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多摩の暮らしと山のブログ

理想の森林(もり)/檜原南部 都自然環境保全地域

2010-06-21 23:17:25 | 自然のこと

昨日、登山イベントの仕事で、東京都西多摩郡 檜原村(ひのはらむら)と神奈川、山梨両県との都県界尾根、笹尾根(ささおね)の下部を歩きました。

コースは、同村・柏木野(かしわぎの)‐連行峰(れんぎょうほう・1010m)‐生藤山(しょうとうさん・990.6m)‐熊倉山(くまくらやま・966m)‐浅間峠(せんげんとうげ)‐上川乗(かみかわのり)。距離約13km、標高差・アップダウンともになかなか手強いコースですが、参加者25人全員、無事に歩き切りました。

実はこのコースの北側、つまり東京都側の森林(もり)は、私が個人的に大好きな場所です。約400haが都で唯一の「自然環境保全地域」に指定されており、「理想の森林」の姿を見ることができるのです。

P1000339
何が理想か、おわかりですか?

こちらの写真と見比べてみると、どうでしょう?

Img_4308
この写真は、5/17の本ブログで「心配なこと」とご紹介した、大菩薩嶺周辺のものです。森林の様子がまったく違いますよね。(時期と場所による違いも多少ありますが)

檜原南部のそれは、
・高木層、亜高木層、低木層、そして林床の草本まで森林空間が立体的に、密に埋まっている
・ミズナラ、コナラ、クリなどブナ科の高木層を中心に、イヌシデ、ウリハダカエデ、ヤマボウシ、フサザクラ、ヤマツツジ、コアジサイ、ミツバウツギ…多種多様な樹木がある
・親木から幼木まで満遍なくあり、次世代が順調に育っている
などの特徴があります。

さらに驚くことにこの森林は、かつて、人によって薪炭林として利用されていた「二次林」なのです。生活燃料が薪や炭から石炭・石油に、農業用肥料も落葉堆肥などから化学肥料に代わった1960年代の「燃料革命」により、使用されなくなり放置されたため、徐々に自然植生へ推移している最中なのです。

豊かな植生に加えて、尾根、沢の多い複雑な地形が相まって良好な自然環境が保たれ、野生生物も多く生息しているため、東京都は1980年、その保護を目的に保全地域に指定、「原則として植生の群落構成を変えるような行為を規制」しています。

P1000340
奥多摩と呼ばれるエリア約40000haの中で、比較的近くて私が一押しの森林が実はここです。眩しいほどの春の新緑、やわらかな黄色に赤が映える秋の紅葉、明るい冬の落葉期まで、四季折々に魅力的で、いつ訪れても癒されます(笑)

奥多摩も現在、環境の変化やシカの食害になどにより、上の大菩薩周辺のような痛々しい森林が目立ちます。これほど良好に保たれているケースは、私の知るところ、秩父多摩甲斐国立公園・特別保護地区にも指定されている三頭山周辺と、この場所くらいではないでしょうか。

しかし、この檜原南部と三頭山でも最近は、シカの樹皮はぎや食害が見られるようになり、心配されています。


保全地域外ではありますが、足元でちょっと珍しい
植物が花を咲かせようとしていました。
P1000333
ランの仲間、クモキリソウ(雲切草)です。

全身緑色の地味な草ですが、出会えるととても嬉しい植物でもあります。こんな草がさりげなく残っている環境を、
次代へ引き継いでいきたいものですね。

※少し力が入ってしまった?本日のブログを読んで頂き、ありがとうございました。


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5 コメント

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遠目に見て緑に覆われていても、 (にゃみにゃみ。)
2010-06-22 07:21:02
遠目に見て緑に覆われていても、
必ずしも“豊かな森”とは限りませんよね。

わが地元の六甲山でも、ぱっと見には緑豊かに見えても、適正な管理が行われていないため、つる植物に覆われてしまっていたり、ネザサが占有してしまって生物多様性の低い状態のところがたくさんあります。

