まさおレポート

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バリ島綺談 着服と不倫の罪の軽重

2018-05-17 | バリ島 人に歴史あり

バリのビラ滞在で夕方のプールは一日で最大の楽しい時間と言って良い。凝った筋肉をゆっくりと泳ぐことでほぐし、ゆっくりと歩きながら同じ頃にやってくる知り合いたちとよもやま話をする。あるとき泳いでいると久しぶりに国から戻ってきたドイツ人と顔を合わせた。

このドイツ人はバリでそれほど褒められた生活をおくっているわけではない、夜な夜なナイトクラブに繰り出して女を漁りに行く、ビラには常にジャワから来ているテンポラリな愛人を住まわせているといった俗物親父なのだが話は面白い。

「お前は夜遊びをしないのか。こんど一緒にいかないか」

「いや、結構だ。家族がいるのでね」

「俺は船に乗っていて海賊に襲われたことがある。銃で追い払った」などと本当かどうか眉唾の話をする。

褐色の肌の女を愛すると公言し、自らも日焼けを恐れない。太陽エネルギーを受けていると生命力が沸き立つと現代の医学と反対の事をいう。世界の政治経済情勢をしゃべらせるとかなりの博識と知れるので当然紫外線の害についても知っている筈だが、そんな医学知識よりも古代ゲルマンの太陽信仰(そんなものがあるとしての話だが)にはるかに重きを置いている。

このドイツ男とは3か月ぶりの再開で、その間に各国を旅行していたという。彼はバリでバッグなどを作らせて、それをドイツで販売している。海外旅行とビジネスがうまく結びついているなかなか遣りての商売人なのだ。三ヶ月の間南米のカラファテに旅をしていたのだという。私もカラファテには行った事があり強く印象に残っている。アンガスステーキは旨いなどと話をしているうちに、話題が変わった。

「ちょっと、油断してしまったよ。南米を旅行している間にバッグ生産を委託している人に金を着服されちゃった。」と苦笑いしながら言う。苦笑いしながらだからそれほど大した金額ではないのだろう。

「ドイツまでのチケットの購入を彼にお願いしたのだ。購入した後でアムステルダムに寄って帰りたくなってルフトハンザからKLMオランダ航空にチケットを切り替えたのだ。シンガポール経由でアムステルダムに飛んでいるので時間的に便利だからね」そのうちに彼のガールフレンドのジャワ娘がプールにやってきたので話を打ち切るのかなと思ったが、彼は話し続ける。「キャンセルしたチケットの払い戻しチケット(リファンドチケット)を彼に預け、そのまま旅に出たのだ。3か月ぶりにバリに戻ってきてその払戻金を受取に行ってくれと彼にいうと、体調が悪いから明日にしてくれという。翌日に又催促するとその日はチケット販売会社のシステムがおかしいので来週にしてくれという。さすがに俺もおかしいと思い出したのだ」ガールフレンドはその話は既に聞いているのだろう、一人で泳ぎだした。

「俺はおかしいとピンと来て、今すぐ一緒にチケット販売会社に行こうと彼にいったのだ。すると彼はその前にエージェントに電話してからがよいと電話をかけて、なにやらインドネシア語でしゃべっている。しばらくして俺に電話を変わった。相手の女性が英語で、払い戻しは新システムに変更になって来週にならないとできないという。俺はすでに3か月もたっているのに払い戻しできないとはおかしい。それなら航空会社に直接電話するから電話番号を教えろと迫った。すると彼に変われという。もう完全におかしいと感じたので、電話番号を教えたら変わると何度もねばった。そして番号を聞き出し、相手の女性の名前も聞いた。」

そのあと彼は観念したらしい様子で着服したことを白状したという。払い戻し金額は日本円だと17万円程度で、その金を借りてジャワに住む父の心臓バイパス手術の一部に使ったという。

「君はそれを信用したのか」と尋ねると「いや、典型的な作り話だと思う」とドイツ人は断言した。一度嘘をついたらその男の言うすべてが疑わしいということなのだろう。「警察には届けたの」「いいや、それは時間の無駄だからしない。警察は殺人とか強盗とかはっきりとした事件しか相手にしない。このようなケースではなんだかんだと警官に金をせびられるだけだ。裁判を起こしても訴訟費用だけで赤字だよ」と白髪にプールの水をかけながらドイツ人は言った。

「それでその男は首にしたのか」

「いや、首にしようと思ったが止めた。とにかくその金は返して貰わないといけないからね。毎月の給料から天引きして、全額回収したら首だと宣言した。この国ではチケットを預けた方にも油断と落ち度があるからね。」という。なかなか寛大な男なのだ。

ふとあたりを見わたすとジャワ人のガールフレンドは既にプールから上がり見事なプロポーションの身体をタオルでふいている。それを機会に私もプールから上がった。

この手の話はバリに来て何回も聞いたことだ、以前滞在したジャワ島出身のビラオーナーは信頼していたバリ人マネージャに100万円近い売上を着服された。本人が謝り深く反省している風なので一旦は許して雇用を続けたが再度同じような着服があり、それ以来絶対にスタッフを信用しないことにしたといっていた。日本人なら一度そうした事件を起こせばもう即刻に首だが雇い続けたというのだ。

この国にはこうした着服をやむを得ない、いやそれほどの罪とは思わないとする暗黙の了解がひょっとしてあるのかとも思った。そして別の話を思い出し、罪の感覚と軽重は文化なのだと思いいたった。

別の話とはバリ島で起きた不倫とリンチの話で、滞在しているビラのスタッフから聞いた話だ。

 このスタッフの住むバンジャール(村)で起きた生々しい事件で、なんとこのスタッフのお父さんが人の奥さんと不倫をしたことが発覚し、村人のリンチにあって殺されたというのだ。日本ではそんなに珍しくもない不倫がこの国では文字通り命がけの行為となるのだ、そしてリンチの犯人は不問に付され警察は動かないという。バンジャール(村)の自警組織は恐ろしいのだ。

金の着服はそれほど問題視されないが、姦淫の罪は重いのだ、罪の感覚と重軽は文化によるということを深く記憶に刻んだ事件だった。

 


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