このところ特許について思うところがあって色々と検索しているが世間ではあまり知られていない特許の凄さと恐ろしさを知ることになった。一般に特許といえば物作りだと思う人がほとんどだろうが方式特許なるものはプロセスつまり方法と、それを裏付ける技術的側面を実際に作成しなくてもなるほど作れそうだと特許審査官に思わせるだけで取れるのだと。ただし米国のみで欧州はダメだということも知った。だから下記のAmazonの「ワンクリック特許」は米国と日本などで有効であるが欧州では成立しない特許なのだ。もっともこの特許は実に18年も有効に支配し続けてAmazon王国を確立するのに貢献し2017年に失効している。当時は赤字が連続しておりその割には株価が上昇し続けて当時の総務省内の研究会でも慶応の先生と孫さんが議論を戦わせていたことを思い出す。慶応の先生は「こんなに赤字で株価が上昇することは異常だ」と述べ、孫さんは「株価は未来を買っているのだ」と反論していた。
どうも抽象的な議論だなとそばで聴いていたが、実はこのAmazonの「ワンクリック特許」の存在が株価を上昇させていたのではと今にして思う。NTT法の行方議論で現行のNTT技術開示義務もこのあたりを抑えないと具体性に欠けるような気がする。密やかに水面下で国際間の熾烈な特許戦争が起きている。そしてそれはあくまでも密やかに進められて門外漢には理解がしにくい特殊な世界のためメディアにもあまり関心を呼ばない。日本の未来にとって極めて重要な戦略なのだと深く思う。
Amazonの「ワンクリック特許」(1-Click Patent)は、テクノロジー業界や法曹界にとって 象徴的な特許事件 だった。この特許は 「購入ボタンを1回押すだけで決済が完了するオンラインショッピングのシステム」 をカバーするもので、 米国特許番号5,960,411 として1999年に取得された。なぜ驚きを生んだのか?
アイデアのシンプルさ「クリック一回で購入が完了する」という 非常にシンプルなアイデア が特許として認められた点が衝撃的だった。
特に当時のエンジニアや法曹関係者からは、「こんな単純な操作に特許を与えるのか?」という 進歩性への疑問 が相次いだ。この特許は、 「購入フローの簡略化」 として eコマース業界全体の標準的な機能を事実上独占する形となった。Amazonはこの特許に基づいて競合他社を訴えたり、 ライセンス収入 を得たりする強い立場に立った。
Appleへのライセンス供与 Appleは2000年にAmazonからこの特許のライセンス供与を受けた。その結果、 iTunesストア では「ワンクリック購入」が実装され、Appleはこの機能を 合法的に活用できた。これが Amazonに多額のロイヤルティ収入 をもたらした。
批判とその後の影響 Amazonのワンクリック特許は、特許制度の 進歩性基準の曖昧さを浮き彫りにし、 ビジネスモデル特許 や ソフトウェア特許 に対する 批判の引き金となった。そして特許法の「進歩性(非自明性)」の定義が不明確なため、これに似たビジネス特許が乱立する結果を招いた。
Amazonの米国特許は2017年に失効し、この特許による独占的な権利を失った。欧州ではそもそも 「ビジネスモデル特許」 が広く認められないため、 ワンクリック特許は元々無効 とされた。Amazonのワンクリック特許は、特許制度の柔軟性と限界の両方を示す 歴史的な事例であり、技術的な進歩というよりも、 ビジネスプロセス を特許化する戦略が、 競争優位性の確立と市場支配に直結することを示した。
この特許が与えた影響は、今もなお特許制度の 運用方針の見直し に影響を与え続けており、特許の取得戦略においても 知的財産の定義の曖昧さ を浮き彫りにしている。結果的に、特許戦略が企業の成長エンジンとしていかに重要かを世界中に知らしめた事例とも言える。