思う。

彼らは何も知らない。
自分たちがどれだけ恵まれているか。
その代わり、
いろいろな不満や悩みがあっても、
小さい頃からちゃんと親がいて
育ててもらった彼らは
素直に愛情を示す方法を知っている。

 



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