「馬場あき子の✿さくら」
✿さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり 馬場あき子
さくらを見ればこの歌をおもう。馬場あき子の歌としてよく取り上げられるが、ご本人は「私にはもっといい歌があるのに」だろうか あるいは「この歌こそ私の会心の作」だろうか。1999年に刊行された岩波現代短歌辞典の「桜」の項目に馬場あき子が2頁にわたり、さくらの歌について解説している。その中に自身のこの「さくら花」の歌を引用している。
「日本人の文化史・精神史の中で大きな位置を占める花として、桜は日本を代表する花である」 これは馬場あき子の解説の冒頭の言葉である。「桜の花に寄せるめでたさの気分は、桜が農事の吉凶を占う花として関心を引くものであったからだ。「咲く」ことと共に「散る」ことに注目されていたのはそのためであろう。『古今和歌集』の時代になると都の花に。
✿世の中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平
✿花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに 小野小町
✿さくら花ちりぬるかぜのなごりには水なき空に浪ぞたちける 紀貫之
これらの歌はその後のさまざまな桜の歌の原点となる要素があると馬場は述べている。「現代短歌が再び短歌をうたうようになったのは、戦後かなりの歳月を経てからのことだ」
✿ふぶきくる桜のもとに思ふこと押しなべて暗したたかひの惨 岡野弘彦
✿雨の谿間の小学校の桜花昭和一けたなみだぐましも 岡井隆
✿さくらばな陽に泡立つを目守りいゐるこの冥き遊星に人と生まれて 山中智恵子
※ 今がさくらの旬だというのに花見には行かぬわが夫、それぞれの春
3月30日 さくら満開 松井多絵子
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます