[映画紹介]
「ハケン」とは、「派遣」のことではなく、
「覇権」のこと。
アニメの頂点を指す。
直木賞作家・辻村深月の
アニメ制作の舞台裏を描いた小説を映画化。
三つの話が織りなされる。
一つは、アニメ作家、王子千晴を巡る動き。
デビュー作「光のヨスガ」が脚光を浴びるも、
その後スランプに陥り沈黙、
「伝説の天才アニメ監督」と呼ばれるが、
8年ぶりとなる新作「運命戦線リデルライト」で復活をはかる。
その制作会社のチーフプロデューサー、
有科香屋子は、王子監督を口説き落とし、
「運命戦線リデルライト」を企画、
王子に発破をかけつつ完成させるために手を尽くすが、
天才肌でわがままな王子に振り回される。
もう一つは、新人アニメ監督、斎藤瞳を巡る動き。
国立大を出て県庁で働いていたが、
王子監督の「光のヨスガ」と出会い、
「見てる人に魔法をかけるような作品」を作りたくて
業界大手に入社。
このたび、抜擢されて、
デビュー作「サウンドバック 奏(かなで) の石」に挑む。
チーフプロデューサー、行成理( ゆきしろ・おさむ) とぶつかりながら、
自分の理想とするアニメ作りに励む。
そして、もう一つは、
新潟県のある市が
「サウンドバック」のモデルとなっていたことから、
市の職員が「聖地巡礼」のスタンプラリーを企画し、
その相談役に指名にされた
新潟の原画プロダクションで働くアニメーター、
並澤和奈(なみさわ・かずな)の動き。
この3つは、原作では別に章建てされ、
別々に語られるが、
映画では、そうはいかず、
並行し、絡み合って描かれる。
「リデルライト」と「サウンドバック」は、
週末の夕刻の同じ時間帯に放送されるため、
どちらが勝つか、つまり「覇権」を掴むかが、関心を呼ぶ。
世間は「天才監督対新人監督」ともてはやす。
アニメ作りの現場は、
膨大な人がからんでおり、
その制作過程が興味深い。
と共に、それらの人々の
ものづくりに対する情熱、熱意、努力が伝わってきて
感動的だ。
特に、終盤、瞳が最終回の変更を提案する場面の
メンバーの意見が胸を打つ。
脚本(政池洋佑)、演出(吉野耕平)共によくできており、
俳優陣も健闘。
特に、斎藤瞳を演ずる吉岡里帆は出色の出来で、
新人監督の戸惑いと苦悩を全身で演ずる。
行城プロデューサーの悪口を言う人たちに
啖呵を切るシーンは、
作品の白眉とも言えるシーンだが、
吉岡里帆は演じきり、
ただ可愛いだけの女優ではないと、見直した。
プロデューサーの行城理を演ずる柄本佑もなかなかよく、
ビジネスとしてのアニメプロジェクトを統括し、
綺麗事では語れない業界の裏方を引き受け、
作品を世に送り出すためには
自分が悪者になることも厭わない、
現実にありそうな人物像を演じきった。
助演賞もの。
王子千晴に中村倫也、
有科香屋子に尾山真千子。
当然、彼らが制作する二つのアニメが登場するが、
実際にアニメ化してほしいほど魅力的。
なんとかスピンオフできないものだろうか。
エンドクレジットの後に、
かなり重要なシーンが出て来るので、
席を立たないように。
5段階評価の「4 .5」。
拡大上映中。
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