904『自然と人間の歴史・世界編』バリ協定(2015、地球温暖化)
2015年の国連の気候変動枠組条約締結国会議(COP21)においては、参加各国によりパリ条約が採択された。その中では、まず全体目標が掲げられた。これは、「産業革命前からの世界の平均気温の上昇を二度より十分低く抑(おさ)える」という、野心的なものだ。
こうなった背景には、1950年代後半から始まった大気中の二酸化炭素の観測がある。それには、氷床のボーリング試料に記録された、過去の温室効果ガス濃度の測定も含まれよう。観測によると、1850年頃の産業革命の前は、数百年にわたり280PPM(PPMは百万分の一)であったと推定されている。ところが、2015年には400PPMに達した、差し引き43%も増加したという(鬼頭昭雄「異常気象と地球温暖化の解明に挑む」:日本銀行「にちぎん」2018春、第53号)。
ならば、産業革命よりもう少し時代を遡るとどうなるだろうか。例えば、中川毅(たけし)氏による説明には、こうある。
「だが実際のデータを見ると、メタンは5000年前、二酸化炭素は8000年前頃から、ミランコビッチ理論で予測される傾向を大きく外れて増加していた(図6・3)。ラジマン教授はこの原因を、アジアにおける水田農耕の普及、およびヨーロッパ人による大規模な森林破壊にあると主張して学会に衝撃を与えた。」(中川毅「人類と気候の10万年史」講談社ブルーバックス、2017)
そもそも、温度を引き上げているのはガス、その中でも二酸化炭素ばかりではあるまい。太陽活動が盛んか否かを始として、様々な要因があろう。
とはいえ、人間活動が盛んになってからの気温上昇に、温室効果ガスが某か寄与しているであろうことは、それなりにわかる。例えば、1988年に設立されたIPCC(国連の「気候変動に関する政府間パネル」は、温暖化は人間活動が原因なのかと問い続けてきた。それぞれの時点での評価としては、1990年の「気温上昇を生じさせるだろう」から1995年の「影響が全地球の気候に表れている」へ、2001年には「可能性が高い」(66%以上)へ。それからも、2007年の「可能性が非常に高い」(90%以上)を経て、2013~2014年には「可能性が極めて高い」(95%以上)へと変わってきている。
太陽が放射する可視光線を吸収しにくい反面、地表から放射される赤外線は吸収する性質をもつ。そうなると、差し引きの勘定がどうなっているかだが、地球が吸収している光のエネルギーの方が、宇宙への放出よりも僅かに小さいのだという。要するに、これが積もり積もって気温の上昇を招いているとの話が組み立てられている。
ともあれ、このパリ会議での合意により、温室効果ガス削減の地球全体での目標にかなうように、各国はそれなりの努力をしなければならないことになった。各国の現状と力量がともに問われよう。すなわち、各国は、全体の目標を念頭におきながら、自分のところでの排出量を段階的に削減するプランを立てねばならない。その上での、今度はたゆまぬ努力が欠かせない。
アメリカだが、トランプ政権になってからパリ協定から外れる姿勢を露わにしている。顧みると、1992年に「気候変動枠組条約」を採択、1997年には「京都議定書」が採択されたものの、2001年そのアメリカが「京都議定書」から離脱したことがある。
2009年にデンマークのコペンハーゲンで開かれたCOP15においては、米国などの先進国と発展途上国の対立があり、妥結に至らなかった。一方、経済発展の著しい中国は、現時点でみるかぎりよくわからないところが見受けられるものの、パリ協定の遵守を表明するに至っている。かたや日本においては、「2030年までに、温室効果ガス排出量を2013年と比べ26%削減する」というものだ。
(続く)
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