
イタリアで何が印象に残っているか。なんといっても大理石の見事な建築物が磁力のようにわたしを惹きつける。

しかし東南アジアや日本では石の文化はお城の城壁にはあれど、天守閣に至るまでは木造だ。なぜだろうとイタリア紀行をまとめるにあたって考えてみた。
昨今の暑さからすぐに答えはわかった。
木造の家は、呼吸するように湿気を調整するので湿気を排する。これだけは日本やアジア特有であり、石の家では夏の湿気と暑さに耐えられない。バリでかつてエアーコンディションのない時代に石の家に住むなんて狂気の沙汰であり、竹や木造以外に考えられなかったに違いない。
和辻哲郎の著書「風土」で半世紀も前に読んだ記憶が微かにある。和辻哲郎は「風土」で、日本の高温多湿について 「高熱という温度の高さに対しては耐えることはできるけれども、湿度に対しては耐えがたいものがある」と。
かつてフランスやスペイン、イタリアを旅した時には、夏でも湿気がなくシャワーに何日も入らなくても苦にならなかった。米国でも同じように感じた。日陰に入ると涼しいので汗でべとべとするあの気持ち悪さは感じなかった。
しかし、日本は高温でしかも湿度が高い。この湿潤な環境は、木造建築の発展や「呼吸する」家屋の必要性を生み出し、石造りの建物が日本で広まらなかった理由の一つだろうと妙に納得している。