典型的な焼肉の皿、もちろん羊肉だ。玉ねぎの焼き方に熟練を感じ取る。モロッコの人が大好きな一品でモロッコの旅の間、いたるところでお目にかかり、舌を楽しませてくれる。皿にはオリーブがたっぷりと。
一気にモロッコに飛んだ。ここでは肉はいわずと知れた羊だ。昔、当時の村山首相が訪問先で羊肉がまったくあわなかったことを記憶しているが、私は全く問題なしであった。娘が家で日本食を作ってくれたので、それなりに満たされたのかもしれないが、乾燥した砂漠の風土では、日本食は少々頼りない感じもする。羊肉がからっとしていて、脂っぽくない。炭火でやいてたまねぎで食うと食欲がどんどんでる。
それに豆の煮た簡単、素朴な料理が驚くほどうまい。トマトも必須の付けあわせだ。土地土地でシンプルな伝統食を食べると、その栄養バランスが整っていることに感心する。肉食民族とか言われるが、決して肉ばかり多量に食べるわけではない。観察していると、穀類、豆類、果実、オリーブオイルと香辛料をバランスよく食べている。
ぶら下がった羊肉の色の旨そうなことといったら。からっと乾いた清潔な感じが薄い脂身の白とワイン色の肉から伝わってくる。
肉屋で買って焼き屋に持ってきたところ。不思議な分業がなされている。なにか歴史的文化的な背景があるのかとも思う。肉屋は金持ちでステータスが高く、焼き屋は単なるサービス業で人にサーブする役割でステータスは低いなど推測してみるが確証は得られなかった。
えんどう豆のうまそうな匂いがスープと相まって思い出される。豆を羊肉のスープで実に美味しく食べる。後にアルゼンチンでも牛肉のスープで煮た豆料理に感動したので肉と豆は普遍的なコンビネーションなのだろう。この皿に肉そのものは入っていないので肉をとったあとの骨などを使ったスープで煮込むのだろう。
右端のアースカラーのハムにみえる塊はイスラム圏なので豚肉のハムではない。チキンソーセージや羊肉の燻製、レバー卵・・・。
河岸に上がったばかりのサザエは実にうまそうなのだが。
船から上がったばかりで業者と現金で取引される蟹。
フナ広場のエスカルゴ煮。大鍋で出汁でゆっくりと煮込む。
古い町のホテルに泊ったが隣にこの鳥焼き店があった。黄金色の脂を滴らせてくるくると回りながら焼かれていく。ひとつ買って食べてみたが鳥本来のうまさが際だっていた。
金曜日は各家庭はクスクスを作る習慣がある。娘の家庭もお手伝いさんが大変料理上手で毎週クスクスを大量に作ってくれる。それをスタッフ、マンションのご近所さん、守衛さん、モスクに集まる人々に喜捨として配って歩く。日本でも子供の頃は施しの習慣が残っていたが今は廃れた。この国は依然この習慣を残している。
ジャマ・エル・フナ広場に立ちこめる煙が肉の焼ける匂いを運び食欲をそそる。世界遺産のこの広場はマラケシュのかつての公開処刑の場所で夕暮れ時ともなると急激に人々が集まってきて、毎夜毎夜が巨大なお祭りの縁日のようだ。テント張りの屋台ではシシカバブやエスカルゴ、デイツ、西瓜、オレンジ、スープなどを競うように商う。客を呼ぶ声とガスの火、アセチレン灯の明かりが祝祭的な空間を作り出す。祝祭的な空間でかつての陰惨な処刑を浄化しているかのようだ。
この屋台の周囲には蛇遣いや水売りダンスに民族風演奏、たばこ売り、中部アフリカからやってきた怪しげな薬売り、サーカスが大道芸を繰り広げる。
赤はパプリカ 黄色はクミン黒と白は胡椒、真っ赤は唐辛子だろう。しかしこれだけあるとスパイスの多様を表現する言葉もきっと多いのだろうと想像してしまう。「辛い」だけでは表現できない。
オリーブコーナーでも薄緑、黒、ベージュ、赤と色とりどりのオリーブが。この多彩な色彩は地の色と漬け込んだ香辛料の色によるのだろう。
アルガンオイル(酸化しにくいことで有名なモロッコ特産のオイルで非常に高価)の産地で有名な村に向かう。途中に立ち寄ったタルーダントの食堂で腹ごしらえをした。そのときのサラダはトマトとタマネギの定番にキュウリとオリーブが酢とオリーブ、塩でシンプルな味付けで乗っていた。
この上に三角錐の蓋をかぶせてゆっくり炭火で煮る。厚手の陶器で無水鍋の要領で調理できる。野菜のうまみが逃げない。
タルーダントからエッサビラに向かう山道を車で走っていると突然現れた小さな村。ここで店に入りちょっとした休憩をとる。豆の煮込みをつまんでみると感動のうまさだ。羊肉のスープと塩だけで煮込んであるがひよこ豆の味と混然となっている。
なじみの肉屋だ。昼飯を食うということはこうして肉屋に入り肉を品定めして買うことから始まる。アトラスに限らないが空気が乾燥しているので肉も表面がからりと乾いた感じがする。そのために肉の色が深い赤ワイン色に輝いて見える。こうして選んでいるうちに食欲も盛り上がっていく。
白い袋はタマでモロッコの男どもはこれが大好物だ。比較的高いのだが余裕がある場合は必ずこれを食べる。食べると確かに活力が沸いてくる。日本では滅多に食べられないが牛のタマを食べることが数回あった。それと似た味と効果だ。
目の前で気に入った部位を切ってもらう。これを包んでもらって近くの焼き専門の店にいき焼いてもらう。完全な分業だ。なぜだかわからないが伝統的にそうなっている。調べてみるとおもしろい理由が発見できるだろう。
こうして間近にみると脂身がほとんど無いことに気がつかれるだろう。日本のブロイラーにみられる黄ばんだ脂肪は皆無で清潔な白い薄皮で覆われているばかりだ。このあたりで草をはみ動き回る羊を屠って一日程度乾燥させた肉だ。このうえなく贅沢な肉である。
肉の選択は男の仕事で真剣な目をして選ぶジュラバ姿の男たち。なぜかヨーロッパ圏も肉は男が選んでいる。そういえばバーベキューもお父さんが焼き切り分ける。日本国でも食産業のインチキぶりが昨今次々と明るみに出ているがこの地ではそんな問題は起こらない。もし街でそのようなことをすればリンチにあいかねない。それほど清潔で安全な食に対する態度は真剣だ。
モロッコ特有の煮込み料理タジンの出来具合をチェックする男たち。客が厨房に入り込み一番いい段階のつまり好みの煮加減のタジンを選んで食べる。こちらでは嫌がらずに見せてくれる。これも多くの男どもが食に真剣だから自然とできた風習だろう。
パンを食って待つこと十分くらいだろうか。うまそうなタジンがテーブルに。これをみんなで分け合って食べる。パンにつけて食べるのがこちら流だ。
先ほど選んだ肉が焼き上がってくる。からりと乾燥した高地でタマネギと食べると羊肉がこんなにもうまいものだと思い知ることになる。羊の臭いが気になるというのは羊肉に固有のものではないことがわかる。この地では全く気にならない。臭いなど皆無だ。