さる日本人の知り合いがやってきてぼやいていた。彼の住んでいるビラでの事だが、彼ら一家が外出している20分の間に、誰かが部屋に侵入していた。なぜ侵入していることがわかったのかと聞くと、出かける前に置いたノートの上に、部屋の鍵が残されていたからだという。早速ビラのスタッフに「誰か部屋に入ったか」と聞いたところ、入っていないという。次に「部屋の鍵はもっているのか」と聞くと、持っていないという。つまり、知り合いの彼しか部屋の鍵を持っていないという。何回きいても、鍵は彼のもっている1つしかないと主張する。他のスペアは過去に紛失してないのだと言う。なにか問題があるのかと聞くので、鍵が合ったと言うことはその場では言わずに、部屋に帰ってビラのマネージャに連絡した。マネージャが来るまでの間に、件のスタッフは、ノックもせずに彼の部屋の前の庭に入ってきて、部屋の中を伺うような雰囲気があったという。
マネージャがやってきたが、彼も部屋の鍵は一つしかないと繰り返す。まことにおかしな話だが、論理的に考えると、この20分の間に入れるのは、スタッフしかいない。置き忘れた鍵は、コピーではなくオリジナルで、何かの意図で、紛失したことにして隠し持っていたと思われる。出来心で侵入したというより、かねてから、その鍵で何度も侵入を繰り返していたことが伺える。
机の中の財布などはそのままだったというが、中身がいくらあったかまでは覚えていないので、いくらか抜かれていても気がつかない。はっきりと盗まれたと言えないのだが、侵入しているのは確かだ。スタッフなのだから点検の為に入ったと言えばそれで一応の説明にはなる(実はならない。このスタッフは入るときに必ず、了承を得て入ってくる習慣があるので、よほど緊急事態でも無い限り、苦しいいい訳になる)のだが、キーを密かに隠し持っていたことが発覚するので部屋に入ったことを否定するのだろうと知り合いは語っていた。
事が事だけに、ビラのオーナーにも連絡して説明したという。ところが、このオーナー氏いわく、今までないとされていたキーが突如、部屋の中に置き忘れていた事に対して、腰を抜かすほど、とんでもない事を言ったという。「マジックだよ、それは」と真顔で答えたという。あっけにとられていると、オーナー氏は自らの紛失体験をとうとうとしゃべりだし、「ここはバリだから、マジックはあるのだ」と断定した。つまり、マジックでどこからともなく、過去に紛失したと思われていたキーが部屋に飛んできたのか現出したのか、とにかくそのノートの上に現れたという。
なるほど、その説明が成り立つなら、警察はいらないねと知り合いは心の中で毒づいたそうな。
教訓1 どんなに信頼しているホテル、ビラでも、スタッフでも、警戒は常におこたるな。滞在期間が長くなってきて、安心しだした頃が危険なのだ。
教訓2 バリのような土地では、論理的な思考をするとは限らない。すべてマジックでかたづける癖がある。マジックだといえば、いい訳になる思考回路がどうもあるらしい。
教訓3 ホテル、ビラの鍵などの管理はでたらめだと認識すべし。スペアキーを紛失しようが、鍵を取り替えるなどは通常しない。したがって、本来的な鍵の役目をしていない。そのつもりで所持品、身の安全を考えるべき。