植生の“質”にも着目しないといけないですね。
こんな美しい森が近くにあるといいなーと思います。

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にゃみにゃみさん (masa)
2010-06-22 21:45:51
にゃみにゃみさん
こんばんは。


六甲山もそんな状況ですか…西日本は、シカの食害以前に、過疎化と里山荒廃の方が深刻なのでしょうね。


そうですね、これからの時代に一番求められる森林は、「生物多様性に富む」森林なのでしょうね。それを守り、育てることで、人間の生活も持続的に、豊かになるのだと思います。







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「豊かな森」というのは自然のあるがままの (hori)
2010-06-23 21:49:51
「豊かな森」というのは自然のあるがままの
「森」ではないと思います。(少なくとも日本では・・)
人と森との係わりがあって、いわゆる「森と暮らしてきた人々」がどんどん減ってきていることが
一番の問題だと思います。

当たり前のことを言うようだけど、森林での生業が成り立つ要素がなくなってる。(採算面で・・・)

にゃみさんの言うように、植生が一昔前と、すごいスピードで変わっています。
つる植物の繁茂や「山の手入れ」がなく、足元に陽が射さなくて、マツなどの根張りがなく、貧弱(ひょろひょろ)で、すぐに松枯れをおこしてしまう・・・など。
一人からでも出来ることはないものでしょうか。

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horiさん、 (にゃみにゃみ。)
2010-06-24 07:03:03
horiさん、
>森林での生業が成り立つ要素がなくなってる。(採算面で・・・)

まさにそうなんですよね。
杉・ヒノキばかりを偏重した造林政策も、今となってはよくなかったことがわかったのだけれども、
それ以上に、高度成長期に経済効率のみを求めて、より安い外材ばかりを市場が求めたことが今につながっているわけですよね。

当時の商社の方は「より安いものを提供しよう」という“善意”もあったのでしょうが、結果的に国内の林業を追いやってしまい、その結果二次りんがほとんど放置されて環境悪化を招いたというのは、やはり“日本国”の責任なのでしょう。


>これからの時代に一番求められる森林は、「生物多様性に富む」森林なのでしょうね。それを守り、育てることで、人間の生活も持続的に、豊かになるのだと思います。

まさにそうですよね。

特定の省庁が、とか責任者が、ということではなく、山岳国に住む者として、森林の大切さに気づき、よりよい状態にしていくことを市民レベルで考えないと・・・。

行政にすべてお任せでは埒が明かないってことに一部の人たちは気づき始めていて、
六甲山では「こうべ森の学校」というボランティア組織が森の整備を行っています。
こういう取り組みが広がっていけばいいなと思います。
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horiさん (masa)
2010-06-25 00:15:52
horiさん
にゃみにゃみさん


貴重なご意見、ありがとうございます。


まさに、「山岳国」に住む私たち日本人は、山や自然を信仰の対象とするほどに敬い、そこから食糧や燃料を必要な分だけ戴き、森と常に関わりながら、良好な関係を保ち続けてきた稀有な存在ではないでしょうか。そして、そんな日本の森は、世界でも有数の多種多様な生物を育んできた…(植物だけで5000種以上!)


「私たち登山者にできることって?」と、最近よく考えます。私は、登山者ほど日本、(人によっては)世界を含めて多くの森を見ている人っていないのではないか…と思います(意識しているかどうかは別にして)。これって、スゴイことですよね。専門知識はなくとも、良くも悪くも“現場”を知っている。そして、それを説得力をもって伝えられるのも、登山者なのではないでしょうか。


現場で起こっている事実を、圧倒的多数の“気がついていない人”に知ってもらうことがまずは大切なのかな…という気がします。伝えること、見せること、感じてもらうこと…微力でも、自分一人でも、私がいまできることってこれくらい?あとは、志ある皆さんと横のつながりで連携させて頂き、その輪をひと回りずつ大きくしていければ、これほど心強いことはないと思っています。(笑)


今後もよろしくお願い致します。




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