[書籍紹介]
熊谷達也による、ロードバイク小説。
企業小説でもあり、コロナ小説でもある。
2020(令和2)年初頭、
仙台で妻子と暮らす54歳の印刷会社の会社員・本間優一は、
健康診断で赤信号をくらったことがきっかけで
運動しなければと決意するが、何をしたらいいかがか分からない。
そんな折、職場の飲み会で、20代の部下・水野唯から
「自転車が一番いいと思います」と勧められる。
「最も効率よく有酸素運動をできるのが自転車なんです」。
唯に連れられて自転車屋へ行くと、
ルビーレッドの高価な自転車に一目惚れをしてしまい、
妻を説得して(56万円の価格より少なく申告して)購入、
ロードバイク(本格的なスポーツ用自転車)に乗るようになる。
唯の指導を受けて、優一のロードバイク技術はめきめき向上していく。
舞台となるのは、2020(令和2)年初頭。
新型コロナウイルスのパンデミックにより、
日本中で経済も生活も変更を強いられた時代。
行動制限がなされ、
各企業がこぞってリモートワークに走っている状況下、
優一の会社も在宅勤務に切り換えざるを得なくなる。
そんな息苦しい状況にあっても、
自転車を通して、優一は新しい扉を開いてゆく。
つまり、
年齢的に先が見える中、
迫り来る老後に不安を抱えた同世代へのエールとなっている。
「明日へのペダル」と題名にあるとおり、
優一はロードバイクにその突破口を見いだす。
「河北新報」他の地方紙各紙に2020年7月から
2022年1月にわたって連載。
まさにコロナ禍の真っ只中に執筆された。
コロナ禍に陥った2020年の日本をドキュメントする記録文学でもあり、
その渦中で奮闘する企業小説である。
当時の世相が描かれており、
新規感染者が数十人程度で大騒ぎになっているのが、
二十万人に至った今から振り返ると、隔世のことのようだ。
とにかく、当時は、未知の病気への恐怖に
日本中が震え上がったいたのだと分かる。
「緊急事態宣言」などという恐ろしい名前の宣告がなされ、
飲食店が目の仇にされて、
営業時間の短縮営業を余儀なくされた。
そして、リモートワークという、
初体験に驚く様も、今となってはなつかしい。
自宅のパソコンを使って、仕事が可能だとは、
誰も考えていなかった。(一部ではやっていたが)
「昔から言われていることではあるけれど、
われわれは、自分の身体と時間を会社に拘束され、
その対価として給料をもらっているにすぎないということだ」
ロードバイクの魅力に取りつかれた優一は、
在宅勤務をいいことに、サドルにまたがり続け、
体重は減り、
血液検査の数値はぐんぐん良くなる。
優一の会社もコロナの影響を受けて、
先輩社員が会社を去り、
リストラの波が優一の部署にも及んで来る。
課内の1名をリストラ候補として指名された優一は、
近々社長になる専務と対決するが・・・
優一の先輩のリタイア後の生活にも触れる。
田舎に帰らず、貸し農園で野菜を育てる毎日。
故郷に帰る、という選択肢を選ばなかった理由がなかなかだ。
「これだけ長く街場の暮らしをしてしまうと、
これから田舎に戻って
あの濃密な人間関係の中で暮らすのは、ちょっとね。
田舎暮らしをするのなら、
まったく知らない土地に移住したほうがいいくらいだ」
そして、こう言う。
「コロナは確かに困ったものだが、
われわれに物事を深く考えるきっかけだけは
与えてくれているような気がするよ」
「わたしもそう思います。
コロナがなかったら、
残りのサラリーマン人生を
つつがなく終えることしか考えていなかったでしょうから」
余談だが、私も自転車にはまったことがある。
友人に勧められて、スポーツタイプの自転車を購入。
16万円。バイクが買える価格だ。
一時期は、浦安から品川の職場まで通ったこともある。
当時は、東西線で通っていたから、
その内側を走った方が近い気がしたのだ。
しかし、その後、京葉線が東京駅まで行くようになり、
自転車ルートよりも内側を電車が走るのでは
心理的に無理が来て、
自転車通勤はやめた。
今思えば、体力もあったんだな、という思い出。
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