空飛ぶ自由人・2

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小説『投身』

2023年07月28日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

大井町でハンバーグとナポリタンの2品だけの洋食屋を営む兵庫旭(あきら・女性)は
裕福な不動産会社会長の二階堂からその持ち物の物件を借りている。
7年前の開店の時、
格安の値段で店を借りられたのは、
二階堂との間で、奇妙な「契約」をしたからだ。
その契約とは、
二階堂が望む時点で、
1日だけ、「身も心も僕のために捧げて欲しい」というもの。

「まだ何年も先の話だとは思うけれど、
いざとなったとき、
一日でいいから兵庫さんを好きにさせてほしいんだ。
好きにすると言っても別にいのちに関わるような危険な目にあわせるわけじゃない。
それは約束する。
ただ、たった一日だけでいい、
身も心も僕のために捧げて欲しい」

その内容は、言わないし、
読者にも終盤まで明らかにされない。
二階堂は、旭の他に2人、同じ契約をしている女性がいるという。

二階堂は素敵な中年で、
二階堂の息子は旭を愛人だと疑っているが、
二人の間には、そのような関係はない。
二階堂は73歳。
旭は48歳。

ある時、二階堂に呼ばれた旭は、
その契約をした意図を告白される。
(これも、終盤まで読者には明かされていない)
約束の実行となる「その日」が近づいているようだ。

その「謎」への興味で物語を引っ張ると共に、
旭の男遍歴が描かれる。
医療機器販売の営業をしていた旭は、
同僚と関係を結ぶが、
その変態的な性癖により、別れを迎える。
病院のアルバイトに来ていた13歳年下の青年との関係では、
彼は交通事故で死に、
旭は、意図せずに自分が殺したものと認識してしまう。
会社勤めをやめて、
その青年の好物のハンバーグとナポリタンだけの食堂を始めたのは、
その罪滅ぼしのようなものだった。

また、美人の妹の連れ合い、義弟の藤光(ふじみつ)に
家の駐車場を洗車のために貸していたが、
自転車にぶつかって旭が怪我したのを治療をしている時に、
ひょんなきっかけで関係し、
妹にばれて、非難される。

その内容が「美人の妹と不美人な姉」の宿命論で、面白い。
関係が出来たのが、媚薬のせいだと言えと、
藤光に示唆する理屈も面白い。

「私が媚薬を使ってヒカル君を誘惑したって言えば、
絶対に真に受けるから。
自分みたいな美人じゃない女は、
そんな裏技でも使わなきゃ男にありつけないって
彼女は思っているし、
だから、そういう話を聞かされたら飛びついてくるよ。
何しろ美人は自尊心の塊だからね」

妹が親戚の女性と共にケーキとカフェの店を出すことについて、
旭が言う「商売の気」の話も興味深い。

「元気の気、病気の気、商売っ気の気」
「六三郎(父が経営していた飲食店)はおとうさんの舌とおかあさんの商売の気で繁盛していたの。
で、その二人の遺伝子は全部、私に来ちゃったのよ。
だからあの子が商売をやっても
そこそこにしかならないの」

ついに、二階堂との「契約」を果たす時が来る。
それは、思いもよらないものだった・・・

全体に性愛系の話が多い。
二階堂の娘、陶子(とうこ)は、
介護疲れを癒すために、
若い男を買い、時々バーベキューをやるために旭の家の庭を借りに来る。
その後、ホテルに行くのだという。

旭は美人ではないが、
48歳の魅力的な女性として描かれる。
会社勤めの時は、
営業部長によって、営業職に抜擢される。
「兵庫は顔と声が営業向きなんだ」
「大した美人じゃないが、
話すと魅力が出てくる。
一度会ったときより
二度目の方が美人に見える」
「兵庫のような“喋り美人”じゃないと、
女の営業は危ない」
と営業部長は言っていた。

終盤で題名の意味が判明し、
最後の4ページで二階堂の真の意図が明かされる。

感想レビューに「何だかなあ」というものがあったが、
私も同じ感想。
何だかなあ。

他に方法はなかったのか。
別な方向には進めなかったのか。
それとも、成功した裕福な老人の願望とは、
こういうものなのか。

ストーリーテラー白石一文の小説らしく、
設定は面白く、登場人物も魅力的。
ただ、結論は、私には未知の世界

 



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