先月7月11日に80歳で亡くなった登兄を送るにふさわしい詩があった。
まだ49日は経っていない。兄よ安全なる航海を祈る。
「安全なる航海を祈る」 村上昭夫
航海を祈る
それだけ言えば分かってくる
船について知っているひとつの言葉
安全なる航海を祈る
その言葉で分かってくる
その船が何処から来たのか分からなくても
何処へ行くのか分かってくる
寄辺のない不安な大洋の中に
誰もが去り果てた暗いくらがりの中に
船と船とが交わしあうひとつの言葉
安全なる航海を祈る
それを咒文のように唱えていると
するとあなたが分かってくる
あなたが何処から来たのか分からなくても
あなたを朝明けのくれないの極みのように愛している
ひとりの人が分かってくる
あるいは荒れた茨の茂みの中の
一羽のつぐみが分かってくる
削られたこげ茶色の山肌の
巨熊のかなしみが分かってくる
白い一抹の航跡を残して
船と船とが消えてゆく時
遠くひとすじに知らせ合う
たったひとつの言葉
安全なる航海を祈る