まさおレポート

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日本の通信事業とグローバリズム13 長期増分費用方式に功績はあったか

2017-02-03 | 通信事業 NTT・NTTデータ・新電電

長期増分費用方式に功績はあったか

長期増分費用方式は接続料金を下げるドライブになったと一般には評価されている。これは事実だろうか。本来、減価償却期間を含めた個別の要因を対象に議論しても、接続料金は同様に下げられたのだが、長期増分費用方式が法律化され政府の強制力を持つにいたったという点が大きいと考えられている。2000年の第一次モデル採用後、3年間は確かにIC接続料の引き下げ効果がみられるが第2次モデル採用後の2003年以降は上昇を始め、第3次モデルの2005年には従前の下げ傾向を勘案すると元の水準に戻っている。4年間の間はモデルの効果があったがその後は果たして効果と呼べるかどうかは疑問である。

第3次モデルの改善点は報告書(平成16年4月)によると、以下の点を見直すとある。2005年にもとの水準にもどったことについては、要は「モデルを実際費用に近くまであわせたらもとに戻りました」といっていることと同じである。これでは長期増分費用方式はコントロ-ル可能で作為的な値を算出するためだけのツ-ルとなってしまっている。

以下に見る変更点はことごとく実際費用にあわせていくこと示している。

①トラヒックの減少や新規投資抑制等の環境変化を反映した経済的耐用年数の見直しやデ-タ系サービスとの設備共用を反映するロジックの追加を見直す。 →つまりかぎりなく実際費用に近づけることを言っている。

②NTSコストの付替え NTSコストを5年間かけて段階的に控除する。→これも従前のいびつな構造を現実に戻すことを言っている。

③前年度下期+当年度上期の予測トラヒックをパラメ-タとする。→同上。

 

参考1

「規制緩和及び競争政策に関する日米間の強化されたイニシアチブ」(第一回)共同現状報告書には

「1997 年 6 月以降、日米両国政府は、日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組み(「枠組み」)の下での規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアティヴ(「強化されたイニシアティヴ」)の目的、すなわち、「枠組みの中で謳われているように、消費者利益を増進するとともに効率性の向上と経済活動の促進を図るため、『競争力のある製品及びサービスの市場アクセスを相当程度妨げる効果を持つ政府の関連法令及び行政指導の改革を扱う』ために、真剣な意見交換を行い・・・」とあるので、少なくとも1997年6月以降から日米間で長期増分費用方式の採用が浮上している。

 

長期増分費用方式をめぐる国会の論議

1997年当時の長期増分費用方式をめぐる国会の議論に目を向けると、大きく、3つの議論の方向性があった事がわかる。

1.イノセントな「最も効率的」信奉議論 片山大臣などが答弁しているが、長期増分費用方式の導入を、「最も効率的な」ネットワ-ク設備設計の元でのコスト計算と文字通りに理解し、さらにその実施も下記の答弁に示すように楽観的な考え方であったようだ。片山郵政大臣は1997年の国会答弁で以下のように答えている。注目すべきは「計算した費用を言わば上限的に扱って、その範囲の中で事業者同士が合意すればそれを使う」との重大な事実誤認を示していることだ。上限として使うほどの寛大な値はこの方式では算出される余地はない。米国で既に実施済みのプライスキャップと完全に勘違いしている。

水野誠一氏も「電気通信業界のいわゆるグローバルスタンダードへの適合」との認識を示し、長期増分方式がけっしてグローバルスタンダードになっていないにもかかわらずこうした重大な勘違いをしている。郵政省役人が間違ったレクチャ-をしていることが透けて見える。

○国務大臣(片山虎之助君)  長期増分費用方式とは、これは理論計算ですよね。最も効率的なというようなことを念頭に置いた理論計算でございますが、 これで計算した費用を言わば上限的に扱って、その範囲の中で事業者同士が合意すればそれを使う。(140 - 衆 - 逓信委員会 - 11号 平成09年05月20日)

