[書籍紹介]
ある寂れた町の人々を巡る連作短編集。
商店街にはシャッターが目立ち、若者は都会に去り、
低層の団地には、老人だけが取り残されている。
幽霊が出るという噂さえある。
町を出た者たちも、
実家の父母の死などによって、
少しずつ回帰している。
それぞれ独立した5つの話だが、
登場人物の名前によって、
昔の中学同窓生たちの群像だと分かる。
『小説宝石』に不定期に掲載された短編を一つにまとめた。
トワイライトゾーン
偏差値があまり高くない女子高校の数学教師。
理解の貧困な生徒たちを前に、
自分の感情を心の奥深く隠して、時間をやりすごしている。
出たくもないクラス会の帰途、
立ち寄ったバーでカウンターの中にいる少年に魅了される。
その少年は男に体を売っているらしい。
ある日、その少年が書店で小学校のドリルを熱心に眺めているのを見て、
少年の「時間」を買い、ホテルで数学を教える。
不思議な関係だが、
ある日、少年が姿を消して・・・
クラス会で交わされる会話、
「人生って長いよな・・・長すぎるよ。俺はもう飽きちゃった」
「まあね、このあと何年生きるって分かれば、生きようもあるな」
「五十過ぎまで生きてきて、まだ半分、って言われたら、俺は怒るよ」
が悲しい。
螢光
父親の死を契機に閉店を決めた文具店の整理をしている女性。
私は長く生きすぎてはいないか?
との感慨がある。
終末論が盛んだった昔、
テレビに出ていた学者が
大気汚染などで、
今の子どもたちは47まで生きられない、
と言ったのが心に残っている。
なのに、恋愛をし、結婚し、子どもを生み、
今は義母にいやみを言われながら、
50を過ぎても、まだ生きている。
小学生の時、隣の席の山城君が
ノートを買ってもらえないらしく、
消しゴムで文字を消して再利用するのを見て、
お店のノートを盗んで与えようとしたが、
拒絶されたことが
心の傷になっている。
山城君は、団地側の池で死んだ。
クラス会に出た時、
その山城君の死の背後の事情を知らされて・・・
ルミネッセンス
内装屋を営む男性。
クラス会で初恋の人と再会し、
あるきっかけで月一度会い、
ひととき会話して別れるのを繰り返している。
どこからが不倫でどこまでがそうじゃないのか、
ちょっと悩んでいる。
しかし、その逢瀬を息子に知られ、
もう会わないと申し出ると、
相手の女性が・・・
宵闇
中学2年の花乃(かの)は、
いじめを受けている。
昔、交通事故でできた顔の傷跡のせいだ。
それが原因で父母は別れ、介護の仕事をしている母と二人暮らしで、
近所の団地に住む祖父の世話をしている。
夏休みに入り、学校に行かなくてすむとほっとしたのも束の間、
傷跡を強調した似顔絵が投函され、
それを配りに来た同級生の男子生徒を祖父が捕まえて、
お仕置きをする。
その祖父も亡くなり、
新学期を迎えた時、花乃は・・・
冥色
都心からこの町に移住してきたWEBデザイナー。
団地の中にあるパン屋の店主の女性と
関係を結ぶが、
肉体的には、別れて来た東京の女性に惹かれている。
その女性は、危険性を感じさせるので、
移転先を告げずに置いてきた。
しかし、その女性からメールが来て、
移住先を見つけたから、今度訪ねるという。
そして、近所の池まで来ていると言われて、
行ってみると、
そこで記憶の中で封印した事実を告げられる・・・
「宵闇」だけが希望の兆しが見えるラストだが、
それ以外の4篇が全て、50代の男女の
行き場のない閉塞感と孤独感に満ちた、
ダークな内容と、救いのないラスト。
従って、読後感は、極めて悪い。
人生の岐路で、ふとした事で道を外れていく人々。
50代でこんなだから、
60、70と進んだら、
どうなるのだろう。
ただ、文学作品としては、薫り高い。
過去の本ブログを読むと、
この作家の作品はもう読まない、
と書いてあるが、
何かの間違いで読んでしまった。
ただ、窪美澄も進化している。
題名の「ルミネッセンス」とは、
あるエネルギーで励起された電子が、
励起状態から基底状態に戻るときに発光する現象をいう。
冷光とも呼ばれる。
日常的にみられる例としては、角砂糖やキャンディーをこすり合わせた際や、
粘着テープを表面から引きはがす時に閃光を発することがある。
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