山にはいろんなひとが登ってくる。
昨日の岩手山では見かけなかったが中高年層の団体登山ツアーや、
20代~70代まで幅広い、山ガール?のグループ、夫婦連れ、家族連れ、
男性ばかりのグループ、男女混合グループ、単独。
うちのカテゴリーは「夫婦連れ」だ。
岩手山で、ある単独の男性を見かけた。
年の頃は70代くらい、長年鍛えてきたと思われる、すらっと細身の引き締まった体躯で、
多くの人たちが登山ショップで買うようなカラフルな装備ではなく、どちらかというと地味で、
これまた長年使いこんできたようなベージュのソフト帽を被っていた。
私は山を歩いていて気分がノッてくると、ついでたらめな歌をくちずさんでしまう。
(歌はなんでもいい。最近「昔なつかし」系の歌番組ばかりやってるので、自然と覚える歌が多い。
八代亜紀の『おんな港町』はお気に入りの曲)
その男性を見かけたのは、大岩からの眼下に広がる絶景に嬉しくなって、
「いーせざーきーあたーりにー あーかりーがとぉーもーるぅー」
と『伊勢佐木町ブルース』を歌っていた時だった。
その男性がすぐ後ろを通り過ぎ、私の方は見ずにフッと微かに笑ったような気がしたので、覚えていた。
そのひとを、山頂の御鉢を歩いている時にもう一度見た。
伏し目がちに、黙々と、でも呼吸が上がっているようには見えず、とても静かに一点を見据えて歩いてくる姿が、
とても素敵だった。
きっとそのひとは、自宅でひとり黙々と山の準備を整え、
奥さんにひとこと、「いってくる」と呟いて玄関を出てくるのだ。
山から下りて帰宅すると、奥さんがお茶を持ってきて「今日の山はどうでした?」とそのひとに聞くのだが、
そのひとはひとこと「うん」とだけ言って、お茶をすすり、次の山に思いをはせる。(私の妄想です)
ひょっとしたら、奥さんはもう亡くなっていていないのかもしれない。(これも妄想です)
単独で登っている男性は多いが、50代いや60代でもまだ若い。
70代とおぼしきその男性の、鍛えられた静かな歩き様がとてもかっこよかった、というお話でした。
私が先に死んでも、夫には山登りをしてもらいたい。
そういえば、どこかの山で歩きながら話したことがある。
「私が死んだら、山のきのこになる。登山道できのこを見かけたら、私だと思って」
岩手山ではあまり見かけなかったが、大抵の山にはきのこがたくさん生えている。
きのこを見るたびに私を思い出してもらえたら、それはなかなかよいものだ。
それには、夫には山に登ってもらわなければならない。
きのこはきのこでも、スーパーで売られているえのきやまいたけの前で涙ぐまれるのはちょっとなんですから。
ボクもこの手の紳士には時々出会って、会話を交わしながら、こうなりたいな~と思ってました。
オチが「ドクターヘリで運ばれていった!」だったらどうしようとドキドキしながら読んでましたが、お茶をすするという妄想でハッピーエンド!
登りたくなったな~
それはご心配をおかけしましたw
そうそう、s-k-yさんが仰るように、「紳士」という呼び方がとても相応しいです。
山で見かける鍛えられた紳士、カッコいいですね。
岩手山はかなりハードだったので、余計に光って見えました