○水野誠一君  電気通信業界のいわゆるグローバルスタンダードへの適合の必要性ということから、我が国でもこの長期増分費用方式の導入を検討すべきではないか。(140 - 参 - 逓信委員会 - 13号 平成09年06月10日)

2.実際費用方式でも引き下げは可能とする議論。長期増分費用方式あるいは「最も効率的な」ネットワ-ク設計と言っても、現実には全く新たな交換機を仮想する事は行っていない。最も顕著な改善点は減価償却期間の見直しであることはその後の推移をみても明らかだが、下記の議論はこの点を当時から鋭く追求していたものだ。要は実際費用方式でも検討体制さえ構築すれば同様の効果が得られたとする議論だ。(私は共産党支持者では全くないのだが、電気通信政策において共産党の質問は当を得た質問が多い)

○宮本岳志君  「長期増分費用方式は、現実の独占的な地域通信ネットワ-クの提供における非効率性を排除しまして、接続料金の引き下げを図り、それを通じて国民ユ-ザの長距離や国際電話通信料金の引き下げにつながるとの観点から導入を目指すもの」として目的には一定の理解を示しながらも、次の質疑では、特段長期増分費用方式を採用しなくても、減価償却期間の見直しを実際的な数値に置き換えるだけで、引き下げは可能であったとする見解をとる。なかなか鋭い質問だ。

○宮本岳志君 交換機で前回より三割増し。光ファイバでは架空で八割増、埋設されているものは二・三倍も長い耐用年数に変わりました。なぜ二〇〇二年答申でこんなに耐用年数が延びたのですか。

○政府参考人(有冨寛一郎君)  「二〇〇二年の見直しに当たりましては、設備の使用年数ごとの撤去実績が新たに分かったということなので、より正確な推計方法を使用することが可能になった 」

設備の使用年数ごとの撤去実績が新たに分かったなどと述べているが、このようなデ-タはその気になればいつの時点でも数か月もあれば集計できるはずで、なぜ接続料金の始まった時にこのような重要なデ-タを調査しなかったのか。このあたり虚々実々の答弁が繰り広げられている。

○宮本岳志君  「NTTは減価償却費が過大計上されたモデルで長期増分費用方式による接続料金の収入減収を緩和して、緩和してもらう一方で、大変だといってリストラを行いました。 適正な耐用年数に基づく正確なコスト計算を行えば、 料金も下がるし 、無謀なリストラも避けられたし、サービス低下も避けられた。」

実にまともな事を言っている。NTTもこのような意見に当初から賛同していれば、長期増分方式という劇薬を飲まされずに済んだのだ。(私自身は、長期増分費用方式は当時の情勢では問題が多いにもかかわらず止むを得ない劇薬投入だとの認識を持っていたが、実際費用方式で接続料金が下がり、劇薬飲用を避けるに越したことはなかったのだ)

3.長期増分費用方式では実際の投下資本が回収されないという議論も多数の議員が問題提起している。伊藤(忠)委員がなぜ実際費用方式に戻せと主張していないのかは不思議だが。

○伊藤(忠)委員  「実際費用方式に戻せ、そんなこと言ってないのです。実際の費用、投資したコストが回収できるような要素もそこに入れてもらわないといかぬなということを私は言っているわけですから、その点は意見は一致するのじゃないでしょうか。」([001/045] 156 - 衆 - 総務委員会 - 23号 平成15年07月10日)

「実際費用方式に戻せ、そんなこと言ってないんです。」という発言は、この時点で既に長期増分費用方式が避けられないとの認識を持っていたことがうかがえるが、しかしNTT労組出身の伊藤(忠)委員は徹底して長期増分費用方式のおかしさを追求すべきであったし、そのほうが筋が通っている。どうして途中で妥協したのだろう。この妥協のプロセスに興味があるのだが。

4.ユニバーサルサービスの確保が出来なくなるという議論も多数の議員がしていた。米国で採用していない長期増分費用方式をなぜ日本で採用するのかとの議論も多かった。こういうちょっと学問的な体裁を施した方式は極めて危険なことがわかる。大臣をはじめとして上っ面だけの理解で、基本的なことが理解されていないのだ。

長期増分費用方式はステロイド

そろそろステロイドと同様の危険な劇薬としての認識を持つべき頃では無いか。ただし、ステロイドの服用を中止するときと同じくリバウンドが危険なためにしっかりしたフォロ-体制を整える必要がある。現に2005年からリバウンドが発生している。米国から強引に押しつけられたとの議論と米国でさえ採用していないという議論が後を絶たない長期増分費用モデルの看板は外して、NTTネットワ-ク費用研究会として各事業者の参加を得てこうした議論を続けたらすっきりすると考えたい。

長期増分費用モデルを何故過度に長期にわたって使用してはいけない劇薬と考えるのか。初期の劇薬効果は最大限に評できる。なにせGC接続については▲22.5%、IC 接続については▲60.1%と大幅に接続料水準が引き下げられたのだから。これはいかにそれまでのNTTが独占に胡坐をかいた料金設定をしてきたかの証左だが、だからと言って既に実際コストの方が長期増分費用モデル算出コストよりも下回っている現在でも続けてよいという考え方は成り立たない。

1.元来が相当強引なコスト理論であり、言い出しっぺのUSAでさえごく限定した用途にしか使っていない。長期増分費用モデルは時限的な手法、手段であり目的ではない。目的は健全な競争の育成であり、既に固定電話の接続料金に関する限り主戦場ではあり得なくなっており、主要な競争事業者KDDIとソフトバンクは十分な体力を持つに至ったとみるべきである。

2.いくら精緻に積み上げても実際のコストに近似できるはずがないことは当初より素直に考えれば予測できたことで、それが証拠に現時点まで改修を4次にわたって積み重ねても、実際コストとの乖離が広がっている。この乖離は透明性の担保と言う大義名分と矛盾するもので、これだけ乖離すれば透明性の担保などできるものではない。

3.電力、水道、ガスあるいは空港設備サービスなど独占事業はいくらでもあり、長期増分費用モデルを使ってもいいはずであるが、その事実はない。それは遅れているからではなくて、あまりにもその導入に現実感がないからだ。発電・送電分離の議論がある電力界でもこのモデル適用は考えにくい。

4.NTT東西と雖も株式会社であり、長期増分費用モデルの2,3年ごとの見直しと称し、予測不可能なコストを提示されてそれを呑まざるを得ない経営では、接続料金収入という相当なウェイトを占める収入を左右するだけに経営の自主性が侵害され、無理筋だろうと考える。

各社の意見

下記のような代表的意見が提出されている。③の意見は実際費用方式でこそ追及される問題であり、長期増分費用方式ではむしろ副次的産物と言うべきであろう。

①仮に改良モデルを平成20年度接続料の算定に適用したとしても、10%程度のコスト削減効果では実際費用との差が解消できないものと想定され、平成23年度以降の接続料算定方法として、現状のまま改良モデルを採用することは適当ではないとの意見がソフトバンクから示された。

②現在の固定電話サービスについては、既に高度な新技術の導入により効率化が図られるような環境にはなく、市場規模の縮小によりスケ-ルメリットが効かない状況になっている 長期増分費用モデルは需要の減少に対して即応できる設備構成に瞬時に置き換える前提となっているため、需要減に比例してコスト縮減が図れるのに対し、実際には需要減に応じてコスト削減を行うことは難しく、必要となるコストの回収が出来なくなる 長期増分費用方式による接続料算定を廃止し、実際費用方式に見直すべきであるとの意見がNTT東西から出された。

③客観的なモデルに基づきコスト算定を行う方式であり、既存事業者の実際ネットワ-クに内在している非効率性を排除することにつながっているなど、接続料算定における透明性や公正性の確保に大きく貢献してきているものと認められる。また、今後もなお一定の意義を持ち続けるものと考えられるとの研究会意見が出されている。

 

 


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