ある人が夢に出てきた、朝食時には夢の内容が思い出せたのにメモをしておこうと机の前に座る頃には既に思い出すことが出来ないがよくあることだ。記憶が完全に消去されているのではない、ちょうどパソコンのメモリーと同じでインデクスが途切れてしまったのだ、そしてこの夢のインデクスはか細くてもろく壊れやすい。
生まれてこの方脳の海馬にある記憶の粟粒は膨大なものになっているだろう、そして何の脈絡もなくふと泡のように浮かんではすぐにインデクスは閉じられる。海馬にある記憶のメモリーオーバが原因で夢にでてくるのか、無意識が発するメッセージかはわからないが無意識が発するメッセージだと思うほうが楽しい、大海の海底に眠る記憶のなかで、無意識が発する粟粒となって浮かび上がる壊れやすい小びんに入ったお手紙が夢ではないか、だからどうしても簡単なメモを残しておきたいのだがうまくいかないことも多い。この10年の間、見た夢をメモに付けているがカウントしてみると180ほどになる、なかなか明恵上人のようにはいかない。
言葉は遠い闇の中に葬られていた。「おわかりのように、この街では記憶というものはとても不安定で不確かなんです。思いだせることもありますが、思いだせないこともあります。あなたのことは思いだせない方に入っているみたいです。ごめんなさい」(世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドより)